馬の文献:大結腸便秘(Lopes et al. 2002)
文献 - 2015年10月10日 (土)
「結腸水和治療:経腸補液療法と経静脈補液および硫酸マグネシウム療法の比較」
Lopes MA, Walker BL, White NA 2nd, Ward DL. Treatments to promote colonic hydration: enteral fluid therapy versus intravenous fluid therapy and magnesium sulphate. Equine Vet J. 2002; 34(5): 505-509.
この研究論文では、主に馬の大結腸便秘(Large colon impaction)の治療を目的として行われる、経腸補液療法(Enteral fluid therapy)および経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)の治療効果の比較が行われました。この論文では、右背側大結腸(Right dorsal colon)に瘻孔(Fistula)を設置した四頭の実験馬を用いて、60Lの生食の経腸投与(Enteral administration)、もしくは60Lの乳酸リンゲル溶液(Lactated Ringer’s solution)の経静脈投与(Intravenous administration)と硫酸マグネシウムの経口投与(Magnesium sulphate)を実施して、臨床症状、血液検査、腸内容物と糞便の組成評価が行われました。
結果としては、経腸補液療法および経静脈補液+硫酸Mg療法の両方において、腸内容物水和(Ingesta hydration)および糞便水和(Fecal hydration)が認められましたが、腸内容物水和の効果は、経腸補液療法のほうが高かったことが分かりました。また、排糞回数増加、体重増加、腹囲増加などにおいても、経腸補液療法のほうが経静脈補液+硫酸Mg療法よりも優れていることが示されました。血液検査では、経静脈補液+硫酸Mg療法において、経腸補液療法よりも有意に顕著な、血中蛋白濃度の変動、高マグネシウム血症(Hypermagnesemia)、低カルシウム血症(Hypocalcemia)などが認められました。
これらの結果から、馬の大結腸便秘の内科的治療に際しては、経静脈補液に硫酸マグネシウム経口投与を併用する療法に比べて、経腸補液療法のほうがより効果的に腸内容物の水和や軟化を達成でき、全身性の副作用も少ないことが示唆されました。
この論文では、経腸補液療法において、経静脈補液+硫酸Mg療法よりも有意に高い体重増加および腹囲増加が認められた事から、経静脈補液よりも経腸補液された溶液のほうが、無駄なくより効果的に消化管内環境に作用されたと考察されています。この実験では、排尿回数や排尿量の記録は行われていませんが、経静脈補液では腸壁を介して腸管内へと作用する溶液量よりも、泌尿器から損失される量も多いことが予想されます。
この論文では、経腸補液療法によって排糞回数が増加することが観察されており、これは経腸補液による胃内容物の増量から胃結腸反射(Gastrocolic response)を生じたものと考えられ、大結腸便秘の治療に際してはこの反射による腸蠕動亢進(Increasing intestinal motility)という付加的効能も期待できると考察されています。ただ、四頭の実験馬のうち二頭において、軽度の腹部不快感(Mild abdominal discomfort)の兆候が見られたことから、実際の臨床症例では、胃カテーテルからの排出量や、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)や直腸検査(Rectal examination)による腸管膨満(Intestinal distension)の重篤度、および妊娠牝馬であるかなどの点を考慮して、適切な経腸補液の投与量を決定し、投与後も慎重なモニタリングを継続することが重要であると考えられます。
この論文では、経静脈補液+硫酸Mg療法において、有意に顕著な高マグネシウム血症や低カルシウム血症が認められましたが、治療終了後には速やかに正常値まで回復しています。しかし、これらの病態による影響を正確に予測するためには、イオン化マグネシウム&カルシウム(Ionized calcium and magnesium)の評価が必要であると考えられます。また他の文献では、脱水(Dehydration)を呈した疝痛馬に硫酸Mg投与を行ったことで、マグネシウム中毒(Magnesium toxicosis)を引き起こしたという症例報告もあります。このため、もともと電解質不均衡(Electrolyte imbalance)や脱水を生じている可能性のある疝痛馬においては、経静脈補液+硫酸Mg療法よりも全身性の副作用の少ない、経腸補液療法を選択するべきであるという考察がなされています。
この論文では、健康な実験馬に対する効能のみが評価されているため、実際の疝痛馬において、経腸補液療法のほうが有意に効果的な治療指針であるかどうかは断定できません。しかし、もし経腸補液療法と経静脈補液+硫酸Mg療法によって、ほとんど同程度の治療効果が期待できるとすれば、経済的で全身性副作用が少なく、かつ静脈カテーテルによる合併症の危険も少ないという利点を考え、経腸補液療法が選択される場面が多いのかもしれません。
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結果としては、経腸補液療法および経静脈補液+硫酸Mg療法の両方において、腸内容物水和(Ingesta hydration)および糞便水和(Fecal hydration)が認められましたが、腸内容物水和の効果は、経腸補液療法のほうが高かったことが分かりました。また、排糞回数増加、体重増加、腹囲増加などにおいても、経腸補液療法のほうが経静脈補液+硫酸Mg療法よりも優れていることが示されました。血液検査では、経静脈補液+硫酸Mg療法において、経腸補液療法よりも有意に顕著な、血中蛋白濃度の変動、高マグネシウム血症(Hypermagnesemia)、低カルシウム血症(Hypocalcemia)などが認められました。
これらの結果から、馬の大結腸便秘の内科的治療に際しては、経静脈補液に硫酸マグネシウム経口投与を併用する療法に比べて、経腸補液療法のほうがより効果的に腸内容物の水和や軟化を達成でき、全身性の副作用も少ないことが示唆されました。
この論文では、経腸補液療法において、経静脈補液+硫酸Mg療法よりも有意に高い体重増加および腹囲増加が認められた事から、経静脈補液よりも経腸補液された溶液のほうが、無駄なくより効果的に消化管内環境に作用されたと考察されています。この実験では、排尿回数や排尿量の記録は行われていませんが、経静脈補液では腸壁を介して腸管内へと作用する溶液量よりも、泌尿器から損失される量も多いことが予想されます。
この論文では、経腸補液療法によって排糞回数が増加することが観察されており、これは経腸補液による胃内容物の増量から胃結腸反射(Gastrocolic response)を生じたものと考えられ、大結腸便秘の治療に際してはこの反射による腸蠕動亢進(Increasing intestinal motility)という付加的効能も期待できると考察されています。ただ、四頭の実験馬のうち二頭において、軽度の腹部不快感(Mild abdominal discomfort)の兆候が見られたことから、実際の臨床症例では、胃カテーテルからの排出量や、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)や直腸検査(Rectal examination)による腸管膨満(Intestinal distension)の重篤度、および妊娠牝馬であるかなどの点を考慮して、適切な経腸補液の投与量を決定し、投与後も慎重なモニタリングを継続することが重要であると考えられます。
この論文では、経静脈補液+硫酸Mg療法において、有意に顕著な高マグネシウム血症や低カルシウム血症が認められましたが、治療終了後には速やかに正常値まで回復しています。しかし、これらの病態による影響を正確に予測するためには、イオン化マグネシウム&カルシウム(Ionized calcium and magnesium)の評価が必要であると考えられます。また他の文献では、脱水(Dehydration)を呈した疝痛馬に硫酸Mg投与を行ったことで、マグネシウム中毒(Magnesium toxicosis)を引き起こしたという症例報告もあります。このため、もともと電解質不均衡(Electrolyte imbalance)や脱水を生じている可能性のある疝痛馬においては、経静脈補液+硫酸Mg療法よりも全身性の副作用の少ない、経腸補液療法を選択するべきであるという考察がなされています。
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