馬の文献:網嚢孔捕捉(Turner et al. 1984)
文献 - 2015年09月30日 (水)
「馬の網嚢孔に起因する小腸嵌頓」
Turner TA, Adams SB, White NA. Small intestine incarceration through the epiploic foramen of the horse. J Am Vet Med Assoc. 1984; 184(6): 731-734.
この症例論文では、馬の小腸が網嚢孔(Epiploic foramen)を通過することで生じる小腸嵌頓(Small intestinal incarceration)の病態を評価するため、15頭の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、15頭の網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)されたのは11頭で、このうち九頭が術後の二週間以内に安楽死(Euthanasia)となったため、短期生存率(Short-term survival rate)は18%(2/11頭)にとどまったことが示されました。このため、網嚢孔捕捉に起因する小腸嵌頓では、予後不良を呈する場合が多く、速やかな開腹手術(Celiotomy)によって、病態の早期整復を試みることが重要であると考えられました。
この研究では、15頭の網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、馬体に対して右から左へと小腸が網嚢孔を通過していたのは12頭にのぼり、左から右へと小腸が網嚢孔を通過していたのは三頭のみでした。しかし、この報告ではサンプル数が十分ではないため、どちらの病態がより頻繁に起こるのかを結論付けるためには、より多くの症例を含む回顧的な症例解析(Retrospective case analysis)を要すると考えられました。
この研究では、15頭の網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、八頭は無疼痛~軽度疝痛の症状を呈したのに対して、残りの七頭では中程度~重度の疝痛症状を示しました。一方、腹水検査(Abdominocentesis)が実施された14頭の患馬のうち、腹水中の蛋白濃度や白血球数の増加が認められたのは10頭にのぼりました。このため、網嚢孔捕捉の診療に際しては、見た目の疝痛症状は必ずしも特徴的所見ではない可能性を考慮し、腹水検査などの他の診断法を併用して、早期の診断に努めることが重要であると考察されています。
この研究では、直腸検査(Rectal examination)によって消化管膨満(Intestinal distension)が触診されたのは、15頭中の八頭に過ぎませんでした。また、網嚢孔そのものや、捕捉されている小腸を直検で触知するのは一般的に難しいことが知られており、直腸検査のみによる網嚢孔捕捉の推定診断は困難であると考えられています。古典的には、直腸壁を介して盲腸の背側ヒモ(Vental band of cecum)を掴んで尾側方向に引っ張った時に、患馬が疼痛症状を示した場合には、網嚢孔捕捉が疑われるという診断手法も試みられていますが、その有用性や信頼性、およびこの手法によって直腸裂傷(Rectal tear)を生じる危険性については論議(Controversy)があります。
この研究では、経鼻カテーテルによって胃逆流液(Nasogastric reflux)の排出が認められたのは、15頭中の八頭に過ぎず、この所見による網嚢孔捕捉の推定診断は信頼性が低いことが示されました。これは、小腸嵌頓が生じている部位によっては、消化管内液が胃まで反流してくるまでに長時間を要したり、貯留した腸内容液の一部は小腸壁から吸収されたためと推測されています。また、胃逆流液の排出が見られた七頭の患馬においても、その平均排出量は6リットル以下にとどまったため、これらの所見から、比較的に多量の胃逆流液の排出を示す十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)との鑑別が可能な場合があるかもしれません。
この研究では、捕捉されている小腸の遊離後、六頭では空腸々々吻合術(Jejunojejunal anastomosis)、四頭では空腸盲腸吻合術(Jejunocecal anastomosis)の術式が用いられました。しかし、この論文では、サンプル数が少なく、術式の違いによる予後の良し悪しについての解析や考察は行われていません。
この論文は、まだ腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)が疝痛診断には多く用いられていない時代に報告されたものであるため、超音波検査による網嚢孔捕捉の診断能は論じられていません。しかし、超音波像においては、消化管膨満の度合い(=腸内腔の直径)の測定、膨満の発現箇所の特定、および腸壁肥厚(Intestinal wall thickening)の重度を直接観察できるため、病態の重篤度の判定、および有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)や小腸重積(Small intestinal intussusception)などの類似疾患との鑑別が可能な場合もあると考えられます。
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この症例論文では、馬の小腸が網嚢孔(Epiploic foramen)を通過することで生じる小腸嵌頓(Small intestinal incarceration)の病態を評価するため、15頭の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、15頭の網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)されたのは11頭で、このうち九頭が術後の二週間以内に安楽死(Euthanasia)となったため、短期生存率(Short-term survival rate)は18%(2/11頭)にとどまったことが示されました。このため、網嚢孔捕捉に起因する小腸嵌頓では、予後不良を呈する場合が多く、速やかな開腹手術(Celiotomy)によって、病態の早期整復を試みることが重要であると考えられました。
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この研究では、15頭の網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、八頭は無疼痛~軽度疝痛の症状を呈したのに対して、残りの七頭では中程度~重度の疝痛症状を示しました。一方、腹水検査(Abdominocentesis)が実施された14頭の患馬のうち、腹水中の蛋白濃度や白血球数の増加が認められたのは10頭にのぼりました。このため、網嚢孔捕捉の診療に際しては、見た目の疝痛症状は必ずしも特徴的所見ではない可能性を考慮し、腹水検査などの他の診断法を併用して、早期の診断に努めることが重要であると考察されています。
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この研究では、経鼻カテーテルによって胃逆流液(Nasogastric reflux)の排出が認められたのは、15頭中の八頭に過ぎず、この所見による網嚢孔捕捉の推定診断は信頼性が低いことが示されました。これは、小腸嵌頓が生じている部位によっては、消化管内液が胃まで反流してくるまでに長時間を要したり、貯留した腸内容液の一部は小腸壁から吸収されたためと推測されています。また、胃逆流液の排出が見られた七頭の患馬においても、その平均排出量は6リットル以下にとどまったため、これらの所見から、比較的に多量の胃逆流液の排出を示す十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)との鑑別が可能な場合があるかもしれません。
この研究では、捕捉されている小腸の遊離後、六頭では空腸々々吻合術(Jejunojejunal anastomosis)、四頭では空腸盲腸吻合術(Jejunocecal anastomosis)の術式が用いられました。しかし、この論文では、サンプル数が少なく、術式の違いによる予後の良し悪しについての解析や考察は行われていません。
この論文は、まだ腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)が疝痛診断には多く用いられていない時代に報告されたものであるため、超音波検査による網嚢孔捕捉の診断能は論じられていません。しかし、超音波像においては、消化管膨満の度合い(=腸内腔の直径)の測定、膨満の発現箇所の特定、および腸壁肥厚(Intestinal wall thickening)の重度を直接観察できるため、病態の重篤度の判定、および有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)や小腸重積(Small intestinal intussusception)などの類似疾患との鑑別が可能な場合もあると考えられます。
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