馬の文献:有茎性脂肪腫(Downes et al. 1994)
文献 - 2015年10月05日 (月)
「有茎性脂肪腫による回帰性疝痛を起こした馬の一症例」
Downes EE, Ragle CA, Hines MT. Pedunculated lipoma associated with recurrent colic in a horse. J Am Vet Med Assoc. 1994; 204(8): 1163-1164.
この論文では、有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)に起因して回帰性疝痛(Recurrent colic)を発症した、15歳齢のアラビアン去勢馬(Gelding)の診療記録が報告されています。この症例の病歴では、来院前の三ヶ月間に軽度~重度の疝痛症状(Mild to severe colic sign)が七回にわたって認められましたが、来院時の初診においては、血液検査、直腸検査(Rectal examination)、胃内視鏡検査(Gastroscopy)、および直腸壁の生検(Rectal mucosal biopsy)のいずれも顕著な異常を示しませんでした。
この症例は、来院から八日目に再び疝痛症状を呈したことから、病因を確定するための探索的開腹術(Exploratory celiotomy)が実施されました。手術では、極めて大型(直径30cm、重さ9kg)の腫瘤が、十二指腸間膜(Jejunal mesentery)に茎で付着するかたちで形成されていましたが、小腸の絞扼(Strangulation)や通過障害(Obstruction)の発現は認められませんでした。この腫瘤は外科的に切除(Surgical resection)され、病理組織学検査(Histopathologic examination)によって有茎性脂肪腫の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、術後には疝痛の再発(Recurrence)は一度も見られませんでした。
馬における有茎性脂肪腫は、小腸(Small intestine)または小結腸(Small colon)の絞扼および通過障害を起こして、急性発現性(Acute onset)の重度疝痛を呈することが一般的です。しかし、この症例では、形成された脂肪腫が極めて大型であったため、消化管の周囲に巻きつくことなく、腸間膜への緊張(Tension on mesentery)もしくは周囲の腸管の圧迫(Compression on adjacent intestine)に起因する、極めて稀な回帰性疝痛の症状を示したと推測されています。このため、軽度の疝痛を繰り返し起こす症例においては、有茎性脂肪腫を鑑別診断のリストに加える必要があるのかもしれませんが、この症例では直腸検査による腫瘤の触知はできなかったため、開腹術または腹腔鏡手術(Laparoscopy)による診断を要すると考えられます。
他の文献によれば、馬の有茎性脂肪腫の腫瘤部位は通常は200g程度で、サイズの大きい症例でも1kgを超えることはありません。この症例のアラビアン馬には、特に変わった飼料や飼養法は認められず、なぜ9kgにおよぶ大型の脂肪腫が形成されたのかについては、明確には結論付けられていません。また、病理組織学検査においても、悪性腫瘤(Malignant mass)の所見は認められませんでした。
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この論文では、有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)に起因して回帰性疝痛(Recurrent colic)を発症した、15歳齢のアラビアン去勢馬(Gelding)の診療記録が報告されています。この症例の病歴では、来院前の三ヶ月間に軽度~重度の疝痛症状(Mild to severe colic sign)が七回にわたって認められましたが、来院時の初診においては、血液検査、直腸検査(Rectal examination)、胃内視鏡検査(Gastroscopy)、および直腸壁の生検(Rectal mucosal biopsy)のいずれも顕著な異常を示しませんでした。
この症例は、来院から八日目に再び疝痛症状を呈したことから、病因を確定するための探索的開腹術(Exploratory celiotomy)が実施されました。手術では、極めて大型(直径30cm、重さ9kg)の腫瘤が、十二指腸間膜(Jejunal mesentery)に茎で付着するかたちで形成されていましたが、小腸の絞扼(Strangulation)や通過障害(Obstruction)の発現は認められませんでした。この腫瘤は外科的に切除(Surgical resection)され、病理組織学検査(Histopathologic examination)によって有茎性脂肪腫の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、術後には疝痛の再発(Recurrence)は一度も見られませんでした。
馬における有茎性脂肪腫は、小腸(Small intestine)または小結腸(Small colon)の絞扼および通過障害を起こして、急性発現性(Acute onset)の重度疝痛を呈することが一般的です。しかし、この症例では、形成された脂肪腫が極めて大型であったため、消化管の周囲に巻きつくことなく、腸間膜への緊張(Tension on mesentery)もしくは周囲の腸管の圧迫(Compression on adjacent intestine)に起因する、極めて稀な回帰性疝痛の症状を示したと推測されています。このため、軽度の疝痛を繰り返し起こす症例においては、有茎性脂肪腫を鑑別診断のリストに加える必要があるのかもしれませんが、この症例では直腸検査による腫瘤の触知はできなかったため、開腹術または腹腔鏡手術(Laparoscopy)による診断を要すると考えられます。
他の文献によれば、馬の有茎性脂肪腫の腫瘤部位は通常は200g程度で、サイズの大きい症例でも1kgを超えることはありません。この症例のアラビアン馬には、特に変わった飼料や飼養法は認められず、なぜ9kgにおよぶ大型の脂肪腫が形成されたのかについては、明確には結論付けられていません。また、病理組織学検査においても、悪性腫瘤(Malignant mass)の所見は認められませんでした。
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