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馬の文献:網嚢孔捕捉(van Bergen al. 2015)

「六頭の馬における腹腔鏡的な網嚢孔メッシュ閉鎖の新手法の確立」
van Bergen T, Wiemer P, Bosseler L, Ugahary F, Martens A. Development of a new laparoscopic Foramen Epiploicum Mesh Closure (FEMC) technique in 6 horses. Equine Vet J. 2015 Feb 11. doi: 10.1111/evj.12427. [Epub ahead of print]

この研究報告では、馬の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)に対する新治療法を確立するため、六頭の健常馬を用いた起立位手術(Standing surgery)において、網嚢孔の腹腔鏡的メッシュ閉鎖(Laparoscopic mesh closure)が試みられ、四週間後の腹腔鏡による再検査、および、二~三ヶ月後の剖検(Necropsy)と組織学的検査(Histopathologic examination)が行われました。

この研究で試験された術式では、ヒトの鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)の閉鎖術に用いられている、楕円形の編み込み型のポリプロピレンメッシュ(oval shaped knitted polypropylene meshes)に、丸める→折りたたむ→縫合糸で止める、という加工が施されました。次に、右側膁部(Right flank)を術野消毒および局所麻酔(Local anesthesia)した後、一つ目の切開創は、最後肋骨と寛結節の中間点(Midway between the last rib and the tuber coxae)で、内腹斜筋の脚部の腹側半分の位置(Ventral half of the palpable crus of the internal oblique abdominal muscle)に設けられ、これが腹腔鏡カメラの挿入口とされ、腹腔へのCO2ガス注入(Abdominal insufflation with CO2 gas)が行われました。そして、腹腔鏡カメラで、肝臓の尾状葉(Caudate hepatic lobes)と十二指腸間膜(Mesoduodenum)のあいだの位置に網嚢孔が確認されました。二つ目の切開創は、最初の切開創の10cm腹側に設けられ、そこに通したステンレス製チューブ(径2cm)を介して、腹腔内にメッシュが挿入されて、そのまま網嚢孔の内部に折りたたまれたメッシュが挿入されました。切開創の閉鎖は通常通り実施され、手術時間は平均22分であったことが示されました。

結果としては、術後の四週間目の腹腔鏡での再検査によって、六頭の実験馬の全てにおいて、網嚢孔の閉鎖が達成されたことが確認されました。このうち一頭において、手術直後に大結腸便秘(Large colon impaction)を発症したことを除けば、重篤な術後合併症(Post-operative complication)は認められず、網嚢孔の周囲における望まれない癒着(Undesired adhesion)も起こっていませんでした。このため、網嚢孔捕捉の発症馬においては、腹腔鏡を使った起立位手術によって、網嚢孔のメッシュ閉鎖が可能であることが示唆されました。

この研究では、ポリプロピレンメッシュを折りたたんで、ディアボロ(空中コマのこと)の形状にすることで、円錐状をした網嚢孔の内面に完全に密着する工夫がこらされました。その結果、メッシュを網嚢孔のなかに押し込むだけという簡易な手技によって、実験に用いた全ての馬において、メッシュの内部に線維性組織が浸潤して、網嚢孔が完全に封鎖されていたことが報告されています。馬の網嚢孔の、腹腔鏡的閉鎖法としては、胃膵臓ヒダ(Gastropancreatic fold)と膵臓右葉(Right lobe of the pancreas)を、肝臓の尾状葉に対してチタン製コイルで固着させる手法も報告されていますが(Munsterman et al. Vet Surg. 2014;43:105)、この場合、完全閉鎖が達成されたのは六頭中の五頭でした。今回試験されたメッシュ閉鎖法では、切開創が三つではなく二つで済み、膵臓の実質へのコイル装着が必要なく、手術も短時間で終了できるという利点がありました。

一般的に、馬の網嚢孔捕捉では、報告されている再発率は、53頭中の一頭(Vachon et al. EVJ. 1995;27:373)、71頭の二頭(Archer et al. Vet Rec. 2004;155:793)、七頭中の一頭(Freeman et al. EVJ. 2014;46:711)というように、比較的に低リスクにとどまっており、腹腔鏡手術によって、網嚢孔のメッシュ閉鎖を施す利点があるか否かは、慎重な論議を要すると推測されています。また、サク癖(Crib-biting)の悪癖を持つ馬では、網嚢孔捕捉を起こし易いという知見もありますが(Archer et al. EVJ. 2008;46:711)、サク癖する馬すべてにおいて、腹腔鏡的な網嚢孔閉鎖を実施するメリットがあるかどうかは分かりません。さらに、実際に網嚢孔捕捉によって開腹術(Celiotomy)が行われた場合にも、絞扼されていた小腸が引き抜かれた直後の網嚢孔に、その時点でメッシュを挿入して、網嚢孔の閉鎖を達成できるか否かは、今後の検討を要するポイントと言えるのではないでしょうか。

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