馬の文献:十二指腸近位空腸炎(Underwood et al. 2008)
文献 - 2015年09月26日 (土)
「馬の十二指腸近位空腸炎における内科的および外科的治療による合併症と生存率」
Underwood C, Southwood LL, McKeown LP, Knight D. Complications and survival associated with surgical compared with medical management of horses with duodenitis-proximal jejunitis. Equine Vet J. 2008; 40(4): 373-378.
この症例論文では、馬の十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)における、内科的および外科的治療による合併症(Complication)と生存率(Survival rate)を評価するため、1995~2006年における120頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬の診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、外科治療馬のほうが内科治療馬に比べて、有意に多量で長期間におよぶ胃逆流液(Nasogastric reflux)の排出が見られ、また、入院期間は外科治療馬と内科治療馬では有意差は認められませんでした。このため、十二指腸近位空腸炎の罹患馬においては、外科的治療によって胃逆流液の排出を早期に軽減するという治療効果の裏付けは示されませんでした。しかし、十二指腸近位空腸炎と小腸通過障害(Small intestinal obstruction)の見分けが困難な症例においては、探索的開腹術(Exploratory celiotomy)を行うことで両疾患の鑑別診断を下すという診療指針は有効であると考察されています。
この研究では、内科治療に不応性(Refractory)を示した症例に対して、開腹術(Laparotomy)による外科的治療が選択されており、内科的治療のみが行われたのは88頭、内科的治療後に外科的治療が応用されたのは32頭で、また、外科的治療は平均して入院から36時間後に実施されていました。このため、外科治療が選択された患馬の胃逆流液量(平均118リットル)は、内科治療のみが行われた患馬の胃逆流液量(平均56リットル)よりも有意に多く、外科治療馬のほうがより重篤な病態を呈したという、診療指針を決定する上での偏向(Bias)を生じたと考えられました。
この研究では、内科治療馬では91%の生存率(80/88頭)が達成されたのに対して、外科治療馬では75%の生存率(24/32頭)にとどまりました。これは、外科治療の実施が安楽死(Euthanasia)の危険を高めたというよりも、外科治療を要するほど病態が悪化した症例においては、内科治療による治癒が期待できるほど軽度の病態を示した症例よりも、予後不良を呈する可能性が高かった傾向を示したデータであると考えられます。一般的に、回顧的なデータ解析(Retrospective data analysis)に基づく治療効果の評価では、治療法を無作為に選択(Random selection)したり、治療郡と対照郡の病気の重篤度を標準化(Standardization)することが出来ないため、この症例報告における外科的治療のように、よりアグレッシブで高価な療法の治療効果を統計的に証明するのは困難な場合が多いことが知られています。
この研究では、合併症として下痢(Diarrhea)の症状を呈したのは、内科治療馬では13%、外科治療馬では28%であったことが報告されています。しかし、これは、十二指腸近位空腸炎に対する外科治療の欠点というよりも、外科治療を要するほど経過が長引いた症例においては、重度の消化管炎症の波及が生じて、術後の下痢発現につながったためと推測されています。また、外科治療が応用された十二指腸近位空腸炎の罹患馬における、術創感染(Incisional infection)の発症率は16%で、対照郡(Control group)である他の疝痛症例における術創感染の発症率(7%)よりもやや高かったものの、双方のあいだに有意差は認められませんでした。
この研究では、十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、非生存馬(Nonsurvivors)のほうが生存馬(Survivors)に比べて、入院時心拍数(Heart rate at admission)、ヘマトクリット値、クレアチニン値、腹水白血球数、腹水蛋白濃度、などが有意に高いことが示されました。また、外科治療が応用された馬においても、非生存馬のほうが生存馬に比べて、有意に多量の胃逆流液、および有意に長期間にわたる胃逆流液の排出が確認されました。このことから、十二指腸近位空腸炎の診療に際しては、内科的および外科的治療の双方において、臨床所見、血液検査所見、および、腹水検査(Abdominocentesis)の結果などが、予後判定(Prognostication)の指標として有用である可能性が示唆されました。
この研究では、120頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、蹄葉炎(Laminitis)の合併症を呈したのは九頭のみでしたが(発症率7.5%)、他の文献においては、十二指腸近位空腸炎のうち三割近くが蹄葉炎を発症したという報告もあります(Cohen et al. 1994)。これは、症例の選抜指針(Inclusion criteria)の違いによると推測されており、上述の文献では、十二指腸近位空腸炎と他の種類の疝痛との誤診を防ぐため、軽度の病態を示した十二指腸近位空腸炎の症例は除外されており、この結果、蹄葉炎を続発した症例の割合が比較的に多くなったという考察がなされています。
