馬の文献:回腸便秘(Embertson et al. 1985)
文献 - 2015年09月27日 (日)
「馬の回腸便秘」
Embertson RM, Colahan PT, Brown MP, Peyton LC, Schneider RK, Granstedt ME. Ileal impaction in the horse. J Am Vet Med Assoc. 1985; 186(6): 570-572.
この症例論文では、馬の回腸便秘(Ileal impaction)の症状、診断法、外科療法の治療効果、およびその予後を評価するため、1979~1982年における12頭の回腸便秘の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究では、174頭の全疝痛来院馬のうち回腸便秘は6.9%を占め(12/174頭)、また、六月~十一月の期間に来院したのは、回腸便秘の罹患馬では83%に上り、同期間に他の疝痛馬が来院した割合(54%)よりも顕著に高い傾向が示されました。回腸便秘の病因としては、繊維質含量の高い飼料の給餌や、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)の摂食が上げられており、このような飼料内容の変動に起因して、回腸便秘が好発する季節性の傾向が認められた可能性があると推測されます。
この研究では、回腸便秘の罹患馬における疝痛症状の長さは10~29時間(平均17時間)、心拍数(Heart rate)は44~100/min(平均70/min)で、その殆どで軽度の腹痛症状(Mild signs of abdominal pain)が認められ(10/12頭)、また、経鼻カテーテルからの胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)は3~10Lでした。血液検査所見(PCV、蛋白濃度、白血球数)はいずれも非特異的で、腹水検査(Abdominocentesis)において蛋白濃度の上昇(>2.5g/dL)や白血球数の増加(>4000/uL)を呈したのは三頭のみでした。一方、直腸検査(Rectal examination)では、回腸便秘の罹患馬の全頭で、小腸の膨満(Small intestinal distension)が認められましたが、どの馬においても便秘部位の触知は出来ませんでした。このことから、回腸便秘の診断においては、急性発現性(Acute onset)に重度の疝痛症状(Marked colic signs)や腹水性状の異常を示す小腸絞扼(Small intestinal strangulation)や、極めて多量の胃逆流液排出が見られる十二指腸近位空腸炎(Duodenitis proximal jejunitis)との鑑別は可能であり、単純性の小腸便秘(Simple obstruction of small intestine)を発症したという推定診断(Presumptive diagnosis)は比較的に容易であると考えられましたが、直腸検査による回腸便秘の確定診断(Definitive diagnosis)は難しいことが示唆されました。
この研究では、回腸便秘の罹患馬のうち83%(10/12頭)において、正中開腹術(Midline celiotomy)による回腸便秘の外科的整復が達成され、このうち八頭では、腸壁を介しての生食注入およびマッサージによる停滞腸内容物の遊離(Releasing impacted ingesta)が行われましたが、残りの二頭では遠位空腸切開術(Distal jejunotomy)を要しました。また、12頭の回腸便秘の罹患馬における、短期生存率(=退院した馬の割合)は66%(8/12頭)で、長期生存率(=半年以上生存した馬の割合)は58%(7/12頭)であったことが報告されています。このため、馬の回腸便秘では、開腹手術による外科的療法が有効であると考えられますが、術後には重度の合併症を呈して安楽死(Euthanasia)となる場合も多く、その予後は良好~中程度にとどまることが示唆されました。
この研究では、術前または術後に安楽死となった五頭の馬の剖検(Necropsy)が行われ、その死因としては、回腸通過障害に起因する胃破裂(Gastric rupture)、回腸盲腸境界部の穿孔(Perforation at ileocecal junction)、絞扼性の空腸捻転(Strangulating jejunal volvulus)、腸間膜脈管の血栓症(Mesenteric vascular thrombotic disease)、重度の腹腔内癒着(Severe intra-abdominal adhesion)などが確認されました。これらの多くは、早期の開腹術による回腸便秘部位の遊離が速やかに行われていれば、続発しなかったであろうと予測される病態であると考えられます。このため、回腸便秘が疑われる症例において、複数回の直腸検査で持続性の小腸膨満(Persistent small intestinal distension)が認められた場合には、内科的療法の継続は推奨されず、積極的な外科的療法に踏み切るべきである、という提唱がなされています。
