馬の文献:回腸便秘(Little et al. 2002)
文献 - 2015年09月29日 (火)
「外科疝痛馬における回腸便秘の発病因子:1986~2000年の78症例」
Little D, Blikslager AT. Factors associated with development of ileal impaction in horses with surgical colic: 78 cases (1986-2000). Equine Vet J. 2002; 34(5): 464-468.
この症例論文では、外科疝痛馬における回腸便秘(Ileal impaction)の発病に関与する因子を発見するため、1986~2000年における78頭の回腸便秘の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析と、三つの対照郡:回腸便秘以外の外科疝痛馬、回腸便秘以外の内科疝痛馬、疝痛以外の来院馬、との比較が行われました。
この研究では、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)が給餌されていた馬の割合は、回腸便秘の罹患馬ではその66%に達したのに対して、回腸便秘以外の外科疝痛馬では39%、回腸便秘以外の内科疝痛馬では25%、疝痛以外の来院馬では26%と、いずれも顕著に低い数値を示しました。このため、多重ロジスティック回帰分析(Multiple logistic regression analysis)の結果では、沿岸性バミューダ乾草が給餌されていた場合には、三つの対照郡に比べて、回腸便秘を発症する可能性が三倍~五倍程度も高くなることが示唆されました(オッズ比:2.7~5.4)。一般的に沿岸性のバミューダ乾草は、リグニンや粗繊維(Crude fiber)などの含有量が高い傾向にあり、腸管内での摂食物の硬化(Ingesta consolidation)および便秘を生じやすいと仮説されており、この研究報告ではそれを裏付けるデータが示されました。
この研究では、駆虫剤のピランテールが投与されていなかった馬の割合は、回腸便秘の罹患馬ではその70%であったのに対して、回腸便秘以外の外科疝痛馬では56%、回腸便秘以外の内科疝痛馬では53%、疝痛以外の来院馬では40%と、いずれも僅かながら低い数値を示しました。このため、ピランテールが投与されていなかった場合には、三つの対照郡に比べて、回腸便秘を発症する可能性が三倍~四倍も高くなることが示唆されました(オッズ比:3.1~4.0)。一般的にピランテールは、条虫感染(Tapeworm infection)の85%以上を効果的に制御できると推測されています。条虫は回腸盲腸移行部(Ileocecal junction)に好んで寄生することから、回腸および盲腸疾患の危険因子(Risk factors)になりうることが報告されており、この研究において、ピランテールが投与されていなかった馬では、重篤な量の条虫感染から回腸便秘の発症に至った可能性もあると考察されています。
この研究では、78頭の回腸便秘の罹患馬のうち、重度の疝痛症状を示したのは19%(15/78頭)のみで、他の患馬は軽度~中程度の疝痛(49/78頭)、または抑鬱(Depression)の症状を呈しました(14/78頭)。直腸検査(Rectal examination)では、回腸便秘の罹患馬の87%(68/78頭)において、腸管の通過障害(Intestinal obstruction)を示唆する小腸膨満(Small intestinal distension)が認められましたが、便秘部位が直接的に触知されたのは9%(7/78頭)の患馬に過ぎませんでした。また、多くの患馬が正常な腹水検査(Abdominocentesis)の結果を示し(91%が正常な白血球数、64%が正常な蛋白濃度)、経鼻カテーテルからの胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)が見られたのも、回腸便秘の罹患馬のうち半数以下でした(46%)。これらの結果から、回腸便秘の診断に際しては、他の文献でも指摘されているように、小腸絞扼(Small intestinal strangulation)の除外診断は可能である症例が多いものの、術前に回腸便秘の確定診断(Definitive diagnosis)を下すのは、必ずしも容易ではないことが示唆されました。
この研究では、78頭の回腸便秘の罹患馬のうち、腸切開術(Enterotomy)や空腸盲腸吻合術(Jejunocecostomy)を要することなく、腸壁を介しての生食注入(Saline infusion through intestinal wall)と腸管マッサージによって停滞腸内容物の遊離が達成されたのは92%でした(72/78頭)。回腸便秘の罹患馬の平均入院日数は、8.5日と、開腹術の応用例としては比較的に短期間で、術後合併症(Post-operative complication)を引き起こした馬の割合は41%にとどまり、また、短期生存率(Short-term survival rate)は96%にのぼりました(75/78頭が退院)。このため、回腸便秘の罹患馬において、腸切開術&吻合術の適応を要しない初期病態での外科療法が実施されれば、合併症の危険も少なく、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
