馬の文献:術後腸閉塞(Blikslager et al. 1994)
文献 - 2015年10月07日 (水)
「馬の術後腸閉塞の発病因子の評価:1990~1992年の31症例」
Blikslager AT, Bowman KF, Levine JF, Bristol DG, Roberts MC. Evaluation of factors associated with postoperative ileus in horses: 31 cases (1990-1992). J Am Vet Med Assoc. 1994; 205(12): 1748-1752.
この症例論文では、馬の術後腸閉塞(Postoperative ileus)の発病に関与する因子を評価するため、1990~1992年における31頭の術後腸閉塞の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究では、心拍数増加(>60/min)または腹痛症状(Signs of abdominal pain)に加えて、経鼻カテーテルからの胃逆流液排出(Nasogastric reflux)が毎時2リットル以上に及んだ場合に、術後腸閉塞を発症したという症例選択基準(Inclusion criteria)が用いられました。
結果としては、148頭の外科的疝痛馬のうち、術後腸閉塞を続発した症例は31頭で、罹患率は21%であったことが報告されています。このうち、術後腸閉塞の罹患馬の斃死率(Mortality rate)は13%であったのに対して(4/31頭が安楽死)、術後腸閉塞を起こさなかった馬の斃死率は5%に過ぎなかったことから(6/117頭が安楽死)、術後腸閉塞は開腹術による外科的療法が応用された疝痛馬において、その予後に深刻な影響を与える重要な術後合併症(Postoperative complication)であることが示唆されました。
この研究では、多重ロジスティック回帰分析(Multiple logistic regression analysis)の結果から、PCV値が48%以上である場合や、心拍数の顕著な増加(>80/min)を示した場合には、術後腸閉塞を発症する可能性が五倍~七倍近くも高くなることが示されました(オッズ比:5.1~6.9)。これは、血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、内毒素血症(Endotoxemia)、心血管性悪化(Cardiovascular deterioration)などから、腸管自動能の迷走(Aberration of intestinal motility)を引き起こして、術後腸閉塞の発症に至ったものと推測されています。このため、これらの術前所見が見られた症例に対しては、術後腸閉塞を続発する危険性を考慮して、積極的な内科的療法(Aggressive medical treatment)によって、術後腸閉塞の予防&早期治療に努める指針が有効であると考えられました。
この研究では、多重ロジスティック回帰分析の結果から、開腹術時に小腸虚血(Small intestinal ischemia)が認められた場合には、術後腸閉塞を発症する可能性が十六倍以上も高くなることが示されました(オッズ比:16.2)。これは、腸壁の虚血性壊死(Ischemic necrosis)による罹患部小腸の機能不全を生じたためと考えられ、小腸疾患に起因する疝痛の外科的治療時には、虚血を起こした部位の腸管の積極的な切除および吻合術(Small intestinal resection/anastomosis)を実施して、術後腸閉塞発症の危険を最小限に抑える治療指針が重要である事が示唆されました。
他の文献によれば、馬の術後腸閉塞の発現に際しては、血清電解質の不均衡(Serum electrolyte imbalance)による腸蠕動異常が関与することが報告されています。この研究では、術後の血液検査結果が不明な症例が多かった事から、この危険因子の影響は評価されていませんが、術前および術後に電解質不均衡が見られた症例に対しては、十分な補液療法(Fluid therapy)によって、速やかに電解質均衡を回帰させることが重要であると提唱されています。
この研究では、31頭の術後腸閉塞の罹患馬のうち、23%(7/31頭)において腹膜炎(Peritonitis)の併発が認められ、これには、腹腔内の炎症発現に伴う抑制的神経反射(Inhibitory neural refluxes)が関与していると考察されています。また、これらの症例に対しては、抗生物質療法(Anti-microbial therapy)や腹腔洗浄(Abdominal lavage)が実施され、70%(5/7頭)において良好な予後が達成されたことが報告されています。
この研究では、31頭の術後腸閉塞の罹患馬のうち、七頭において二度目の開腹術が実施され、癒着による小腸通過障害(Small intestinal obstruction by adhesion)、小腸捻転(Small intestinal volvulus)、小腸の多巣性壊死(Multifocal necrosis)などが認められました。また、小腸の機械的通過障害(Mechanical obstruction of small intestine)と術後腸閉塞の鑑別診断(Differential diagnosis)は必ずしも明瞭ではない場合もある、という指摘もなされています。しかし、この論文は馬の疝痛診断において腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)がまだ頻繁には用いられていない時代に書かれた報告であるため、今後の研究では、超音波検査を介して、より信頼的に小腸病態を把握することで、内科的治療を継続するか、二度目の開腹術に踏み切るかの判断を下す指針が、術後腸閉塞の治療において有用であるか否かを評価する必要があると考えられました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:術後腸閉塞


Blikslager AT, Bowman KF, Levine JF, Bristol DG, Roberts MC. Evaluation of factors associated with postoperative ileus in horses: 31 cases (1990-1992). J Am Vet Med Assoc. 1994; 205(12): 1748-1752.
