馬の文献:十二指腸近位空腸炎(Cohen et al. 2006)
文献 - 2015年09月26日 (土)

「十二指腸近位空腸炎と給餌様式には関係があるのか?」
Cohen ND, Toby E, Roussel AJ, Murphey EL, Wang N. Are feeding practices associated with duodenitis-proximal jejunitis? Equine Vet J. 2006; 38(6): 526-531.
この症例論文では、馬の十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)の発症に、給餌様式(Feeding practices)の違いが関与しているのか否かを評価するため、70頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬の診療記録(Medical records)の解析が行われました。また、この研究では、153頭の他の種類の疝痛による来院馬、および108頭の跛行(Lameness)による来院馬を対照郡(Control groups)として診療記録を比較して、十二指腸近位空腸炎の発現に関する危険因子(Risk factors)の検証も試みられました。
結果としては、十二指腸近位空腸炎の罹患馬では、対照郡と比較して、濃縮飼料(Concentrate feed)を給餌されていたり、牧草地への放牧(Pasture grazing)が行われている割合が有意に高く、これらの給餌様式が十二指腸近位空腸炎の発症の危険因子となる可能性が示されました。しかし、対照郡と比べた場合のオッズ比は、濃縮飼料が給餌されていた場合には1.3~1.6で、牧草地への放牧が行われていた場合には3.5~4.0と、いずれにおいても、十二指腸近位空腸炎を起こす可能性がそれほど高くなるという結果は示されておらず、これらの病歴から十二指腸近位空腸炎を疑ったり推定診断(Presumptive diagnosis)の指標とする十分な根拠は確認されませんでした。
この研究では、濃縮飼料の給餌量は、十二指腸近位空腸炎の罹患馬では平均4.1kg、対照の疝痛馬では平均2.7kg、対照の跛行馬では平均2.7kgと、三つのグループ間には有意差は認められず、濃縮飼料を十二指腸近位空腸炎の罹患因子(Predisposing factor)とするほど強い証拠は認められず、また、濃縮飼料の給餌が十二指腸近位空腸炎を引き起こすメカニズムに関しても、明瞭な考察は行われていません。このことから、十二指腸近位空腸炎の予防のため、もしくは十二指腸近位空腸炎による疝痛を起こした馬における再発予防のために、濃縮飼料の給餌を減少または停止するという方針を支持する十分なデータは示されていません。
この研究では、牧草地への放牧が行われていた馬の割合は、十二指腸近位空腸炎の罹患馬では50%(35/70頭)、対照の疝痛馬では24%(37/153頭)、対照の跛行馬では23%(25/108頭)と、三つのグループ間で比較的に顕著な差異が認められました。牧草地への放牧が十二指腸近位空腸炎を引き起こすメカニズムに関しては、毒性物質もしくは感染性病原体(Topic/Infectious agents)の関与が示唆されていますが、具体的な危険因子の特定には至っておらず、その考察も行われていません。今後の研究では、十二指腸近位空腸炎の罹患馬の飼養環境を調査して、病原の特定を行うことが重要であると考えられます。
この研究では、牝馬が占める割合は、十二指腸近位空腸炎の罹患馬のほうが、跛行の来院馬よりも高く、性別が罹患因子になりうるという結果が示されました。しかし、このデータは、跛行馬に占める種牡馬および去勢馬の割合が多かったことを反映していると考えられ、また、牝馬において十二指腸近位空腸炎が好発するメカニズムに関しても、医学的な考察は行われていません。
この論文に関する最大の問題点は、疝痛や跛行などの他の来院馬を対照郡としている点で、この条件では、十二指腸近位空腸炎の危険を増す因子と、疝痛や跛行の危険を減らす因子との見分けはできません。例えば、牧草地への放牧を罹患因子とするデータについても、「牧草地への放牧によって十二指腸近位空腸炎を発症しやすくなる」という見方もできれば、「常に舎飼いされている馬のほうが綿密なケアーがされていて疝痛や跛行の発症率が低い」という解釈もできます。そのため、今後の研究では、正常馬を対照郡とするデータ解析を行ったり、給仕様式の異なる牧場ごとに十二指腸近位空腸炎の発症率(Incident)や有病率(Prevalence)の評価を行うことが重要であると考えられました。
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