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馬の文献:有茎性脂肪腫(Blikslager et al. 1992)

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「馬の有茎性脂肪腫による腸管通過障害:1983~1990年の17症例」
Blikslager AT, Bowman KF, Haven ML, Tate LP Jr, Bristol DG. Pedunculated lipomas as a cause of intestinal obstruction in horses: 17 cases (1983-1990). J Am Vet Med Assoc. 1992; 201(8): 1249-1252.

この症例論文では、馬の有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)に起因する腸管通過障害(Intestinal obstruction)における、罹患因子(Predisposing factors)および予後(Prognosis)を評価するため、1983~1990年における17頭の有茎性脂肪腫の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、17頭の有茎性脂肪腫の罹患馬のうち、14頭が開腹術(Celiotomy)による外科治療後の麻酔覚醒を果たし(麻酔覚醒率:82%)、このうち11頭が退院したため(退院率:65%)、短期生存率(Short-term survival rate)は79%(11/14頭)であったことが示されました。また、術後の経過確認が出来た12頭の症例における長期生存率(Long-term survival rate)は50%(6/12頭)で、全来院症例のうち経過確認が出来た15頭における斃死率(Fatality rate)は60%(9/15頭)であったことが報告されています。このため、馬の有茎性脂肪腫による腸管通過障害では、外科治療が応用された場合でも、予後は中程度~不良であることが示唆されました。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬の平均年齢は16.6歳で(範囲10~26歳)、同病院における他の疝痛症例の平均年齢である8.0歳よりも有意に高く、馬の有茎性脂肪腫は高齢馬に好発する疾患であることが示唆されました。この理由としては、有茎性脂肪腫は良性の腫瘤であるため、腹腔内に形成された脂肪腫が腸管通過障害の原因となるほどのサイズまで肥大するためには、長期間を要するためと推測されており、術後に有茎性脂肪腫の再発(Recurrence)を呈した症例がいないことも、この仮説を支持するデータであると考えられます。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬のうち、去勢馬(Gelding)が77%を占め(牝馬が17%、種牡馬が6%)、他の疝痛の症例において去勢馬が占める割合(35%)よりも有意に高く、馬の有茎性脂肪腫は去勢馬に好発する疾患であることが示唆されました。この理由については明瞭には結論付けられていませんが、去勢された馬では腹腔脂肪代謝(Abdominal lipid metabolism)に変化を生じて、脂肪腫が形成され易くなる可能性があると考えられています。もちろん、去勢馬人口の全体に占める有茎性脂肪腫の割合は極めて少ないので、今後の研究では、給餌飼料の違いや放牧時間の長さなど、他の素因との関連を検証する必要があると考えられます。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬のうち、軽度~中程度の疝痛症状(Mild to moderate colic signs)を示したのは11頭(65%)、経鼻カテーテルを介しての胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)を示したのは8頭(47%)にとどまり、また、心拍数も平均67/分と必ずしも顕著な上昇は示していませんでした。これは、腸管通過障害を生じた部位および絞扼度合いによっては、疼痛や小腸から胃への消化液逆流が一定ではなかったことを示していると考察されています。一方、直腸検査(Rectal examination)で小腸膨満(Small intestinal distension)が触知されたのは76%の症例、腹水検査(Abdominocentesis)で蛋白濃度上昇(>2.5g/dL)や白血球数増加(>10000/uL)が認められたのは92%の症例に及んだことが報告されています。このため、有茎性脂肪腫の診療に際しては、臨床所見の重篤度に関わらず、必ず直腸検査や腹水検査の結果を考慮して、慎重に推定診断(Presumptive diagnosis)を下すことが重要であると考察されています。

この研究では、有茎性脂肪腫に起因する腸管通過障害の罹患部位は、八頭では空腸(Jejunum)、八頭では遠位空腸~回腸(Distal jejunum to ileum)、残りの一頭では小結腸(Small colon)で、一般的に大腸よりも小腸に多く発生する病態であることが報告されています。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬における、脂肪腫の腫瘤部位のサイズは4~14cmでしたが、脂肪腫の茎部分の長さは報告されていません。一般的に、有茎性脂肪腫を形成した馬では、腫瘤部位が大きい場合よりも、茎部分が長い場合のほうが、脂肪腫が消化管に巻きつく危険が大きく、腸管通過障害を発症し易いと考えられています。今後の研究では、疝痛以外の理由で剖検となった馬において、偶発的に発見(Incidental finding)された脂肪腫の形態を検証して、脂肪腫の腫瘤&茎部分のサイズと、腸管通過障害の発症の関係を評価する必要があると考えられます。

この研究では、腸管切除&吻合(Intestinal resection/anastomosis)が応用された14頭の有茎性脂肪腫の罹患馬のうち、六頭では空腸~空腸の端々吻合術(End-to-end jejunojejunostomy)、一頭では空腸~回腸の端々吻合術(End-to-end jejunoileal anastomosis)、六頭では空腸~結腸の端々または側々吻合術(End-to-end/Side-to-side jejunocecostomy)、一頭では小結腸の端々吻合術(End-to-end small colon anastomosis)、等の術式が用いられました。しかし、サンプル数が少ないため、どの術式がより良好な予後を示すかに関しては検証されていません。

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