馬の文献:十二指腸近位空腸炎(Cornick et al. 1990)
文献 - 2015年09月24日 (木)
「馬の十二指腸近位空腸炎における心不整脈:1985~1988年の六症例」
Cornick JL, Seahorn TL. Cardiac arrhythmias identified in horses with duodenitis/proximal jejunitis: six cases (1985-1988). J Am Vet Med Assoc. 1990; 197(8): 1054-1059.
この症例論文では、心不整脈(Cardiac arrhythmia)を呈した六頭の十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)の罹患馬における、臨床所見、血液検査所見、剖検所見などから、十二指腸近位空腸炎と心不整脈の因果関係および予後の評価が行われました。
この研究では、67頭の十二指腸近位空腸炎の来院症例のうち、六頭(9%)において心不整脈が確認され、そのうち二頭が予後不良を呈し安楽死(Euthanasia)が選択されました。この二頭の症例の剖検では、心筋線維症(Myocardial fibrosis)や多巣性心筋変性(Multifocal myocardial degeneration)が認められ、また、心不整脈を起こした十二指腸近位空腸炎の罹患馬は、心不整脈を起こさなかった十二指腸近位空腸炎の罹患馬に比べて、血清重炭酸イオン濃度(Serum HCO3 ceoncentration)およびクレアチンキナーゼ活性(Creatine kinase)の有意な上昇が見られました。これらの結果から、重篤な電解質不均衡(Severe electrolyte imbalance)を呈した十二指腸近位空腸炎の患馬では、心筋の変性や線維症から心不整脈を続発して、予後不良となる場合もありうることが示されました。しかし、この二頭の馬の剖検所見は慢性的な病態を示したことから、重篤な心不整脈に至る症例では既存心疾患(Preexisting cardiac disease)が存在していた可能性も否定できないという考察がなされています。
この研究では、心不整脈を起こした六頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬は、いずれも入院から24時間以内に心不整脈の発生が確認され、そのタイプとしては、早発性心室性脱分極(Premature ventricular depolarizations)、第二度房室ブロック(Second-degree atrioventricular block)、心室補充脱分極を伴う房室伝導撹乱(Atrioventricular conduction disturbance with ventricular escape depolarizations)などが計測されました。このため、血液検査で顕著な異常所見が示された症例においては、初診時の心電図検査による不整脈の除外診断が有用である場合もあると考えられました。
この研究では、心不整脈を起こした十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、生存した四頭においては、経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)による脱水および電解質不均衡の補正、経鼻カテーテルの留置(Indwelling nasogastric tube)による胃除圧(Gastric decompression)、抗生物質および抗炎症剤の全身性投与(Systemic administration of antibiotics/anti-inflammatory drugs)などが行われ、治療開始から三日~五日で不整脈の消失が確認されました。一方、安楽死となった二頭においては、リドカイン、キニジン、グルコン酸カルシウム等の投与が試みられましたが、心不整脈の消失は達成されませんでした。このため、心不整脈を併発した十二指腸近位空腸炎の症例では、初期治療への反応性が予後判定(Prognostication)の指標になる可能性があると考えられました。
この研究では、心不整脈を起こした十二指腸近位空腸炎の罹患馬の一頭において、クレアチンキナーゼのアイソエンザイム解析が試みられ、CK-BB(CK1)は15%(正常値19%)であまり変化なし、CK-MB(CK2)は13%(正常値2%)で顕著な上昇、CK-MM(CK3)は72%(正常値79%)であまり変化なし、という検査結果が示されました。一般的に、脳および平滑筋ではCK-BB、心筋ではCK-MB、骨格筋ではCK-MMが含まれる量が多いことから、CK-MB値の上昇は心筋異常を示すデータであると考えられます。しかし、馬におけるCK-MB値の上昇は、消化器疾患においても頻繁に認められ、急性心筋損傷(Acute myocardial damage)を探知する指標としてはあまり感度が高くないことが報告されています。このため、十二指腸近位空腸炎の罹患馬において、CK-MB測定を介しての心筋損傷モニタリングの有用性については、さらなる検証を要すると考察されています。
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この研究では、心不整脈を起こした六頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬は、いずれも入院から24時間以内に心不整脈の発生が確認され、そのタイプとしては、早発性心室性脱分極(Premature ventricular depolarizations)、第二度房室ブロック(Second-degree atrioventricular block)、心室補充脱分極を伴う房室伝導撹乱(Atrioventricular conduction disturbance with ventricular escape depolarizations)などが計測されました。このため、血液検査で顕著な異常所見が示された症例においては、初診時の心電図検査による不整脈の除外診断が有用である場合もあると考えられました。
この研究では、心不整脈を起こした十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、生存した四頭においては、経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)による脱水および電解質不均衡の補正、経鼻カテーテルの留置(Indwelling nasogastric tube)による胃除圧(Gastric decompression)、抗生物質および抗炎症剤の全身性投与(Systemic administration of antibiotics/anti-inflammatory drugs)などが行われ、治療開始から三日~五日で不整脈の消失が確認されました。一方、安楽死となった二頭においては、リドカイン、キニジン、グルコン酸カルシウム等の投与が試みられましたが、心不整脈の消失は達成されませんでした。このため、心不整脈を併発した十二指腸近位空腸炎の症例では、初期治療への反応性が予後判定(Prognostication)の指標になる可能性があると考えられました。
この研究では、心不整脈を起こした十二指腸近位空腸炎の罹患馬の一頭において、クレアチンキナーゼのアイソエンザイム解析が試みられ、CK-BB(CK1)は15%(正常値19%)であまり変化なし、CK-MB(CK2)は13%(正常値2%)で顕著な上昇、CK-MM(CK3)は72%(正常値79%)であまり変化なし、という検査結果が示されました。一般的に、脳および平滑筋ではCK-BB、心筋ではCK-MB、骨格筋ではCK-MMが含まれる量が多いことから、CK-MB値の上昇は心筋異常を示すデータであると考えられます。しかし、馬におけるCK-MB値の上昇は、消化器疾患においても頻繁に認められ、急性心筋損傷(Acute myocardial damage)を探知する指標としてはあまり感度が高くないことが報告されています。このため、十二指腸近位空腸炎の罹患馬において、CK-MB測定を介しての心筋損傷モニタリングの有用性については、さらなる検証を要すると考察されています。
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