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この症例論文では、外科疝痛馬における回腸便秘(Ileal impaction)の発病に関与する因子を発見するため、1986~2000年における78頭の回腸便秘の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析と、三つの対照郡:回腸便秘以外の外科疝痛馬、回腸便秘以外の内科疝痛馬、疝痛以外の来院馬、との比較が行われました。
この研究では、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)が給餌されていた馬の割合は、回腸便秘の罹患馬ではその66%に達したのに対して、回腸便秘以外の外科疝痛馬では39%、回腸便秘以外の内科疝痛馬では25%、疝痛以外の来院馬では26%と、いずれも顕著に低い数値を示しました。このため、多重ロジスティック回帰分析(Multiple logistic regression analysis)の結果では、沿岸性バミューダ乾草が給餌されていた場合には、三つの対照郡に比べて、回腸便秘を発症する可能性が三倍~五倍程度も高くなることが示唆されました(オッズ比:2.7~5.4)。一般的に沿岸性のバミューダ乾草は、リグニンや粗繊維(Crude fiber)などの含有量が高い傾向にあり、腸管内での摂食物の硬化(Ingesta consolidation)および便秘を生じやすいと仮説されており、この研究報告ではそれを裏付けるデータが示されました。
この研究では、駆虫剤のピランテールが投与されていなかった馬の割合は、回腸便秘の罹患馬ではその70%であったのに対して、回腸便秘以外の外科疝痛馬では56%、回腸便秘以外の内科疝痛馬では53%、疝痛以外の来院馬では40%と、いずれも僅かながら低い数値を示しました。このため、ピランテールが投与されていなかった場合には、三つの対照郡に比べて、回腸便秘を発症する可能性が三倍~四倍も高くなることが示唆されました(オッズ比:3.1~4.0)。一般的にピランテールは、条虫感染(Tapeworm infection)の85%以上を効果的に制御できると推測されています。条虫は回腸盲腸移行部(Ileocecal junction)に好んで寄生することから、回腸および盲腸疾患の危険因子(Risk factors)になりうることが報告されており、この研究において、ピランテールが投与されていなかった馬では、重篤な量の条虫感染から回腸便秘の発症に至った可能性もあると考察されています。
この研究では、78頭の回腸便秘の罹患馬のうち、重度の疝痛症状を示したのは19%(15/78頭)のみで、他の患馬は軽度~中程度の疝痛(49/78頭)、または抑鬱(Depression)の症状を呈しました(14/78頭)。直腸検査(Rectal examination)では、回腸便秘の罹患馬の87%(68/78頭)において、腸管の通過障害(Intestinal obstruction)を示唆する小腸膨満(Small intestinal distension)が認められましたが、便秘部位が直接的に触知されたのは9%(7/78頭)の患馬に過ぎませんでした。また、多くの患馬が正常な腹水検査(Abdominocentesis)の結果を示し(91%が正常な白血球数、64%が正常な蛋白濃度)、経鼻カテーテルからの胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)が見られたのも、回腸便秘の罹患馬のうち半数以下でした(46%)。これらの結果から、回腸便秘の診断に際しては、他の文献でも指摘されているように、小腸絞扼(Small intestinal strangulation)の除外診断は可能である症例が多いものの、術前に回腸便秘の確定診断(Definitive diagnosis)を下すのは、必ずしも容易ではないことが示唆されました。
この研究では、78頭の回腸便秘の罹患馬のうち、腸切開術(Enterotomy)や空腸盲腸吻合術(Jejunocecostomy)を要することなく、腸壁を介しての生食注入(Saline infusion through intestinal wall)と腸管マッサージによって停滞腸内容物の遊離が達成されたのは92%でした(72/78頭)。回腸便秘の罹患馬の平均入院日数は、8.5日と、開腹術の応用例としては比較的に短期間で、術後合併症(Post-operative complication)を引き起こした馬の割合は41%にとどまり、また、短期生存率(Short-term survival rate)は96%にのぼりました(75/78頭が退院)。このため、回腸便秘の罹患馬において、腸切開術&吻合術の適応を要しない初期病態での外科療法が実施されれば、合併症の危険も少なく、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
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