馬の文献:内毒素血症(Toth et al. 2010)
文献 - 2015年09月23日 (水)
「馬の内毒素誘発性のブドウ糖とインスリンの動態変化に対するデキサメサゾンおよびレボチロキシンの前処置効果」
Tóth F, Frank N, Geor RJ, Boston RC. Effects of pretreatment with dexamethasone or levothyroxine sodium on endotoxin-induced alterations in glucose and insulin dynamics in horses. Am J Vet Res. 2010; 71(1): 60-68.
この研究論文では、馬の内毒素誘発性(Endotoxin-induced)のブドウ糖とインスリン動態変化(Alterations in glucose and insulin dynamics)に対する、デキサメサゾン(Dexamethasone)およびレボチロキシン(Levothyroxine)の治療効果を評価するため、24頭の実験馬において、デキサメサゾンまたはレボチロキシンの経口投与による前処置(Pretreatment)の後に、リポ多糖類(Lipopolysaccharide)の投与によって実験的な内毒素血症状態(Experimental endotoxic condition)を作り出し、その投与前後におけるブドウ糖負荷試験(Glucose tolerance test)によって、血中のブドウ糖およびインスリン濃度の測定が行われました。
結果としては、リポ多糖類の投与によって、対照郡(Control group)の馬では63%、デキサメサゾン投与馬では71%のインスリン感受性の低下(Decrease in insulin sensitivity)が起こったのに対して、レボチロキシン投与馬では、リポ多糖類の投与に伴うインスリン感受性の変化は認められませんでした。このため、疝痛馬の治療に際しては、レボチロキシンの投与によって、内毒素誘発性のインスリン抵抗性(Endotoxemia-induced insulin resistance)の発現を予防できる可能性があることが示唆されました。
一般的に、馬におけるインスリン抵抗性は、肥満(Obesity)、クッシング病(Cushing’s disease)、デキサメサゾン投与などの際に認められ、蹄葉炎(Laminitis)や不妊症(Infertility)を発症する要因になりうることが知られています。一方、近年では内毒素血症(Endotoxemia)の罹患馬においても、一過性のインスリン感受性の低下(Transient insulin resistance)が起こることが明らかになっており(Treiber et al. JAVMA. 2006;228:1538)、様々なタイプの疝痛馬において重要な合併症である、蹄葉炎の続発に深く関わっている可能性が示唆されています(Toth et al. AJVR. 2008;69:82)。
レボチロキシンは、甲状腺ホルモンであるサイロキシンの合成製剤(Synthetic formulation of thyroxine)で、馬においてもインスリン感受性を向上させる効能が報告されています(Frank et al. AJVR. 2008;69:76)。そして、この研究報告では、実験的な内毒素血症の馬においても、インスリン動態の回復効果(Ameliorating effect of insulin dynamics)が期待されるという結果が示されたことから、今後の研究では、疝痛の臨床症例への投与試験を介して、実際にインスリン感受性の保持(Preservation of insulin sensitivity)や、蹄葉炎の発症率低下(Decrease in laminitis incidence)が達成されるのかを評価する必要があると考えられました。
この研究では、前処置期間中において、デキサメサゾン投与馬が最も顕著なインスリン感受性の低下を示し、また、その効果はリポ多糖類の投与によって、さらに悪化(Exacerbation)する傾向が見られました。これは、インスリン抵抗性を発現するというデキサメサゾンの副作用が、内毒素血症の馬ではさらに増長されることを示したデータであると言えます。このため、様々な種類の皮膚病や、馬回帰性ブドウ膜炎(Equine recurrent uveitis)、回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(=息労)の罹患馬など、デキサメサゾンの長期投与が行われている馬が疝痛を起こした場合には、インスリン感受性の低下から蹄葉炎の合併症を起こす危険が高いことを考慮して、積極的な予防的処置を講じることが重要である、という考察がなされています。
この研究では、前処置期間の前後に実施されたブドウ糖負荷試験の結果を比較した場合に、対照郡の馬においても、(デキサメサゾン投与馬ほどではありませんが)インスリン感受性の低下を起こした、というデータが示されました。これは、放牧飼いから厩舎飼いという飼養環境の大きな変化そのものが、青草摂取量の減少、運動量の低下、ストレス増加などの要因につながって、ある程度のインスリン抵抗性を引き起こす結果につながったためと考察されています。このため、実際の疝痛馬の診療においては、放牧飼養されていた馬が、疝痛によって入院生活に移行すること自体が、インスリン動態に悪影響を与えて、蹄葉炎を続発する一つの病因になりうることを、常に考慮する必要があると言えるのかもしれません。
