馬の文献:回腸便秘(Fleming et al. 2011)
文献 - 2015年09月29日 (火)
「245頭の馬の回腸便秘:1995~2007年」
Fleming K, Mueller PO. Ileal impaction in 245 horses: 1995-2007. Can Vet J. 2011; 52(7): 759-763.
この症例論文では、馬の回腸便秘(Ileal impaction)に対する内科的および外科的療法の選択基準、およびその治療効果を評価するため、1995~2007年にかけて、回腸便秘を呈した245頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この症例報告における内科的治療では、経鼻カテーテルの留置(Indwelling of nasogastric tube)、鎮静剤(Sedatives)および鎮痛剤(Analgesics)の投与、および、抗コリン性鎮痙剤(Anticholinergic antispasmodic agent)であるBuscopan投与などが行われました。一方、外科的治療では、開腹術(Celiotomy)を介しての、便秘箇所へのカルボキシメチルセルロース(Carboxymethylcellulose)、リドカイン、生食などの注入、便秘部のマッサージ、遠位回腸切開術(Distal jejunal enterotomy)などによる、便秘箇所の腸内容物の遊離が行われました。
結果としては、245頭の回腸便秘の罹患馬のうち、内科的治療を受けた馬では、経鼻カテーテルからの胃排出液の逆流(Nasogastric reflux)を示したのは15%、腹水検査(Abdominocentesis)での異常所見(蛋白濃度上昇や白血球数増加など)を認めたのは32%にとどまったのに対して、外科的治療を受けた馬では、経鼻カテーテルからの胃排出液の逆流を示したのは62%、腹水検査で異常所見を認めたのは51%にのぼりました。そして、治療から一年以上にわたって生存した馬の割合を見ると、内科的治療を受けた馬では92%、外科的治療を受けた馬では91%と、両郡の長期生存率(Long-term survival rate)に有意差は認められませんでした。このため、馬の回腸便秘に対しては、経鼻カテーテルからの胃排出液の逆流、および腹水検査で異常所見を呈した場合には、外科的療法を選択するべきであるという選択基準が推奨されており、いずれの治療法によっても、非常に良好な予後が期待され、長期生存を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
この症例報告では、245頭の回腸便秘の罹患馬のうち、頻脈(>48bpm)を示したのは57%にとどまり、内科的治療を受けた馬で頻脈を呈していたのは58%、外科的治療を受けた馬で頻脈を呈していたのは56%と、両群のあいだに有意差は認められませんでした。また、直腸検査(Rectal examination)で膨満した回腸が触知されたのは27%にとどまり、内科的治療を受けた馬で回腸が触知されたのは29%、外科的治療を受けた馬で回腸が触知されたのは25%と、両群のあいだに有意差は認められませんでした。さらに、腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)では、全症例において小腸膨満(Small intestinal distension)が認められました。このため、馬の回腸便秘では、直腸検査によって罹患部が触知される症例は少なく、超音波検査では小腸疾患の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されるのみで、また、聴診、直検、超音波などの所見を、内科的および外科的療法の選択基準にするのは難しいという考察がなされています。
この症例報告における外科的治療では、最悪の場合でも、回腸切開術によって便秘箇所の腸内容物の除去が達成され、回腸盲腸吻合術(Jejunocecostomy)を要した症例はありませんでした。他の文献によると、馬の回腸便秘に対する回腸盲腸吻合術では、予後はそれほど芳しくないという知見もあり(Parks et al.Cornell Vet. 1989;79:83)、回腸の肥厚(Hypertrophy)、狭窄(Stenosis)、および機能不全(Dysfunction)などの病態が確認された場合にのみ、回腸盲腸吻合術を選択するべきであるという提唱もなされています(Little et al. EVJ. 2002;34:464)。
この症例報告では、回腸便秘を再発(Recurrence)したのは、内科的治療を受けた馬では1.5%、外科的治療を受けた馬では1.8%と、いずれも極めて少なく、両群のあいだに有意差もありませんでした。しかし、これらの症例では、その殆どにおいて、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)を再給餌したことで、回腸便秘の再発に至ったことが報告されており、一度でも回腸便秘を発症、もしくは発症が疑われた患馬に対しては、治癒後に沿岸性バミューダ乾草の給餌を控えるという、飼養管理法の改善が強く推奨されるという考察がなされています。
この症例報告の限界点(Limitation)としては、内科的治療が選択された馬においては、回腸便秘の最終診断が、臨床症状や直腸検査による推定診断のみであったことが挙げられます。馬の回腸便秘では、便秘箇所を直腸検査で触知できるのは一割~三割の症例に過ぎないことが知られており(特に便秘が経過して小腸が膨満した場合には、便秘箇所の触診は非常に困難)、また、回腸の便秘部位には超音波は届きません。このため、この症例報告における内科的治療馬の生存率(92%)は、過剰評価(Over-estimation)されている可能性が否定できないと考察されています。