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この症例論文では、馬の回腸便秘(Ileal impaction)の症状、診断法、外科療法の治療効果、およびその予後を評価するため、1979~1982年における12頭の回腸便秘の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究では、174頭の全疝痛来院馬のうち回腸便秘は6.9%を占め(12/174頭)、また、六月~十一月の期間に来院したのは、回腸便秘の罹患馬では83%に上り、同期間に他の疝痛馬が来院した割合(54%)よりも顕著に高い傾向が示されました。回腸便秘の病因としては、繊維質含量の高い飼料の給餌や、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)の摂食が上げられており、このような飼料内容の変動に起因して、回腸便秘が好発する季節性の傾向が認められた可能性があると推測されます。
この研究では、回腸便秘の罹患馬における疝痛症状の長さは10~29時間(平均17時間)、心拍数(Heart rate)は44~100/min(平均70/min)で、その殆どで軽度の腹痛症状(Mild signs of abdominal pain)が認められ(10/12頭)、また、経鼻カテーテルからの胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)は3~10Lでした。血液検査所見(PCV、蛋白濃度、白血球数)はいずれも非特異的で、腹水検査(Abdominocentesis)において蛋白濃度の上昇(>2.5g/dL)や白血球数の増加(>4000/uL)を呈したのは三頭のみでした。一方、直腸検査(Rectal examination)では、回腸便秘の罹患馬の全頭で、小腸の膨満(Small intestinal distension)が認められましたが、どの馬においても便秘部位の触知は出来ませんでした。このことから、回腸便秘の診断においては、急性発現性(Acute onset)に重度の疝痛症状(Marked colic signs)や腹水性状の異常を示す小腸絞扼(Small intestinal strangulation)や、極めて多量の胃逆流液排出が見られる十二指腸近位空腸炎(Duodenitis proximal jejunitis)との鑑別は可能であり、単純性の小腸便秘(Simple obstruction of small intestine)を発症したという推定診断(Presumptive diagnosis)は比較的に容易であると考えられましたが、直腸検査による回腸便秘の確定診断(Definitive diagnosis)は難しいことが示唆されました。
この研究では、回腸便秘の罹患馬のうち83%(10/12頭)において、正中開腹術(Midline celiotomy)による回腸便秘の外科的整復が達成され、このうち八頭では、腸壁を介しての生食注入およびマッサージによる停滞腸内容物の遊離(Releasing impacted ingesta)が行われましたが、残りの二頭では遠位空腸切開術(Distal jejunotomy)を要しました。また、12頭の回腸便秘の罹患馬における、短期生存率(=退院した馬の割合)は66%(8/12頭)で、長期生存率(=半年以上生存した馬の割合)は58%(7/12頭)であったことが報告されています。このため、馬の回腸便秘では、開腹手術による外科的療法が有効であると考えられますが、術後には重度の合併症を呈して安楽死(Euthanasia)となる場合も多く、その予後は良好~中程度にとどまることが示唆されました。
この研究では、術前または術後に安楽死となった五頭の馬の剖検(Necropsy)が行われ、その死因としては、回腸通過障害に起因する胃破裂(Gastric rupture)、回腸盲腸境界部の穿孔(Perforation at ileocecal junction)、絞扼性の空腸捻転(Strangulating jejunal volvulus)、腸間膜脈管の血栓症(Mesenteric vascular thrombotic disease)、重度の腹腔内癒着(Severe intra-abdominal adhesion)などが確認されました。これらの多くは、早期の開腹術による回腸便秘部位の遊離が速やかに行われていれば、続発しなかったであろうと予測される病態であると考えられます。このため、回腸便秘が疑われる症例において、複数回の直腸検査で持続性の小腸膨満(Persistent small intestinal distension)が認められた場合には、内科的療法の継続は推奨されず、積極的な外科的療法に踏み切るべきである、という提唱がなされています。
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