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この症例論文では、馬の十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)における、内科的および外科的治療による合併症(Complication)と生存率(Survival rate)を評価するため、1995~2006年における120頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬の診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、外科治療馬のほうが内科治療馬に比べて、有意に多量で長期間におよぶ胃逆流液(Nasogastric reflux)の排出が見られ、また、入院期間は外科治療馬と内科治療馬では有意差は認められませんでした。このため、十二指腸近位空腸炎の罹患馬においては、外科的治療によって胃逆流液の排出を早期に軽減するという治療効果の裏付けは示されませんでした。しかし、十二指腸近位空腸炎と小腸通過障害(Small intestinal obstruction)の見分けが困難な症例においては、探索的開腹術(Exploratory celiotomy)を行うことで両疾患の鑑別診断を下すという診療指針は有効であると考察されています。
この研究では、内科治療に不応性(Refractory)を示した症例に対して、開腹術(Laparotomy)による外科的治療が選択されており、内科的治療のみが行われたのは88頭、内科的治療後に外科的治療が応用されたのは32頭で、また、外科的治療は平均して入院から36時間後に実施されていました。このため、外科治療が選択された患馬の胃逆流液量(平均118リットル)は、内科治療のみが行われた患馬の胃逆流液量(平均56リットル)よりも有意に多く、外科治療馬のほうがより重篤な病態を呈したという、診療指針を決定する上での偏向(Bias)を生じたと考えられました。
この研究では、内科治療馬では91%の生存率(80/88頭)が達成されたのに対して、外科治療馬では75%の生存率(24/32頭)にとどまりました。これは、外科治療の実施が安楽死(Euthanasia)の危険を高めたというよりも、外科治療を要するほど病態が悪化した症例においては、内科治療による治癒が期待できるほど軽度の病態を示した症例よりも、予後不良を呈する可能性が高かった傾向を示したデータであると考えられます。一般的に、回顧的なデータ解析(Retrospective data analysis)に基づく治療効果の評価では、治療法を無作為に選択(Random selection)したり、治療郡と対照郡の病気の重篤度を標準化(Standardization)することが出来ないため、この症例報告における外科的治療のように、よりアグレッシブで高価な療法の治療効果を統計的に証明するのは困難な場合が多いことが知られています。
この研究では、合併症として下痢(Diarrhea)の症状を呈したのは、内科治療馬では13%、外科治療馬では28%であったことが報告されています。しかし、これは、十二指腸近位空腸炎に対する外科治療の欠点というよりも、外科治療を要するほど経過が長引いた症例においては、重度の消化管炎症の波及が生じて、術後の下痢発現につながったためと推測されています。また、外科治療が応用された十二指腸近位空腸炎の罹患馬における、術創感染(Incisional infection)の発症率は16%で、対照郡(Control group)である他の疝痛症例における術創感染の発症率(7%)よりもやや高かったものの、双方のあいだに有意差は認められませんでした。
この研究では、十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、非生存馬(Nonsurvivors)のほうが生存馬(Survivors)に比べて、入院時心拍数(Heart rate at admission)、ヘマトクリット値、クレアチニン値、腹水白血球数、腹水蛋白濃度、などが有意に高いことが示されました。また、外科治療が応用された馬においても、非生存馬のほうが生存馬に比べて、有意に多量の胃逆流液、および有意に長期間にわたる胃逆流液の排出が確認されました。このことから、十二指腸近位空腸炎の診療に際しては、内科的および外科的治療の双方において、臨床所見、血液検査所見、および、腹水検査(Abdominocentesis)の結果などが、予後判定(Prognostication)の指標として有用である可能性が示唆されました。
この研究では、120頭の十二指腸近位空腸炎の罹患馬のうち、蹄葉炎(Laminitis)の合併症を呈したのは九頭のみでしたが(発症率7.5%)、他の文献においては、十二指腸近位空腸炎のうち三割近くが蹄葉炎を発症したという報告もあります(Cohen et al. 1994)。これは、症例の選抜指針(Inclusion criteria)の違いによると推測されており、上述の文献では、十二指腸近位空腸炎と他の種類の疝痛との誤診を防ぐため、軽度の病態を示した十二指腸近位空腸炎の症例は除外されており、この結果、蹄葉炎を続発した症例の割合が比較的に多くなったという考察がなされています。
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