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馬の文献:有茎性脂肪腫(Edwards et al. 1994)

「有茎性脂肪腫に起因する腸管通過障害を発症した75症例の解析」
Edwards GB, Proudman CJ. An analysis of 75 cases of intestinal obstruction caused by pedunculated lipomas. Equine Vet J. 1994; 26(1): 18-21.

この症例論文では、馬の有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)に起因する腸管通過障害(Intestinal obstruction)の危険因子(Risk factors)を評価するため、75頭の有茎性脂肪腫の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究では、疝痛以外の理由で剖検(Necropsy)となった75頭の来院馬を対照郡(Control group)として、有茎性脂肪腫の罹患馬との比較が行われました。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬における平均年齢は17.6歳で、対照郡の平均年齢である6.8歳よりも有意に高く、有茎性脂肪腫は比較的に高齢馬に好発する傾向が示されました。この要因としては、腹腔脂肪の蓄積(Accumulation of abdominal fat)が少ない若齢馬では脂肪腫が形成されにくいこと、および、形成された脂肪腫が腸管通過障害の原因となるほどのサイズまで肥大するには長期間を要すること、などが関与すると考えられています。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬のうち、去勢馬(Gelding)が占める割合は71%で、対照郡における去勢馬の割合51%よりも有意に高く、また、去勢馬である場合には牝馬(Mare)および種牡馬(Stallion)に比べて、有茎性脂肪腫を起こす可能性が二倍以上も高くなることが示されました(オッズ比:2.32)。このため、有茎性脂肪腫は去勢馬に好発する疾患であることが示唆されていますが、その理由については、この論文では明瞭には結論付けられていません。

この研究では、75頭の対照郡のうち、11頭において偶発的な発見(Incidental finding)として有茎性脂肪腫が見つかり、これらの対照郡における脂肪腫の重さは平均21g(範囲3~259g)で、有茎性脂肪腫の罹患馬における脂肪腫の重さである平均164g(範囲33~688g)よりも有意に高いことが示されました。このため、33g以上の脂肪腫は腸管通過障害を起こしうるという考察が試みられていますが、脂肪腫が33g以上であっても疝痛を起こしていない対照郡馬は多いため、脂肪腫の重さを単純に危険因子と見なして、そのカットオフ値を仮定するのは適当ではないのかもしれません。

この研究では、有茎性脂肪腫の茎部分が長い場合には、二箇所の消化管部位の周囲に巻きついて、腸管の完全通過障害(Complete obstruction)および虚血(Ischemia)を生じている所見が多く認められました。一方、有茎性脂肪腫の茎部分が短い場合には、一箇所の消化管部位において、腸管の圧迫(Intestinal compression)のみを生じる傾向が認められました。このため、有茎性脂肪腫に起因する腸管通過障害においては、脂肪腫の腫瘤部位のサイズよりも、茎部分の長さのほうが、より重要な危険因子になる可能性があると考えられます。

この研究では、有茎性脂肪腫の罹患馬のうち、ポニーが占める割合は44%で、対照郡におけるポニーの割合17%よりも有意に高く、また、ポニーである場合には他の品種に比べて、有茎性脂肪腫を起こす可能性が四倍近くも高くなることが示されました(オッズ比:3.75)。このため、有茎性脂肪腫はポニーに好発する疾患であることが示唆されています。一般的に、ポニーは脂肪代謝(Lipid metabolism)が他の品種を異なることが報告されており、これが腹腔内での脂肪腫形成を起こしやすかった遺伝性素因(Genetic predisposition)である可能性が論じられています。また、ショーホースと飼養されているポニーは肥満状態になりやすいことも、脂肪腫ができやすい要因であると考察されています。

この研究では、外科治療が応用された有茎性脂肪腫では、その短期生存率(Short-term survival rate)は48%で、同病院における外科的な疝痛馬全体における短期生存率である79%よりも高い傾向が示されました。また、一年以上の経過追跡(Follow-up)が出来なかった馬を除いた場合、有茎性脂肪腫の長期生存率(Long-term survival rate)は38%にとどまり、また、退院した馬の三割以上において、疝痛症状の再発(Recurrence of colic signs)が見られたことが報告されています。このため、馬の有茎性脂肪腫における予後は中程度以下で、予後不良を呈して安楽死が選択される症例も多いことが示唆されました。

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