馬の文献:砂疝(Granot et al. 2008)
文献 - 2015年10月14日 (水)

「馬の砂疝の外科的治療:41症例の回顧的解析」
Granot N, Milgram J, Bdolah-Abram T, Shemesh I, Steinman A. Surgical management of sand colic impactions in horses: a retrospective study of 41 cases. Aust Vet J. 2008; 86(10): 404-407.
この症例論文では、砂疝(Sand enteropathy)の外科的療法(Surgical management)における治療効果を評価するため、41頭の砂疝の罹患馬における診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。砂疝の罹患馬に対する外科的療法では、正中開腹術(Ventral midline celiotomy)によるアプローチ後、骨盤曲結腸切開術(Pelvic flexure colotomy)を介しての砂の洗浄&除去が実施されました。
結果としては、41頭の砂疝の罹患馬のうち、四頭が手術中に安楽死(Euthanasia)となったため、麻酔覚醒生存率は90%(37/41頭)であったことが示されました。また、手術後には、46%の患馬では下痢(Diarrhea)、27%の患馬では回帰性疝痛(Recurrent colic)、17%の患馬では蹄葉炎(17%)が見られたものの、退院前に安楽死となったのは二頭のみであったため、短期生存率は88%(35/41頭)で、さらに、退院後一年以内に安楽死となった馬は報告されていないことが示されました。このことから、砂疝の外科的療法では、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、41頭の砂疝の罹患馬のうち、15%では軽度の疝痛症状、59%では中程度の疝痛症状、そして、22%では重度の疝痛症状を呈しました(残りの5%の馬の疝痛症状は不明)。また、81%の患馬が腹部膨満(Abdominal distension)を呈したのに対して、下痢症状を呈したのは17%の患馬に過ぎなかったことが報告されています。このため、これらの砂疝の罹患馬では、砂の重みによる慢性的な大結腸炎(Chronic colitis)というよりも、砂が原因で生じた大腸の通過障害(Large intestinal obstruction)や大結腸便秘(Large colon impaction)が病態の主体であったと考えられます。
この研究では、非生存馬(Non-survivors)のほうが生存馬(Survivors)よりも高い呼吸数(Respiratory rate)を示し、入院時の呼吸数と短期生存率のあいだに有意な相関が認められました。しかし、他の臨床所見&血液所見と生存率のあいだには、有意な相関は確認されませんでした。この研究では、非生存馬は四頭のみとサンプル数が少なかったため、生存に関与する因子の統計的証明は難しかったと考えられます。
この研究における88%の短期&長期生存率は、他の文献(Ragle et al. 1989)で報告されている短期生存率(78%)および長期生存率(60%)よりも高い傾向が見られました。この研究における術前の疼痛経過(Pre-operative duration of abdominal pain)は平均45時間で、前述の文献における術前の疼痛経過である平均65時間よりも短かったため、開腹術が行われた時点での結腸壁損傷や虚血(Colonic wall damage/ischemia)が軽度であったことが、良好な予後につながったと推測されています。また、この研究では、前述の文献で報告されている、大結腸の変位や捻転(Large colon displacement/volvulus)の併発も認められませんでした。このため、砂疝が疑われる患馬においては、早期に外科的療法を実施することが、良好な予後を達成するのに重要であると考察されています。
この研究では、四頭の患馬が手術中に安楽死となり、その原因としては二頭が回腸壊死(Necrotic ileum)で、他の二頭が上行大結腸破裂(Ascending colon rupture)であったことが報告されています。砂疝の開腹術において多量の砂が貯留しており、大結腸を腹腔外に引き出す際に破裂を起こす危険があると判断された場合には、(1)切開創を頭側&尾側に伸展(Cranial/Caudal extension of abdominal incision)させて大結腸の引き出し(Large colon exteriorisation)を容易にする方針、(2)大結腸を部分的に引き出した状態で内容物の洗浄&除去を開始する方針、(3)右背側大結腸(Right dorsal colon)へとホースを穿刺して内容物を軟化&移動させる方針、などが提唱されています。
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