この症例論文では、馬の術後腸閉塞(Postoperative ileus)の発病に関与する因子を評価するため、1990~1992年における31頭の術後腸閉塞の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究では、心拍数増加(>60/min)または腹痛症状(Signs of abdominal pain)に加えて、経鼻カテーテルからの胃逆流液排出(Nasogastric reflux)が毎時2リットル以上に及んだ場合に、術後腸閉塞を発症したという症例選択基準(Inclusion criteria)が用いられました。
結果としては、148頭の外科的疝痛馬のうち、術後腸閉塞を続発した症例は31頭で、罹患率は21%であったことが報告されています。このうち、術後腸閉塞の罹患馬の斃死率(Mortality rate)は13%であったのに対して(4/31頭が安楽死)、術後腸閉塞を起こさなかった馬の斃死率は5%に過ぎなかったことから(6/117頭が安楽死)、術後腸閉塞は開腹術による外科的療法が応用された疝痛馬において、その予後に深刻な影響を与える重要な術後合併症(Postoperative complication)であることが示唆されました。
この研究では、多重ロジスティック回帰分析(Multiple logistic regression analysis)の結果から、PCV値が48%以上である場合や、心拍数の顕著な増加(>80/min)を示した場合には、術後腸閉塞を発症する可能性が五倍~七倍近くも高くなることが示されました(オッズ比:5.1~6.9)。これは、血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、内毒素血症(Endotoxemia)、心血管性悪化(Cardiovascular deterioration)などから、腸管自動能の迷走(Aberration of intestinal motility)を引き起こして、術後腸閉塞の発症に至ったものと推測されています。このため、これらの術前所見が見られた症例に対しては、術後腸閉塞を続発する危険性を考慮して、積極的な内科的療法(Aggressive medical treatment)によって、術後腸閉塞の予防&早期治療に努める指針が有効であると考えられました。
この研究では、多重ロジスティック回帰分析の結果から、開腹術時に小腸虚血(Small intestinal ischemia)が認められた場合には、術後腸閉塞を発症する可能性が十六倍以上も高くなることが示されました(オッズ比:16.2)。これは、腸壁の虚血性壊死(Ischemic necrosis)による罹患部小腸の機能不全を生じたためと考えられ、小腸疾患に起因する疝痛の外科的治療時には、虚血を起こした部位の腸管の積極的な切除および吻合術(Small intestinal resection/anastomosis)を実施して、術後腸閉塞発症の危険を最小限に抑える治療指針が重要である事が示唆されました。
他の文献によれば、馬の術後腸閉塞の発現に際しては、血清電解質の不均衡(Serum electrolyte imbalance)による腸蠕動異常が関与することが報告されています。この研究では、術後の血液検査結果が不明な症例が多かった事から、この危険因子の影響は評価されていませんが、術前および術後に電解質不均衡が見られた症例に対しては、十分な補液療法(Fluid therapy)によって、速やかに電解質均衡を回帰させることが重要であると提唱されています。
この研究では、31頭の術後腸閉塞の罹患馬のうち、23%(7/31頭)において腹膜炎(Peritonitis)の併発が認められ、これには、腹腔内の炎症発現に伴う抑制的神経反射(Inhibitory neural refluxes)が関与していると考察されています。また、これらの症例に対しては、抗生物質療法(Anti-microbial therapy)や腹腔洗浄(Abdominal lavage)が実施され、70%(5/7頭)において良好な予後が達成されたことが報告されています。
この研究では、31頭の術後腸閉塞の罹患馬のうち、七頭において二度目の開腹術が実施され、癒着による小腸通過障害(Small intestinal obstruction by adhesion)、小腸捻転(Small intestinal volvulus)、小腸の多巣性壊死(Multifocal necrosis)などが認められました。また、小腸の機械的通過障害(Mechanical obstruction of small intestine)と術後腸閉塞の鑑別診断(Differential diagnosis)は必ずしも明瞭ではない場合もある、という指摘もなされています。しかし、この論文は馬の疝痛診断において腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)がまだ頻繁には用いられていない時代に書かれた報告であるため、今後の研究では、超音波検査を介して、より信頼的に小腸病態を把握することで、内科的治療を継続するか、二度目の開腹術に踏み切るかの判断を下す指針が、術後腸閉塞の治療において有用であるか否かを評価する必要があると考えられました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:術後腸閉塞