馬の文献:砂疝(Husted et al. 2005)
文献 - 2015年10月13日 (火)
「アイスランドホースにおける糞便中への砂排出の危険因子」
Husted L, Andersen MS, Borggaard OK, Houe H, Olsen SN. Risk factors for faecal sand excretion in Icelandic horses. Equine Vet J. 2005; 37(4): 351-355.
この研究論文では、砂疝(Sand enteropathy)の病因(Etiology)および予防方針(Preventive aids)を検討する目的で、211頭のアイスランドホース(Icelandic horses)における糞便の沈降検査(Fecal sand sedimentation)、飼養環境の土壌の質(Soil type)、牧草地の質(Pasture quality)、および給餌様式(Feeding practice)などのデータの解析が行われました。
結果としては、地面に直接乾草を置く給餌様式(Feeding directly on the ground)において、さらに放牧地の牧草が短い場合には、糞便への砂排出の危険が有意に高いことが示されました。一方、飼養環境の砂質自体は、有意な砂排出の危険因子とは認められませんでしたが、牧草地の質に対しては有意に相関していることが示されています。このことから、地面から直接的に摂食させる給餌法は砂摂取の危険が高いことが示唆され、また、特定の砂質は牧草地の質の低下を招き易く、二次的に砂摂取の危険が高まる可能性が示されました。
この研究では、データの多重ロジスティック解析(Multiple logistic regression analysis)において、砂質と牧草地の質に有意な相互作用(Interaction)が認められ、また、放牧地の牧草が十分に長ければ、給餌方式そのものは糞便への砂排出の有意な危険因子にはならない、という結果が示されました。砂の誤嚥を防ぐために、地面に乾草を置かないことは古典的に推奨されてきましたが、この研究の結果から、牧草地の質が低くなりやすい砂質を考慮して、牧草が短くなって砂摂取の危険が高まる飼養環境を排除すること、そして、牧草地の質が下がる秋季~冬季には放牧地での給餌は行わないこと、なども砂疝の重要な予防処置であることが示唆されました。
この研究では、56%の馬において糞便中への砂排出が認められましたが、沈降検査で5mm以上の砂沈降が見られたのは6%の馬に過ぎませんでした。沈降検査において「有意に問題を生じる砂含有量」(Significant amount of sand content)を定義するのは難しく、また、砂は糞便中に均一に存在しているわけではないので、数個の糞塊の検査結果に基づく砂排出量の推測にはおのずと限界があります。今後の研究では、沈降検査に併行して、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)や腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)を実施して、砂排出量と砂貯留量の双方を評価することで、より正確な砂摂取の危険性を検討することが重要であると考えられます。
この研究の問題点としては、砂排出量を砂摂取量(Sand intake)の指標としている点があります。この論文の結論では、糞便中への排出量が多い砂質や牧草地は、砂摂取を起こし易い「危険な土壌環境」であると推測されていますが、逆に考えれば、砂を誤って飲み込んでも糞便中に排出され易い「安全な土壌環境」である可能性もあります。今後の研究では、質の異なる飼養環境を対象にして、実験的に同量の砂や牧草を胃カテーテルで経口投与した際の糞便沈降検査を実施することで、どの砂質が消化管内に留まりにくく、排出され易い「安全な砂」であるのかを評価する必要があるのかもしれません。
この研究では、体格の悪い馬(=ボディコンディションスコアの低い馬)ほど糞便中への砂排出量が多い傾向が見られましたが、この馬郡の頭数が少なかったため、正常体格馬と比較しての統計的な有意差は認められませんでした。今後の研究では、もっとサンプル数を増やすことで、ボディコンディションと砂疝の危険性の関係を、より正確に評価する必要があると考察されています。
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この研究論文では、砂疝(Sand enteropathy)の病因(Etiology)および予防方針(Preventive aids)を検討する目的で、211頭のアイスランドホース(Icelandic horses)における糞便の沈降検査(Fecal sand sedimentation)、飼養環境の土壌の質(Soil type)、牧草地の質(Pasture quality)、および給餌様式(Feeding practice)などのデータの解析が行われました。
結果としては、地面に直接乾草を置く給餌様式(Feeding directly on the ground)において、さらに放牧地の牧草が短い場合には、糞便への砂排出の危険が有意に高いことが示されました。一方、飼養環境の砂質自体は、有意な砂排出の危険因子とは認められませんでしたが、牧草地の質に対しては有意に相関していることが示されています。このことから、地面から直接的に摂食させる給餌法は砂摂取の危険が高いことが示唆され、また、特定の砂質は牧草地の質の低下を招き易く、二次的に砂摂取の危険が高まる可能性が示されました。
この研究では、データの多重ロジスティック解析(Multiple logistic regression analysis)において、砂質と牧草地の質に有意な相互作用(Interaction)が認められ、また、放牧地の牧草が十分に長ければ、給餌方式そのものは糞便への砂排出の有意な危険因子にはならない、という結果が示されました。砂の誤嚥を防ぐために、地面に乾草を置かないことは古典的に推奨されてきましたが、この研究の結果から、牧草地の質が低くなりやすい砂質を考慮して、牧草が短くなって砂摂取の危険が高まる飼養環境を排除すること、そして、牧草地の質が下がる秋季~冬季には放牧地での給餌は行わないこと、なども砂疝の重要な予防処置であることが示唆されました。
この研究では、56%の馬において糞便中への砂排出が認められましたが、沈降検査で5mm以上の砂沈降が見られたのは6%の馬に過ぎませんでした。沈降検査において「有意に問題を生じる砂含有量」(Significant amount of sand content)を定義するのは難しく、また、砂は糞便中に均一に存在しているわけではないので、数個の糞塊の検査結果に基づく砂排出量の推測にはおのずと限界があります。今後の研究では、沈降検査に併行して、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)や腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)を実施して、砂排出量と砂貯留量の双方を評価することで、より正確な砂摂取の危険性を検討することが重要であると考えられます。
この研究の問題点としては、砂排出量を砂摂取量(Sand intake)の指標としている点があります。この論文の結論では、糞便中への排出量が多い砂質や牧草地は、砂摂取を起こし易い「危険な土壌環境」であると推測されていますが、逆に考えれば、砂を誤って飲み込んでも糞便中に排出され易い「安全な土壌環境」である可能性もあります。今後の研究では、質の異なる飼養環境を対象にして、実験的に同量の砂や牧草を胃カテーテルで経口投与した際の糞便沈降検査を実施することで、どの砂質が消化管内に留まりにくく、排出され易い「安全な砂」であるのかを評価する必要があるのかもしれません。
この研究では、体格の悪い馬(=ボディコンディションスコアの低い馬)ほど糞便中への砂排出量が多い傾向が見られましたが、この馬郡の頭数が少なかったため、正常体格馬と比較しての統計的な有意差は認められませんでした。今後の研究では、もっとサンプル数を増やすことで、ボディコンディションと砂疝の危険性の関係を、より正確に評価する必要があると考察されています。
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