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馬の文献:砂疝(Ruohoniemi et al. 2001)

「腹部レントゲン検査を用いての馬の大結腸の砂貯留改善のモニタリング」
Ruohoniemi M, Kaikkonen R, Raekallio M, Luukkanen L. Abdominal radiography in monitoring the resolution of sand accumulations from the large colon of horses treated medically. Equine Vet J. 2001; 33(1): 59-64.

この症例論文では、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)を用いての砂貯留改善モニタリング(Monitoring the resolution of sand accumulations)の有用性を評価するため、内科的治療が行われた14頭の砂疝(Sand enteropathy)の罹患馬における、経時的レントゲン検査(Sequential radiography)が行われました。これらの馬では、腹部レントゲン検査および糞塊の沈渣に砂粒を探知する手法(Sand precipitation)によって砂疝の診断が下され、内科的療法としては、Psyllium hydrophilic mucilloid(=メタムシル:Metamucil)の経口投与に、ミネラルオイルや硫酸マグネシウム(Magnesium sulfate)の経口投与を併用する治療が実施されました。

結果としては、六頭の患馬では内科治療開始後の2~4日で、ほぼ全ての砂貯留の消失がレントゲン像で認められ、四頭の患馬では内科治療開始後の1~4週で、ほとんどの砂貯留の消失がレントゲン像で確認されました。他の四頭の患馬では、初期治療には不応性(Refractory)を示したものの、硫酸マグネシウムの併用や、牧草地飼養への変更によって、徐々に砂貯留の改善が起こったことがレントゲン像で示されました。このことから、内科的治療が応用された砂疝の罹患馬では、経時的な腹部レントゲン検査を用いることで、信頼性のある治療効果のモニタリングが可能であることが示唆されました。

メタムシルなどのPsyllium製剤の経口投与では、現在のところ馬に対する毒性は確認されていませんが、一ヶ月以上にわたる慢性投与が行われた場合には、腸内細菌叢(Bacterial flora)を変化させるという副作用の可能性も指摘されています。このため、レントゲン検査を用いての砂貯留改善のモニタリングを実施することで、治療指針の修正(Modification)を行ったり、的確に治療終了(Termination)のタイミングを見極めることが可能であると考察されています。

この研究では、腹部レントゲン検査による砂貯留部位の特定(Localization of sand accumulation)は、必ずしも容易ではないことが示されました。これは、砂の重みで腹側大結腸壁(Ventral colon wall)の嚢形成を呈する外観(Saccular appearance)が不明瞭になったり、砂貯留と腸内容物が重複(Superimpose)して見られたり、また、複数個所に砂貯留が生じている症例では、それらの砂貯留像が重複して見られたためと考えられます。小動物の症例と異なり、馬の腹部レントゲン検査では、背腹側撮影像(Dorso-ventral view)を用いることが困難であるため(子馬や若齢馬を除いて)、側方撮影像(Lateral view)のみによる砂貯留の評価には、おのずと限界が生じることを示唆する結果であったと言えると思います。

この研究では、砂貯留改善のスピードには個体差(individual difference)が見られ、多量の砂貯留が短期間で消失する症例もあれば、少量の砂貯留の排出に長期間を要する症例も見られました。これは、初診時に砂貯留がどの程度の期間にわたって継続していたかによって、腸壁の慢性損傷(Chronic intestinal wall damage)や砂の圧縮度(Sand compression)に差異が生じたためと推測されています。このため、初診時の砂貯留量は治療効果の指標にはなりにくいことが報告されており、経時的な腹部レントゲン検査によって砂排出のモニタリングを行うことの有用性が強く示唆されました。

この研究では、レントゲン上で確認された砂貯留の改善は、食欲不振(Anorexia)、抑鬱(Depression)、下痢(Diarrhea)などの臨床症状の改善とは、必ずしも相関しない傾向が認められました。これは、砂の重みによる慢性的な腸壁損傷を生じていた症例では、溜まっていた砂が排出された後も、しばらくは症状が持続することを反映していると推測されています。このため、腹部レントゲン検査によるモニタリングを行うことで、臨床症状の経過観察に頼ることなく、砂排出を促す内科療法の終了時期を的確に判断できると考えられました。

馬の砂疝の診断では、腹部聴診(Abdominal auscultation)や腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)でも、砂の存在を確認することは可能ですが、砂の貯留量を推定するのは難しいと考えられています。この研究では、腹部レントゲン検査によって砂貯留の深さ(Depth)は比較的正確に測定できたものの、頭尾側方向への長さ(Craniocaudal length)は撮影像外である場合も多く、また、砂貯留の幅(Width)の推測は困難であったことが示されています。このため、今後の研究では、より信頼的な砂貯留量の推定を試みるため、レントゲン検査と超音波検査を併用する手法を評価する必要があると考えられます。

この研究では、内科的治療の開始後、数日おき~数週間おきのレントゲン撮影が行われており、理想的なレントゲン検査のタイミングは定義されていませんが、糞便に含まれる砂を観察して、十分な量の砂排出が起きたと予想される時点、または内科治療の実施に関わらず、糞便中への砂排出があまり起きていないと判断された時点、などにおいてレントゲン撮影を実施する、という指針が提唱されています。一般的に腹部レントゲン検査は、大規模病院への搬送を要することから、獣医師と畜主が綿密な経過連絡(Follow-up communication)を行って、再検査の時期を適切な判断するのが一番重要なことなのかもしれません。

この研究では、貯留している砂が腸内容物と混ざり合いにくければ、少量の砂の停滞が慢性的に続く傾向が示されましたが、このような少量の砂によって、臨床的に有意な悪影響が出るのか否か、そして、このような少量の砂を外科的に摘出(Surgical removal)するべきか否か、については論議(Controversy)があります。たとえば、他の文献の中では、内科的治療によって砂貯留が大幅に減量されれば、その後の正常な腸蠕動(Peristalsis)によって徐々に排出されるという説もある反面、たとえ砂貯留が少量であってもそれが圧縮&硬化されていれば、長期間にわたって結腸内に残存し、腸蠕動に悪影響を及ぼして、多量の砂貯留の再発(Recurrence)につながるという仮説もなされています。

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