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この研究論文では、馬の内毒素誘発性(Endotoxin-induced)のブドウ糖とインスリン動態変化(Alterations in glucose and insulin dynamics)に対する、デキサメサゾン(Dexamethasone)およびレボチロキシン(Levothyroxine)の治療効果を評価するため、24頭の実験馬において、デキサメサゾンまたはレボチロキシンの経口投与による前処置(Pretreatment)の後に、リポ多糖類(Lipopolysaccharide)の投与によって実験的な内毒素血症状態(Experimental endotoxic condition)を作り出し、その投与前後におけるブドウ糖負荷試験(Glucose tolerance test)によって、血中のブドウ糖およびインスリン濃度の測定が行われました。
結果としては、リポ多糖類の投与によって、対照郡(Control group)の馬では63%、デキサメサゾン投与馬では71%のインスリン感受性の低下(Decrease in insulin sensitivity)が起こったのに対して、レボチロキシン投与馬では、リポ多糖類の投与に伴うインスリン感受性の変化は認められませんでした。このため、疝痛馬の治療に際しては、レボチロキシンの投与によって、内毒素誘発性のインスリン抵抗性(Endotoxemia-induced insulin resistance)の発現を予防できる可能性があることが示唆されました。
一般的に、馬におけるインスリン抵抗性は、肥満(Obesity)、クッシング病(Cushing’s disease)、デキサメサゾン投与などの際に認められ、蹄葉炎(Laminitis)や不妊症(Infertility)を発症する要因になりうることが知られています。一方、近年では内毒素血症(Endotoxemia)の罹患馬においても、一過性のインスリン感受性の低下(Transient insulin resistance)が起こることが明らかになっており(Treiber et al. JAVMA. 2006;228:1538)、様々なタイプの疝痛馬において重要な合併症である、蹄葉炎の続発に深く関わっている可能性が示唆されています(Toth et al. AJVR. 2008;69:82)。
レボチロキシンは、甲状腺ホルモンであるサイロキシンの合成製剤(Synthetic formulation of thyroxine)で、馬においてもインスリン感受性を向上させる効能が報告されています(Frank et al. AJVR. 2008;69:76)。そして、この研究報告では、実験的な内毒素血症の馬においても、インスリン動態の回復効果(Ameliorating effect of insulin dynamics)が期待されるという結果が示されたことから、今後の研究では、疝痛の臨床症例への投与試験を介して、実際にインスリン感受性の保持(Preservation of insulin sensitivity)や、蹄葉炎の発症率低下(Decrease in laminitis incidence)が達成されるのかを評価する必要があると考えられました。
この研究では、前処置期間中において、デキサメサゾン投与馬が最も顕著なインスリン感受性の低下を示し、また、その効果はリポ多糖類の投与によって、さらに悪化(Exacerbation)する傾向が見られました。これは、インスリン抵抗性を発現するというデキサメサゾンの副作用が、内毒素血症の馬ではさらに増長されることを示したデータであると言えます。このため、様々な種類の皮膚病や、馬回帰性ブドウ膜炎(Equine recurrent uveitis)、回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(=息労)の罹患馬など、デキサメサゾンの長期投与が行われている馬が疝痛を起こした場合には、インスリン感受性の低下から蹄葉炎の合併症を起こす危険が高いことを考慮して、積極的な予防的処置を講じることが重要である、という考察がなされています。
この研究では、前処置期間の前後に実施されたブドウ糖負荷試験の結果を比較した場合に、対照郡の馬においても、(デキサメサゾン投与馬ほどではありませんが)インスリン感受性の低下を起こした、というデータが示されました。これは、放牧飼いから厩舎飼いという飼養環境の大きな変化そのものが、青草摂取量の減少、運動量の低下、ストレス増加などの要因につながって、ある程度のインスリン抵抗性を引き起こす結果につながったためと考察されています。このため、実際の疝痛馬の診療においては、放牧飼養されていた馬が、疝痛によって入院生活に移行すること自体が、インスリン動態に悪影響を与えて、蹄葉炎を続発する一つの病因になりうることを、常に考慮する必要があると言えるのかもしれません。
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