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この症例論文では、馬の回腸便秘(Ileal impaction)に対する内科的および外科的療法の選択基準、およびその治療効果を評価するため、1995~2007年にかけて、回腸便秘を呈した245頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この症例報告における内科的治療では、経鼻カテーテルの留置(Indwelling of nasogastric tube)、鎮静剤(Sedatives)および鎮痛剤(Analgesics)の投与、および、抗コリン性鎮痙剤(Anticholinergic antispasmodic agent)であるBuscopan投与などが行われました。一方、外科的治療では、開腹術(Celiotomy)を介しての、便秘箇所へのカルボキシメチルセルロース(Carboxymethylcellulose)、リドカイン、生食などの注入、便秘部のマッサージ、遠位回腸切開術(Distal jejunal enterotomy)などによる、便秘箇所の腸内容物の遊離が行われました。
結果としては、245頭の回腸便秘の罹患馬のうち、内科的治療を受けた馬では、経鼻カテーテルからの胃排出液の逆流(Nasogastric reflux)を示したのは15%、腹水検査(Abdominocentesis)での異常所見(蛋白濃度上昇や白血球数増加など)を認めたのは32%にとどまったのに対して、外科的治療を受けた馬では、経鼻カテーテルからの胃排出液の逆流を示したのは62%、腹水検査で異常所見を認めたのは51%にのぼりました。そして、治療から一年以上にわたって生存した馬の割合を見ると、内科的治療を受けた馬では92%、外科的治療を受けた馬では91%と、両郡の長期生存率(Long-term survival rate)に有意差は認められませんでした。このため、馬の回腸便秘に対しては、経鼻カテーテルからの胃排出液の逆流、および腹水検査で異常所見を呈した場合には、外科的療法を選択するべきであるという選択基準が推奨されており、いずれの治療法によっても、非常に良好な予後が期待され、長期生存を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
この症例報告では、245頭の回腸便秘の罹患馬のうち、頻脈(>48bpm)を示したのは57%にとどまり、内科的治療を受けた馬で頻脈を呈していたのは58%、外科的治療を受けた馬で頻脈を呈していたのは56%と、両群のあいだに有意差は認められませんでした。また、直腸検査(Rectal examination)で膨満した回腸が触知されたのは27%にとどまり、内科的治療を受けた馬で回腸が触知されたのは29%、外科的治療を受けた馬で回腸が触知されたのは25%と、両群のあいだに有意差は認められませんでした。さらに、腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)では、全症例において小腸膨満(Small intestinal distension)が認められました。このため、馬の回腸便秘では、直腸検査によって罹患部が触知される症例は少なく、超音波検査では小腸疾患の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されるのみで、また、聴診、直検、超音波などの所見を、内科的および外科的療法の選択基準にするのは難しいという考察がなされています。
この症例報告における外科的治療では、最悪の場合でも、回腸切開術によって便秘箇所の腸内容物の除去が達成され、回腸盲腸吻合術(Jejunocecostomy)を要した症例はありませんでした。他の文献によると、馬の回腸便秘に対する回腸盲腸吻合術では、予後はそれほど芳しくないという知見もあり(Parks et al.Cornell Vet. 1989;79:83)、回腸の肥厚(Hypertrophy)、狭窄(Stenosis)、および機能不全(Dysfunction)などの病態が確認された場合にのみ、回腸盲腸吻合術を選択するべきであるという提唱もなされています(Little et al. EVJ. 2002;34:464)。
この症例報告では、回腸便秘を再発(Recurrence)したのは、内科的治療を受けた馬では1.5%、外科的治療を受けた馬では1.8%と、いずれも極めて少なく、両群のあいだに有意差もありませんでした。しかし、これらの症例では、その殆どにおいて、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)を再給餌したことで、回腸便秘の再発に至ったことが報告されており、一度でも回腸便秘を発症、もしくは発症が疑われた患馬に対しては、治癒後に沿岸性バミューダ乾草の給餌を控えるという、飼養管理法の改善が強く推奨されるという考察がなされています。
この症例報告の限界点(Limitation)としては、内科的治療が選択された馬においては、回腸便秘の最終診断が、臨床症状や直腸検査による推定診断のみであったことが挙げられます。馬の回腸便秘では、便秘箇所を直腸検査で触知できるのは一割~三割の症例に過ぎないことが知られており(特に便秘が経過して小腸が膨満した場合には、便秘箇所の触診は非常に困難)、また、回腸の便秘部位には超音波は届きません。このため、この症例報告における内科的治療馬の生存率(92%)は、過剰評価(Over-estimation)されている可能性が否定できないと考察されています。
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