馬の文献:砂疝(Ragle et al. 1989a)
文献 - 2015年10月12日 (月)

「腹部聴診による実験的な消化管砂貯留の探知」
Ragle CA, Meagher DM, Schrader JL, Honnas CM. Abdominal auscultation in the detection of experimentally induced gastrointestinal sand accumulation. J Vet Intern Med. 1989; 3(1): 12-14.
この研究論文では、腹部聴診(Abdominal auscultation)による馬の砂疝(Sand enteropathy)の診断の有用性を評価するため、七頭の実験馬(Experimental horses)に対して経鼻胃カテーテル(Nasogastric tube)を介して砂の投与(4.2g per kg body weight)が行われ、八頭の対照馬(Control horses)と一緒に、盲目的(Blindly)な腹部聴診によって貯留している砂の探知が試みられました。実験馬に対する砂の投与は、24時間おきに五回行われ、腹部聴診では砂粒同士がこすれ合う音(Gritty sound)によって砂貯留の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。
結果としては、盲目的に腹部聴診された七頭の実験馬すべてにおいて砂の存在が聴取され、盲目的に腹部聴診された八頭の対照馬では一頭も砂の存在が聴取されませんでした。このため、腹部聴診による砂貯留の探知では、100%の感度(Sensitivity)と100%の特異度(Specificity)が達成されたことが分かり、聴診による砂疝診断の有用性を強く示唆する結果が示されました。砂粒同士がこすれ合う音の聴取では、砂が貯留してやすいと思われる腹底部位(Ventral abdomen)での聴診が有効であったことが報告されています。
この研究では、七頭の実験馬のうち、腹部聴診で砂の存在が聴取されたのは、一頭では三回目の投与後(5~6kgの砂投与)、二頭では四回目の投与後(7~8kgの砂投与)、そして残りの四頭では五回目の投与後(9~10kgの砂投与)であったことから、聴診による砂疝の診断は、貯留している砂の量が多いほど容易であることが示唆されました。この実験では、糞便中への砂の排出量は測定されていないため、聴診時に腸内に存在していた砂の量を予測するのは困難であると考えられ、腹部聴診による探知が可能な砂の最低量は考察されていません。
この実験では、砂投与の36時間前から口籠(Muzzle)による摂食制限を行い、腸内容物を減少させることで、腸内への砂貯留を助長する手法が取られています。このため、わずかな腸蠕動(Peristalsis)によっても砂が動き易い状況であったとも考えられます。また、この研究で投与された砂は、コンクリート生成用に市販されている粒の整った砂であったため、蠕動によって砂粒同士がこすれ合う音を生じ易かった可能性もあります。さらに、実験の場で砂が投与されているかもしれないと思って聴診する状況下では、臨床現場で砂疝と他の種類の疝痛を聞き分ける状況よりも、砂がこすれる音の認識(Recognition)が容易であったとも考えられます。これらの要因を考慮すると、今後の研究では、実際の疝痛症例において、砂以外の腸内容物が多い状態で、かつ、粒の整っていない自然の砂が貯留した場合にも、聴診による診断が有効であるかを評価する必要があるのではないでしょうか。
この研究では、砂投与が行われた七頭の実験馬は、一頭も慢性疝痛(Mild colic)や下痢症状(Diarrhea)を示しておらず、これは20kgの実験的な砂投与でも疝痛が起きなかったという他の文献の結果とも合致していました。この要因としては、砂の投与時に併用されたカルボキシメチルセルロース(Carboxymethylcellulose)が潤滑作用(Lubricant function)を果たしたためと考察されていますが、一方で、砂疝による疝痛や下痢症状の発現には、長期間にわたる慢性腸壁損傷(Chronic intestinal wall damage)を要することを示唆する結果なのかもしれません。この研究では、臨床症状を呈さないほど微量の砂でさえも腹部聴診によって探知できる、という結論付けがなされていますが、疝痛や下痢の原因となりうる“有意な量の砂”(Significant amount of sand accumulation)は明確には定義されていないため、もしかしたらこの結論は少し性急であるのかもしれません。
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