馬の文献:大結腸便秘(Hallowell. 2008)
文献 - 2015年10月10日 (土)

「大結腸便秘に対する治療効果の回顧的解析」
Hallowell GD. Retrospective study assessing efficacy of treatment of large colonic impactions. Equine Vet J. 2008; 40(4): 411-413.
この症例論文では、大結腸便秘(Large colon impaction)に対する治療効果を評価するため、大結腸便秘の罹患馬の診療記録の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。結果としては、30分置きまたは1時間置きの経腸補液療法(Enteral fluid therapy)による治療が行われた患馬のほうが、2時間置きの経腸補液療法または経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)による治療が行われた患馬に比べて、有意に短時間で便秘症状の解消が見られました。また、経腸補液療法のほうが経静脈補液療法に比べて、四分の一以下の治療費しか掛からず、入院日数も有意に短かったことが示されました。
これらの結果から、馬の大結腸便秘の内科的治療に際しては、経静脈補液に比べて経腸補液療法のほうが、より効果的かつ短時間で便秘病態の改善を達成でき、経済性も高いことが示唆されました。
この論文では、他の文献で報告されている経腸補液療法の効能が再現されたのみならず、治療費や入院日数の面でも、経腸補液のほうが経静脈補液よりも優れていることが示されました。2時間置きの経腸補液療法では経静脈補液療法に比べて、治療効果には有意差が無かったものの、治療費はやはり安価であったことが報告されています。また、経腸補液療法において有意に頻度の高い、頚静脈(Jugular vein)の血栓性静脈炎(Thrombophlebitis)の発症が見られました(経静脈補液が行われた馬の25%)。このため、この合併症の危険性、および治療費を考慮しても、静脈カテーテルを要しない経腸補液療法のほうが、経静脈補液療法よりも好ましい内科治療指針であると考えられました。
この論文のデータは、回顧的解析による診療記録の評価に基づいているため、全ての大結腸便秘の罹患馬に対して、無作為に治療法(経腸補液 vs 経静脈補液)を選択する手法は行われていません。このため、臨床獣医師の判断によっては、比較的治りが早いと思われる軽度の大結腸便秘に対して、より頻繁に簡易で安価な経腸補液療法が実施され、予後が悪そうな重度の大結腸便秘に対して、より頻繁に経静脈補液療法が実施された可能性は否定できません。これは臨床症例を用いての研究においては常に生じる治療効果の偏向(Bias)であると言えます(=効果が低そうな治療法は始めからあまり行われない傾向)。
この論文では、予後に影響する要因を絞り込むため、入院時に明らかな脱水症状(Dehydration)が認められた症例や、入院時において24時間以上の疝痛兆候は示した症例は除外されています。このため、今後の研究では、全身症状を伴う重篤な大結腸便秘の罹患馬や、経過が長引いた症例に対して、経腸補液と経静脈補液の併用による相乗的な治療効果(Synergetic treatment effects)が期待できるのか否かを評価する必要があると考えられます。
この論文では、患馬の平均入院期間は、経腸補液療法では四日間、経静脈補液療法では七日間と、顕著な有意差が認められました。ただ、この診療施設では、乾草飼料の摂食が可能になるまでは出来るだけ退院させない方針であったため、馬主の経済的理由によっては、これよりも短期間で退院させて自宅での治療を継続することで、治療費の削減に努めることが可能になる症例もあると考察されています。
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