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馬の文献:網嚢孔捕捉(Archer et al. 2011)

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「網嚢孔捕捉による疝痛馬の生存に影響する因子:複数病院での国際的調査」
Archer DC, Pinchbeck GL, Proudman CJ. Factors associated with survival of epiploic foramen entrapment colic: a multicentre, international study. Equine Vet J. 2011; 43 Suppl 39: 56-62.

この研究論文では、馬の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)に対する外科的療法の治療効果、および、その予後に影響する因子を評価するため、2004~2006年にかけて、網嚢孔捕捉を呈した126頭の患馬の(開腹術によって確定診断された症例のみ)、医療記録(Medical records)の前向き・複数病院・国際的調査(Prospective, international, multicentre study)が行われました。

結果としては、126頭の網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、術中に安楽死(Euthanasia)となった馬を除く残りの109頭では、退院した馬は79%、一年間は生存した馬は51%、二年間は生存した馬は34%であったことが示されました。そして、多因子ロジスティック回帰解析(Multivariable logistic regression analysis)の結果では、術後腸閉塞(Post-operative ileus)を続発した場合には、安楽死となる確率が三倍以上も高くなり(危険比:3.25)、また、術前のPCV値が1%増すごとに、安楽死となる確率が4%増加することが示されました(危険比:1.04)。このため、馬の網嚢孔捕捉においては、開腹術による罹患部の外科的整復がなされた場合にも、長期生存する確率はそれほど高くなく、予後不良を呈する馬が比較的に多いことが示され、また、術前のPCV値や手術直後のイレウス続発の有無が、予後判定(Prognostication)の有用な指標になる可能性が示唆されました。

この研究では、多因子ロジスティック回帰解析において、開腹術の際に摘出された腸管の長さと、生存率のあいだに有意な負の相関(Significant negative correlation)が見られました。これは、広範囲にわたる小腸摘出を要する症例ほど、原発病態が重篤であったり、術後に腸蠕動不全(Motility disorder)を起こし易かったためと推測されていますが、摘出された腸管1cm当たりにおける危険比は1.001に過ぎず(切除された腸管が1cm増すごとに安楽死の危険性が0.1%増加する)、摘出する腸管の長さを意図的に短くしようとする事で、顕著に生存率が増すとは考えられません。このため、網嚢孔捕捉の外科的療法に際しては、罹患箇所の腸管は全て切除すること、そして、その長さから予後不良を呈する危険性が高いことを考慮して、適切な術後治療によってイレウスの予防に努めること、などの治療方針が有効であると考察されています。

この研究では、単因子ロジスティック回帰解析(Univariate logistic regression analysis)において、小腸絞扼(Small intestinal strangulation)を併発していた場合には、安楽死となる確率が二倍以上も高くなり(危険比:2.10)、術後合併症に起因して再開腹術(Re-laparotomy)を要した場合には、安楽死となる確率が二倍以上も高くなることが示されました(危険比:2.25)。一方で、患馬の品種、性別、小腸吻合術(Small intestinal anastomosis)の術式の違いなどは、その予後と有意には相関していませんでした。また、他の文献では、サク癖(Crib-biting/wind-sucking)する馬ほど、網嚢孔捕捉の発症率が高い傾向が示されていますが(Archer et al. JAVMA. 2004;224:562, Archer et al. EVJ. 2008;40:224)、今回の研究では、サク癖の有無と、網嚢孔捕捉の術後の予後のあいだには、有意な相関は認められませんでした。

この研究のように、複数の病院からの症例数を集めた研究では、発症率の低い稀な病気における、治療成績や予後判定指標を評価できるという利点がある反面、それぞれの地方での飼養環境の違い、品種分布の違い、複数の術者による細かい術式の違い、術後の内科的療法の方針の違い、安楽死の選択基準のひとつとなる馬主の経済的な事情の違い、などの多くの因子が、対象疾患の病態や治療成績に影響すると考えられます。この論文では、「複数の病院間のデータに有意差は認められなかった」と述べられているのみで、上述のような因子をどこまで詳細に統計処理したのかは、明瞭には報告されていません。

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