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馬の文献:砂疝(Keppie et al. 2008)

「馬の腹部砂貯留における客観的レントゲン診断」
Keppie NJ, Rosenstein DS, Holcombe SJ, Schott HC 2nd. Objective radiographic assessment of abdominal sand accumulation in horses. Vet Radiol Ultrasound. 2008; 49(2): 122-128.

この症例論文では、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)による馬の腹部砂貯留(Abdominal sand accumulation)の診断能を評価するため、51頭の馬の腹部レントゲン像の客観的診断(Objective assessment)が行われました。レントゲン診断では、砂貯留の場所、数、混濁性(Opacity)、均一性(Homogeneity)、砂貯留の深さと長さ(Depth/Length)などの点数化が試みられました。

この研究での砂貯留の点数化システムには、下記の項目が含まれました。
(1)砂貯留の位置:頭腹側は1点、それ以外は0点
(2)砂貯留箇所の数:貯留無しは0点、一箇所または二箇所は1点、三箇所以上は3点
(3)肋骨と比較した不透過性:肋骨より低い場合は0点、同程度は1点、高い場合は2点
(4)均一性:不均一は0点、混合は1点、均一は2点
(5)砂貯留の厚み:肋骨幅の一~三倍は0点、四~五倍は1点、五倍以上は2点
(6)砂貯留の長さ:肋骨幅の十倍未満は0点、十~二十倍は1点、二十倍以上は2点
(合計スコアは0~12の範囲)

結果としては、この砂貯留の点数化システムを用いた場合、スコアが平均7.01以上を示した症例では、83%の信頼性で砂疝(Sand enteropathy)の診断が下せることが示されました。また、主観的評価(Subjective assessment)に基づいて「有意な量の砂貯留」(=臨床的に弊害を生じる規模の砂貯留)が起きているという判断を下した場合には、大きな観察者間変動(Inter-observer variance)が生じることが示されています。このため、腹部レントゲン像の読解に際しては、点数化システムを用いてより客観的な評価を行うことで、より信頼性の高い砂疝の診断が可能であることが示唆されました。

この研究におけるロジスティック回帰解析(Logistic regression analysis)の結果では、砂貯留の深さと長さのスコアを単独で用いた場合よりも、双方を加味して診断を下した場合のほうが、より正確に「有意な砂貯留量」の判断が可能であることが示されました。このため、一枚のレントゲン像に砂貯留の全域が含まれていない症例においては、撮影域をさらに頭側または尾側に拡大(Cranial/Caudal extension)させて、砂貯留の全長を測定するべきであることが示唆されました。

この研究では、肋骨の幅を基準にして砂貯留の深さと長さを評価する指針が用いられており、これは、レントゲン撮影手技に基づく誤差(=馬体とフィルムの距離、カメラと馬体の距離、etc)を相殺して、診断指標を標準化(Standardization)するのに有効であると考えられます。このため、この点数化システムを用いて経時的レントゲン検査(Sequential radiography)の評価を行うことで、より精度の高い砂貯留や砂排出(=内科治療が行われた症例において)のモニタリングを実施できると考察されています。

この研究では、砂貯留の混濁性と均一性には有意な相関(Significant correlation)が認められ、これは貯留部位の密度が低いほど、砂と腸内容物が混ざり合いやすいことを反映していると考えられました。他の文献によれば、砂貯留の深さや長さは内科的治療への反応性(=砂排出のしやすさ)の目安にはならないことが報告されているため、今後の研究では、この混濁性および均一性のスコアが、内科的治療が実施された場合の予後判定(Prognostication)の指標になるか否かを評価する必要があると考えられました。

この研究では、砂貯留の点数化システムにおいて、スコアが7以下である場合には、砂貯留が起こっていてもそれが疝痛の原因になる可能性は低い、という判断が下せることが示唆されました。しかし、馬の腹部レントゲン検査では、側方撮影像(Lateral view)のみによる診断しか行えないため(子馬や若齢馬を除いて)、今後の研究では、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)などによる砂貯留の幅(Width of sand accumulation)の評価を加味して、より正確に「有意な砂貯留量」の判断を下す手法の有用性を調べる必要があるのかもしれません。

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