馬の文献:術後腸閉塞(Dart et al. 1996)
文献 - 2015年10月07日 (水)
「馬の小腸手術後の腸閉塞に対するメトクロプラミドの治療効果の評価:1989~1992年の70症例」
Dart AJ, Peauroi JR, Hodgson DR, Pascoe JR. Efficacy of metoclopramide for treatment of ileus in horses following small intestinal surgery: 70 cases (1989-1992). Aust Vet J. 1996; 74(4): 280-284.
この症例論文では、馬の術後腸閉塞(Postoperative ileus)に対するメトクロプラミド(Metoclopramide)の治療効果を評価するため、1989~1992年において小腸疾患による開腹術(Laparotomy)が行われた70頭の罹患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究には、35頭の空腸々々吻合術(Jejunojejunal anastomosis)、および35頭の空腸盲腸吻合術(Jejunocecal anastomosis)の症例が含まれ、このうち、17頭ではメトクロプラミドの持続点滴(Continuous infusion)、27頭では間欠性点滴(Intermittent infusion)が実施され、残りの26頭は無投与の対照郡になりました。
結果としては、メトクロプラミドの持続点滴が行われた症例では、間欠性点滴郡および無投与郡に比較して、経鼻カテーテルからの胃逆流液排出(Nasogastric reflux)の総量、毎時当たりの排出量、胃逆流液の持続期間が、それぞれ有意に減少することが示されました。メトクロプラミドは、第一世代ベンザマイド(First generation benzamide)に属し、ドーパミン受容体拮抗(Dopamine receptor antagonism)や、5ハイドロキシトリプタミン4および5ハイドロキシトリプタミン3等の受容体拮抗(5-HT4 and 5-HT3 receptor antagonism)の作用によって、胃および小腸の収縮運動を亢進させる効果が期待できることから、この腸管運動の促進作用によって、小腸手術後の腸閉塞が予防もしくは改善されたことが示唆されました。
この研究では、70頭の症例のうち、安楽死(Euthanasia)が選択された非生存馬(Non-survivors)は八頭で、症例全体の生存率は89%であったことが報告されています。このうち、メトクロプラミド投与の有無および投与方法(持続および間欠性点滴)は、斃死率(Mortality rate)そのものには有意に影響しないという結果が示されましたが、メトクロプラミドの持続点滴が行われた症例のほうが、他の二郡に比較して、患馬の入院日数(Hospitalization length)が有意に短かった事が報告されています。このため、小腸運動促進剤の投与のみによって、重篤な術後腸閉塞を呈するほどの腸管損傷を完治させる効能は薄いものの、腸閉塞病態をより早期に改善させることで、入院期間の短縮および治療費の減少効果が期待されることが示唆されました。
この研究では、空腸盲腸吻合術が応用された患馬のほうが、空腸々々吻合術が応用された患馬に比較して、胃逆流液排出の総量、毎時当たりの排出量、胃逆流液の持続期間、および患馬の入院日数が、それぞれ有意に多かった、又は長かったことが示されました。一般的に、空腸盲腸吻合術のほうが、空腸々々吻合術に比べて予後が悪化しやすい要因としては、回腸断端(Ileal stump)から腸内容物漏出(Ingesta leakage)を生じて腹腔汚染(Abdominal contamination)を起こしやすいこと、空腸盲腸吻合によって回腸盲腸弁(Ileocecal valve)の機能損失を生じる場合があること、罹患部位の回腸全域を摘出するのは困難である場合が多いこと、栄養物の消化能および吸収能の低下(Decreased nutrient digestibility/absorption)を呈する症例が多いこと、などが挙げられます。
この研究では、非生存馬のほうが生存馬(Survivors)に比較して、開腹術時に有意に長い小腸が切除されていたことが示されました。これは、虚血性壊死(Ischemic necrosis)を生じた小腸部位(=切除を要した小腸部位)が長い症例ほど、前後の腸管の損傷が重篤であったり、より重度の内毒素血症(Endotoxemia)を起こして、術後腸閉塞を含む合併症を続発し、予後不良に至ったためと推測されています。一方で、より長い腸管が切除された症例ほど、吻合部位の前後の腸管が同調的な腸蠕動(Synchronized peristalsis)を起こす能力を回帰しにくく、その結果、より重篤な術後腸閉塞を呈した可能性もあると仮説されています。
馬の術後腸閉塞において、メトクロプラミドを投与するタイミングについては論議がありますが、他の文献の研究結果(Gerring and Hunt. EVJ. 1986; 18: 249-255)によれば、小腸からの逆流液によって重度の胃膨満(Severe gastric distension)が生じていた場合には、胃壁の電気機械的活動(Electromechanical activity)とそれに伴う十二指腸運動(Duodenal motility)が、メトクロプラミドによる腸管運動促進作用に関与する可能性が示唆されています。このため、術後腸閉塞を呈した症例に対しては、経鼻カテーテルを介しての胃除圧(Gastric decompression)を行った直後にメトクロプラミドを投与することで、より効果的な腸閉塞の予防や改善が期待できるという考察がなされています。
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結果としては、メトクロプラミドの持続点滴が行われた症例では、間欠性点滴郡および無投与郡に比較して、経鼻カテーテルからの胃逆流液排出(Nasogastric reflux)の総量、毎時当たりの排出量、胃逆流液の持続期間が、それぞれ有意に減少することが示されました。メトクロプラミドは、第一世代ベンザマイド(First generation benzamide)に属し、ドーパミン受容体拮抗(Dopamine receptor antagonism)や、5ハイドロキシトリプタミン4および5ハイドロキシトリプタミン3等の受容体拮抗(5-HT4 and 5-HT3 receptor antagonism)の作用によって、胃および小腸の収縮運動を亢進させる効果が期待できることから、この腸管運動の促進作用によって、小腸手術後の腸閉塞が予防もしくは改善されたことが示唆されました。
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この研究では、空腸盲腸吻合術が応用された患馬のほうが、空腸々々吻合術が応用された患馬に比較して、胃逆流液排出の総量、毎時当たりの排出量、胃逆流液の持続期間、および患馬の入院日数が、それぞれ有意に多かった、又は長かったことが示されました。一般的に、空腸盲腸吻合術のほうが、空腸々々吻合術に比べて予後が悪化しやすい要因としては、回腸断端(Ileal stump)から腸内容物漏出(Ingesta leakage)を生じて腹腔汚染(Abdominal contamination)を起こしやすいこと、空腸盲腸吻合によって回腸盲腸弁(Ileocecal valve)の機能損失を生じる場合があること、罹患部位の回腸全域を摘出するのは困難である場合が多いこと、栄養物の消化能および吸収能の低下(Decreased nutrient digestibility/absorption)を呈する症例が多いこと、などが挙げられます。
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馬の術後腸閉塞において、メトクロプラミドを投与するタイミングについては論議がありますが、他の文献の研究結果(Gerring and Hunt. EVJ. 1986; 18: 249-255)によれば、小腸からの逆流液によって重度の胃膨満(Severe gastric distension)が生じていた場合には、胃壁の電気機械的活動(Electromechanical activity)とそれに伴う十二指腸運動(Duodenal motility)が、メトクロプラミドによる腸管運動促進作用に関与する可能性が示唆されています。このため、術後腸閉塞を呈した症例に対しては、経鼻カテーテルを介しての胃除圧(Gastric decompression)を行った直後にメトクロプラミドを投与することで、より効果的な腸閉塞の予防や改善が期待できるという考察がなされています。
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