馬の文献:回腸便秘(Hanson et al. 1996)
文献 - 2015年09月28日 (月)
「馬の回腸便秘に対する内科的治療:1990~1994年の10症例」
Hanson RR, Schumacher J, Humburg J, Dunkerley SC. Medical treatment of horses with ileal impactions: 10 cases (1990-1994). J Am Vet Med Assoc. 1996; 208(6): 898-900.
この症例論文では、馬の回腸便秘(Ileal impaction)に対する内科療法の治療効果を評価するため、1990~1994年における10頭の回腸便秘の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究では、入院時における疝痛症状の経過(Duration of colic signs)は11.6時間で、内科治療としては、補液療法(Fluid therapy)、経鼻胃カテーテル(Nasogastric tube)の留置、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs: Flunixin meglumine)の投与、カテーテルを介してのミネラルオイル投与、などが実施されました。そして、10頭すべての回腸便秘の罹患馬において、治療開始から8~16時間で(平均11.7時間)、排糞(Defecation)と便秘部位の遊離が確認されたことから、初期病態における馬の回腸便秘(=経過が12時間以内)に対しては、内科治療による保存性療法(Conservative treatment)によって、便秘部位の整復が達成される場合もあることが示唆されました。しかし、馬の回腸便秘に関する他の文献では、正中開腹術(Midline celiotomy)を介しての外科治療によって、比較的に良好な予後が期待できることが報告されているため、経済的または地理的に開腹術の応用が可能である場合には、積極的な外科治療の選択をためらうべきではない、という提唱がなされています。
一般的に馬の回腸便秘では、摂食物の通過障害(Ingesta obstruction)に起因して、かなり短時間のうちに小腸膨満(Small intestinal distension)が起こり、この膨満した小腸に妨げられて、直腸検査(Rectal examination)による便秘部位の回腸の触診が困難になると考えられています。この研究における10頭の患馬では、便秘によって硬化した回腸が盲腸の内側に触知された所見で、回腸便秘を発症したという推定診断(Presumptive diagnosis)が下されており、つまり、10頭すべてにおいて、早期に治療が開始されたと推測されます。このため、馬の回腸便秘においては、見かけ上の疝痛の経過時間を考慮すると共に、便秘した回腸が触知可能である所見に基づいて内科治療に対する反応性を予測する、という診療指針が有効であると考察されています。一方で、回腸便秘の罹患部位が触知できなかった症例においては、小腸絞扼(Small intestinal strangulation)などの予後不良(Poor prognosis)となりやすい疾患を発症している危険性を考慮して、安易に保存性療法による様子見をせず、速やかな開腹術を選択するべきである、という警鐘が鳴らされています。
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この研究では、入院時における疝痛症状の経過(Duration of colic signs)は11.6時間で、内科治療としては、補液療法(Fluid therapy)、経鼻胃カテーテル(Nasogastric tube)の留置、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs: Flunixin meglumine)の投与、カテーテルを介してのミネラルオイル投与、などが実施されました。そして、10頭すべての回腸便秘の罹患馬において、治療開始から8~16時間で(平均11.7時間)、排糞(Defecation)と便秘部位の遊離が確認されたことから、初期病態における馬の回腸便秘(=経過が12時間以内)に対しては、内科治療による保存性療法(Conservative treatment)によって、便秘部位の整復が達成される場合もあることが示唆されました。しかし、馬の回腸便秘に関する他の文献では、正中開腹術(Midline celiotomy)を介しての外科治療によって、比較的に良好な予後が期待できることが報告されているため、経済的または地理的に開腹術の応用が可能である場合には、積極的な外科治療の選択をためらうべきではない、という提唱がなされています。
一般的に馬の回腸便秘では、摂食物の通過障害(Ingesta obstruction)に起因して、かなり短時間のうちに小腸膨満(Small intestinal distension)が起こり、この膨満した小腸に妨げられて、直腸検査(Rectal examination)による便秘部位の回腸の触診が困難になると考えられています。この研究における10頭の患馬では、便秘によって硬化した回腸が盲腸の内側に触知された所見で、回腸便秘を発症したという推定診断(Presumptive diagnosis)が下されており、つまり、10頭すべてにおいて、早期に治療が開始されたと推測されます。このため、馬の回腸便秘においては、見かけ上の疝痛の経過時間を考慮すると共に、便秘した回腸が触知可能である所見に基づいて内科治療に対する反応性を予測する、という診療指針が有効であると考察されています。一方で、回腸便秘の罹患部位が触知できなかった症例においては、小腸絞扼(Small intestinal strangulation)などの予後不良(Poor prognosis)となりやすい疾患を発症している危険性を考慮して、安易に保存性療法による様子見をせず、速やかな開腹術を選択するべきである、という警鐘が鳴らされています。
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