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馬の文献:砂疝(Korolainen et al. 2002)

「馬の腸管に起こった砂貯留の診断における超音波検査とレントゲン検査の信頼性」
Korolainen R, Ruohoniemi M. Reliability of ultrasonography compared to radiography in revealing intestinal sand accumulations in horses. Equine Vet J. 2002; 34(5): 499-504.

この症例論文では、馬の腸管に生じた砂貯留(Intestinal sand accumulation)の診断における腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)の信頼性(Reliability)を評価するため、砂疝(Sand enteropathy)の発症が疑われた32頭の患馬に対して、腹部超音波検査および腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)が行われました。この研究では、レントゲン検査が砂貯留を探知するための『最も基準となる診断法』(Gold standard)として実施され、32頭の患馬のうち、8頭では砂貯留が認められず(=正常馬)、残りの24頭では砂貯留の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。

この研究では、砂貯留部位の腹側面(Ventral aspect of accumulated sand)が超音波像上で高エコー性(Hyperechoic,)に観察され、その後方に音響シャドー(Acoustic shadowing)が認められました。この所見は、24頭の砂疝の罹患馬のうち21頭、そして8頭の正常馬のうち1頭において見られたことから、超音波検査による砂貯留の診断では、88%(21/24頭)の感度(Sensitivity)、および88%(7/8頭)の特異度(Specificity)が示されました。このことから、腹部超音波検査を用いての砂貯留の探知は、比較的に高感度で信頼性が高いものの、レントゲン検査に置き換わる診断法になることは難しいと考えられました。

この研究では、砂疝の罹患馬のうち59%において、腹部超音波検査によって、砂貯留の腹側面では腸蠕動の減退もしくは消失(Decreased/Absent intestinal motility)が起きていることが観察され、これは砂の重みによる物理的圧迫(Physical compression)もしくは腸壁損傷(Intestinal wall damage)に起因すると考えられました。砂貯留部位における腸管運動性の評価は、通常のレントゲン検査では難しく、超音波検査を行う際の利点として挙げられると考察されています。他の文献によれば、内科的治療による砂の排出速度(Resolution rate)は、砂の排出量には相関しないことが示されているため、腹部超音波検査を介しての腸蠕動の評価が、砂疝の内科的治療における有用な予後判定(prognostication)の指標になるかもしれません。

この研究では、腹底部に近い腹側大結腸(Ventral colon)における砂貯留ほど、腸壁が腹膜に接している所見が認められ(砂疝罹患馬の56%)、砂の存在を超音波像上で探知するのが容易であることが示されました。また、中程度~多量の砂貯留を呈した13頭の患馬では、砂貯留診断の感度が93%まで向上することが報告されています。超音波検査は、往診の現場でも応用可能な診断法であるため、大規模病院への搬送を要するレントゲン検査の前の、砂疝の選別診断(Screening)として有用であると考えられます。しかし、砂の貯留部位や量によっては、腹部超音波の陰性結果は、必ずしも砂貯留の可能性を除外診断(Rule-out)するわけではないことを念頭に置く必要があると言えます。

この研究では、腹部超音波検査によって、砂貯留部位の幅(Width)や頭尾側方向への長さ(Craniocaudal length)は計測できたものの、砂貯留の深さ(Depth)の推定は困難であったことが示されました。一方、腹部レントゲン検査では、側方撮影像(Lateral view)のみによる診断が行われることから(子馬や若齢馬の症例を除いて)、砂貯留部位の深さは計測できるものの、砂貯留の幅の推定は困難であることが知られています。このため、超音波検査とレントゲン検査を併用することで、より正確な砂貯留量(=砂貯留の体積)の判定が可能であると考えられます。今後の研究では、超音波検査およびレントゲン検査において推定された砂貯留量と、開腹術(Celiotomy)によって摘出された砂の量を比較して、術前診断の精度(Accuracy)を評価することが重要であると考えられました。

この研究では、砂貯留部位の腹側面の後方に音響シャドーが認められ、この多くが非同種性シャドー(Inhomogenous shadowing)(いわゆる汚い影:Dirty shadow)であったことが報告されています。一般的に、非同種性シャドーの発現には、物質内で生じる複数反響(Multiple reverberations)が関与すると考えられ、また、腸内容物に見られる微細高エコー性粒子(Small hyperechoic particles within the intestinal lumen)の存在に起因する場合もあると推測されています。このため、この反響アーティファクト(Reverberation artefacts)の形態を慎重に観察することで、貯留している砂の密度(Density)や砂粒の大きさ(Particle size)、および砂と腸内容物の混ざり具合を評価できる可能性もあり、内科的治療による砂の排出のしやすさを示唆する指標になるかもしれません。

この研究では、超音波検査とレントゲン検査の双方において、独自の点数化システム(Custom-made grading system)を用いての砂貯留量の主観的評価(Subjective evaluation)が試みられており、超音波検査のグレードとレントゲン検査のグレードには、有意な相関が認められました。つまり、超音波検査は砂貯留の探知だけでなく、砂貯留量の変化を推測するという目的でも有用であると考えられました。このことから、初診時にレントゲン検査で砂疝の確定診断が下され、内科的治療が開始された馬においては、超音波検査による砂排出のモニタリング(Monitoring resolution of sand accumulation)が可能であるかもしれません。

この研究では、腹部レントゲン検査が行われた後に、連続的に腹部超音波検査が行われていることから、レントゲン撮影時に使用された鎮静剤(Sedatives)が、超音波検査で評価された腸蠕動に影響している可能性は否定できません。また、超音波検査は盲目的方式(Blinded manner)では実施されておらず、超音波検査の術者はレントゲン検査の結果(=砂貯留が発見されたか否か)を知っていた場合もあったため、超音波上での砂貯留の認識(Recognition)がより容易になったという偏向(=感度&特異度が高くなり易い傾向)が生じたかもしれません。このため、今後の研究では、レントゲン検査より前に超音波検査を実施することで、砂貯留の探知における腹部超音波検査の信頼性を、より正確かつ客観的に評価する必要があると思います。

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