馬の文献:十二指腸近位空腸炎(Arroyo et al. 2006)
文献 - 2015年09月25日 (金)
「馬の十二指腸近位空腸炎の病原としてのClostridium difficile菌の可能性」
Arroyo LG, Stämpfli HR, Weese JS. Potential role of Clostridium difficile as a cause of duodenitis-proximal jejunitis in horses. J Med Microbiol. 2006; 55(5): 605-608.
この症例論文では、馬の十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)の発症に、Clostridium difficile菌が関与するか否かを評価するため、10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬および16頭の対照馬における、経鼻カテーテルによる胃逆流液(Nasogastric reflux)の細菌培養(Bacterial culture)が行われました。この研究における対照郡では、開腹術によって十二指腸近位空腸炎を発症していないことが確認された馬のみ含まれました。
結果としては、10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬では、その全頭においてC. difficile菌が分離されたのに対して(保菌率100%)、16頭の対照馬では、そのうち一頭のみにおいてC. difficile菌が分離されました(保菌率6%)。このため、十二指腸近位空腸炎の罹患馬は有意に高いC. difficileの保菌率を示し、馬の十二指腸近位空腸炎の発症には、C. difficile菌の増殖および定着(Proliferation/Colorization)が関与する可能性が示唆されました。しかし、菌の分離は必ずしも病気との因果関係(Causality)を証明するものではないため、小腸の炎症が二次的なC. difficile菌増殖を誘導したり、対照郡である他の疝痛馬においてC. difficile菌の生存が抑制されていた可能性は否定できないと考えられます。
この研究では、10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、三頭が下痢(Diarrhea)の症状を呈して、糞便検体からもC. difficile菌が分離されました。しかし、この三頭を含む十二指腸近位空腸炎の罹患馬の全頭において、糞便からサルモネラ菌の分離は認められませんでした。このため、胃逆流液から分離されたC. difficile菌は偶発的結果(Incidental finding)ではなく、実際に小腸病態に関与している可能性が強く示唆され、また、他の文献で述べられている、サルモネラ菌が馬の十二指腸近位空腸炎の病原になるという仮説は証明されませんでした。
人間および実験動物では、C. difficile菌の感染によって、小腸平滑筋(Small intestinal smooth muscle)の電気機械的撹乱(Electromechanical disturbance)を生じ、胃および小腸への液体貯留(Fluid accumulation in stomach and small intestial)を引き起こすことが示されており、同様の病態発現が馬の十二指腸近位空腸炎の病因に関与するという考察がなされています。しかし、この研究における10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬からは、人間および実験動物のC. difficile菌感染ではあまり認められない、毒素Aと毒素Bの両方を産生する菌、もしくは毒素Bのみを産生する菌が分離されていることから、C. difficile菌の感染から小腸炎症を呈するメカニズムは、馬と他の動物種では必ずしも同一ではない可能性もあります。
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この症例論文では、馬の十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)の発症に、Clostridium difficile菌が関与するか否かを評価するため、10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬および16頭の対照馬における、経鼻カテーテルによる胃逆流液(Nasogastric reflux)の細菌培養(Bacterial culture)が行われました。この研究における対照郡では、開腹術によって十二指腸近位空腸炎を発症していないことが確認された馬のみ含まれました。
結果としては、10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬では、その全頭においてC. difficile菌が分離されたのに対して(保菌率100%)、16頭の対照馬では、そのうち一頭のみにおいてC. difficile菌が分離されました(保菌率6%)。このため、十二指腸近位空腸炎の罹患馬は有意に高いC. difficileの保菌率を示し、馬の十二指腸近位空腸炎の発症には、C. difficile菌の増殖および定着(Proliferation/Colorization)が関与する可能性が示唆されました。しかし、菌の分離は必ずしも病気との因果関係(Causality)を証明するものではないため、小腸の炎症が二次的なC. difficile菌増殖を誘導したり、対照郡である他の疝痛馬においてC. difficile菌の生存が抑制されていた可能性は否定できないと考えられます。
この研究では、10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、三頭が下痢(Diarrhea)の症状を呈して、糞便検体からもC. difficile菌が分離されました。しかし、この三頭を含む十二指腸近位空腸炎の罹患馬の全頭において、糞便からサルモネラ菌の分離は認められませんでした。このため、胃逆流液から分離されたC. difficile菌は偶発的結果(Incidental finding)ではなく、実際に小腸病態に関与している可能性が強く示唆され、また、他の文献で述べられている、サルモネラ菌が馬の十二指腸近位空腸炎の病原になるという仮説は証明されませんでした。
人間および実験動物では、C. difficile菌の感染によって、小腸平滑筋(Small intestinal smooth muscle)の電気機械的撹乱(Electromechanical disturbance)を生じ、胃および小腸への液体貯留(Fluid accumulation in stomach and small intestial)を引き起こすことが示されており、同様の病態発現が馬の十二指腸近位空腸炎の病因に関与するという考察がなされています。しかし、この研究における10頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬からは、人間および実験動物のC. difficile菌感染ではあまり認められない、毒素Aと毒素Bの両方を産生する菌、もしくは毒素Bのみを産生する菌が分離されていることから、C. difficile菌の感染から小腸炎症を呈するメカニズムは、馬と他の動物種では必ずしも同一ではない可能性もあります。
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