馬の病気:盲腸便秘
馬の消化器病 - 2013年04月24日 (水)

盲腸便秘(Cecal impaction)について。
盲腸における便秘症は、盲腸内に圧縮および硬化された糞便が詰まるタイプ1病態(一次性便秘:Primary impaction)、もしくは、腸壁肥厚化(Intestinal wall thickening)を起こした盲腸内に液体と非硬化性の糞便が貯留するタイプ2病態(二次性便秘:Secondary impaction)に分類されます。タイプ1盲腸便秘は、単純性の力学的閉塞(Simple mechanical obstruction)が病因であると考えられ、過食(Overeating)、咀嚼不全(Poor mastication)、飲水不足(Reduced water intake)、寄生虫性血栓症(Parasitic thrombosis)、分娩(Parturition)などが素因として挙げられています。一方、タイプ2盲腸便秘は、盲腸運動障害(Cecal motility dysfunction)が病因であると考えられ、条虫侵襲(Tapeworm infestation)による粘膜炎症や、他の病気での入院(Hospitalization)による運動不足と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与なども素因となる可能性が示唆されています。一般的に盲腸便秘は、15歳以上の高齢馬に多く見られ、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)を給餌されている馬、および、アラビアン、アパルーサ、モルガン等の品種での発症率が高いことが報告されています。
タイプ1盲腸便秘の症状としては、5~7日間にわたって発現する軽度~中程度の疝痛症状(Mild to moderate colic)を示すため、大結腸便秘(Large colon impaction)と混同される場合も多いですが、盲腸便秘の罹患馬では盲腸破裂(Cecal rupture)を続発する危険が高いことから、この二つの病態を適切に鑑別することが重要です。タイプ2盲腸便秘の症状としては、抑鬱(Depression)や排糞減少(Decreased fecal output)を呈しますが、入院時の手術後に発症することが多いため、原発疾患に起因する症状であるかどうかの判断が難しい疾患であると言えます。一般的に、一日当たり三つ以上の馬糞のかたまりが馬房内に認められない症例では、排糞減少と盲腸便秘を疑い、直腸検査(Rectal examination)を実施することが推奨されています。
盲腸便秘の診断は、直腸検査によって硬化および膨満した盲腸底部(Cecal base)を触知することで下されることが一般的ですが、盲腸尖端(Cupula cecum)に限局性の病変は直腸検査で発見できず、腹側盲腸紐(Ventral cecal band)がキツク触知されるのみの場合もあります。また、慎重な触診によって、膨満した腸管が腹腔の右側に偏向して存在し、その上端が背側腹膜と結合していること触知することで、約九割の盲腸便秘において、大結腸便秘との鑑別が可能であることが示されています。また、タイプ2盲腸便秘では、腹水検査(Abdominocentesis)による蛋白濃度の上昇や、腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)による盲腸壁の肥厚化などが認められる症例もあります。
盲腸便秘の内科治療では、経腸的補液療法(Enteral fluid therapy)や経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)による全身性再水和(Systemic rehydration)と腸内容物の軟化(Softening of impacted ingesta)が試みられたり、ミネラルオイル、硫酸マグネシウム(Magnesium sulfate)、サイリウムなどの緩下剤(Laxatives)、および、界面活性剤としてのジオクチルソジウムスルホサクシネート(Dioctyl sodium sulfosuccinate)が、経鼻カテーテルを介して経口投与される場合もあります。しかし、内科的治療には不応性(Refractory)を示す症例が多いことや、盲腸破裂を続発する危険を考慮して、速やかに開腹手術(Celiotomy)が応用される症例が大多数です。
盲腸便秘の外科治療においては、内科的治療に不応性のタイプ1病態と、タイプ2病態のうちで、盲腸壁の肥厚が見られず、右腹側結腸(Right ventral colon)への内容物流入が認められる症例では、盲腸切開術(Typhlotomy)によって停滞物の除去を施します。タイプ2病態のうちで、盲腸運動障害に起因する盲腸壁の肥厚が見られ、右腹側結腸への内容物流入が確認できない症例では、盲腸のバイパス形成が推奨されており、術式としては、盲腸結腸吻合術(Cecocolic anastomosis)、回腸結腸瘻造設術(Ileocolostomy)、空腸結腸瘻造設術(Jejunocolostomy)などを用いられています。一方、術後に盲腸破裂を起こす危険があると考えられた症例においては、盲腸の完全または部分切除術(Complete/Partial typhlectomy)が実施される場合もあります。
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