馬の文献:網嚢孔捕捉(Archer et al. 2004b)
文献 - 2015年10月01日 (木)
「馬における網嚢孔捕捉とサク癖の関連:1991~2002年の68症例」
Archer DC, Freeman DE, Doyle AJ, Proudman CJ, Edwards GB. Association between cribbing and entrapment of the small intestine in the epiploic foramen in horses: 68 cases (1991-2002). J Am Vet Med Assoc. 2004; 224(4): 562-564.
この症例論文では、馬の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)の発症に、サク癖(Cribbing)の悪癖が関与するか否かを評価するため、1991~2002年における68頭の小腸疾患の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究には、イリノイ大学における19頭の網嚢孔捕捉の罹患馬、およびリバプール大学における49頭の網嚢孔捕捉の罹患馬が含まれ、それぞれの病院における対照郡(網嚢孔捕捉以外の小腸疾患の罹患馬)との比較が行われました。
結果としては、イリノイ大学では、網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、サク癖の悪癖を持っていたのは68%であったのに対して、対照郡ではサク癖の悪癖を持っていたのは6%の馬に過ぎませんでした。このため、ロジスティック回帰解析(Logistic regression analysis)の結果では、小腸疾患を発症していた症例において、サク癖の悪癖を持っていた場合には、網嚢孔捕捉を発症している可能性が35倍近くも高くなることが示唆されました(オッズ比:34.7)。
一方、リバプール大学では、網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、サク癖の悪癖を持っていたのは49%であったのに対して、対照郡ではサク癖の悪癖を持っていたのは10%の馬に過ぎませんでした。このため、小腸疾患を発症していた症例において、サク癖の悪癖を持っていた場合には、網嚢孔捕捉を発症している可能性が八倍以上も高くなることが示唆されました(オッズ比:8.2)。
これらの結果から、馬におけるサク癖の悪癖は、網嚢孔捕捉の危険因子(Risk factor)となることが示唆されており、この関連性においては、直接的および間接的な病因論(Direct/Indirect etiology)が挙げられています。サク癖が直接的に網嚢孔捕捉の病因となる理論としては、馬がサク癖をする際に生じる胸腔陰圧(Negative intrathoracic pressure)が、小腸を頭側腹腔部(Cranial abdomen)へと引き寄せて、網嚢孔内への小腸の迷入(Small intestinal migration)を誘発するという仮説がなされています。
もう一つの直接的な病因論としては、サク癖によって飲み込まれた空気が小腸内に溜まり、腸管が相対的に軽くなって、背側方向へと変位して網嚢孔内へと迷入する、という理論も挙げられています。しかし、透視装置を用いた他の研究によれば、馬がサク癖をした際には上部食道の一時的拡張(Transient dilation of upper esophagus)は起こるものの、嚥下(Deglutition)はしていないことが確認されており、サク癖の悪癖から過剰な空気嚥下を起こしたり、腸管内での異常なガス貯留の原因となる可能性は低いことが示唆されています(McGreevy et al. Equine Vet J 1995; 27: 92–95)。
この研究では、ロジスティック回帰解析で示された有意なデータは、必ずしも疾患と罹患因子との直接的な因果関係を証明するものではない、という警鐘が鳴らされており、馬の網嚢孔捕捉の発症には、サク癖が間接的に関与している可能性も指摘されています。この間接的な病因論としては、サク癖は舎飼い時間の長い馬に見られることが多いため、サク癖そのものと言うよりも、運動不足になりやすいことや、飼料を短時間で食べてしまうことなど、舎飼い時間の長い馬において頻繁に生じる環境的要因が、網嚢孔捕捉の有病率(Prevalence)の高さに影響している可能性もある、という考察がなされています。
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この症例論文では、馬の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)の発症に、サク癖(Cribbing)の悪癖が関与するか否かを評価するため、1991~2002年における68頭の小腸疾患の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究には、イリノイ大学における19頭の網嚢孔捕捉の罹患馬、およびリバプール大学における49頭の網嚢孔捕捉の罹患馬が含まれ、それぞれの病院における対照郡(網嚢孔捕捉以外の小腸疾患の罹患馬)との比較が行われました。
結果としては、イリノイ大学では、網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、サク癖の悪癖を持っていたのは68%であったのに対して、対照郡ではサク癖の悪癖を持っていたのは6%の馬に過ぎませんでした。このため、ロジスティック回帰解析(Logistic regression analysis)の結果では、小腸疾患を発症していた症例において、サク癖の悪癖を持っていた場合には、網嚢孔捕捉を発症している可能性が35倍近くも高くなることが示唆されました(オッズ比:34.7)。
一方、リバプール大学では、網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、サク癖の悪癖を持っていたのは49%であったのに対して、対照郡ではサク癖の悪癖を持っていたのは10%の馬に過ぎませんでした。このため、小腸疾患を発症していた症例において、サク癖の悪癖を持っていた場合には、網嚢孔捕捉を発症している可能性が八倍以上も高くなることが示唆されました(オッズ比:8.2)。
これらの結果から、馬におけるサク癖の悪癖は、網嚢孔捕捉の危険因子(Risk factor)となることが示唆されており、この関連性においては、直接的および間接的な病因論(Direct/Indirect etiology)が挙げられています。サク癖が直接的に網嚢孔捕捉の病因となる理論としては、馬がサク癖をする際に生じる胸腔陰圧(Negative intrathoracic pressure)が、小腸を頭側腹腔部(Cranial abdomen)へと引き寄せて、網嚢孔内への小腸の迷入(Small intestinal migration)を誘発するという仮説がなされています。
もう一つの直接的な病因論としては、サク癖によって飲み込まれた空気が小腸内に溜まり、腸管が相対的に軽くなって、背側方向へと変位して網嚢孔内へと迷入する、という理論も挙げられています。しかし、透視装置を用いた他の研究によれば、馬がサク癖をした際には上部食道の一時的拡張(Transient dilation of upper esophagus)は起こるものの、嚥下(Deglutition)はしていないことが確認されており、サク癖の悪癖から過剰な空気嚥下を起こしたり、腸管内での異常なガス貯留の原因となる可能性は低いことが示唆されています(McGreevy et al. Equine Vet J 1995; 27: 92–95)。
この研究では、ロジスティック回帰解析で示された有意なデータは、必ずしも疾患と罹患因子との直接的な因果関係を証明するものではない、という警鐘が鳴らされており、馬の網嚢孔捕捉の発症には、サク癖が間接的に関与している可能性も指摘されています。この間接的な病因論としては、サク癖は舎飼い時間の長い馬に見られることが多いため、サク癖そのものと言うよりも、運動不足になりやすいことや、飼料を短時間で食べてしまうことなど、舎飼い時間の長い馬において頻繁に生じる環境的要因が、網嚢孔捕捉の有病率(Prevalence)の高さに影響している可能性もある、という考察がなされています。
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