馬の文献:砂疝(Hart et al. 2013)
文献 - 2015年10月14日 (水)
「62頭の馬における砂疝の内科治療」
Hart KA, Linnenkohl W, Mayer JR, House AM, Gold JR, Giguere S. Medical management of sand enteropathy in 62 horses. Equine Vet J. 2013; 45(4): 465-469.
この症例論文では、馬の砂疝(Sand enteropathy)に対する内科的治療(Medical management)の効能を評価するため、2000~2010年にかけて、腹部X線検査(Abdominal radiography)で砂疝の診断が下されて、内科的治療が選択された62頭の症例における、医療記録(Medical records)の単因子・多因子ロジスティック回帰解析(Uni- and multivariate logistic regression analysis)が行われました。
結果としては、砂疝の罹患馬のうち、退院した馬の割合は90%にのぼり、複数回の腹部X線検査が行われた馬の50%において、砂貯留の改善が見られたことが示されました。内科的治療の中身としては、対症療法としての経静脈・経腸補液療法(Intra-venous or enteral fluid therapy)や非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与のほか、潤滑剤治療としてのPsylliumやミネラルオイルの経口投与が多く実施されていました。このため、馬の砂疝に対しては、内科的治療によって充分な砂貯留の改善効果と、良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、砂疝の罹患馬の87%において、炎症性白血球像(Inflammatory leucogram)が認められ、これには、好中球増加症(Neutrophilia)、好中球減少症(Neutropenia)、左方変位(Left shift)、白血球の毒素性変化(Toxic changes in leucocytes)、フィブリノーゲン増加症(Hyperfibrinogenaemia)などが含まれました。これらの所見は、貯留した砂による大結腸粘膜への刺激(Colonic mucosal irritation)や壁存性炎症(Mural inflammation)に起因すると考えられ、また、フィブリノーゲン濃度は、患馬が生存できない確率と有意に相関していました。このため、砂貯留による大結腸刺激の度合いや期間(Degree or duration of colonic irritation)は、病態の重篤度や予後に影響を与えることが示唆されました。
この研究では、直腸検査(Transrectal examination)および糞便沈殿検査(Fecal sedimentation)によって砂貯留が確認された症例に割合は、それぞれ24%および48%に留まっており、腹部X線検査の有用性が再確認されるデータが示されました。このため、遅延性および間欠性の疝痛症状(Protracted or intermittent colic)を呈して、下痢症(Diarrhea)や全身炎症性反応(Systemic inflammatory response)が認められる症例においては、直腸検査や糞便沈殿検査の結果に関わらず、鑑別診断のひとつとして砂疝を考慮することが重要である、という考察がなされています。また、X線画像上で認められた砂貯留の量が、獣医学的に有意であるか否かの判断基準も、過去には幾つか提唱されていますが(Korolainen et al. EVJ. 2002;34:499, Keooie et al. Vet Radiol Ultrasound. 2008;49:122)、これらの文献では、馬体サイズの差異が考慮されていなかったり、主に子馬からのデータに基づく知見であった、という問題点が指摘されており、臨床的な有用性については議論を要する、という考察がなされています。
この研究では、探索的な開腹術(Exploratory laparotomy)が選択された九頭の患馬の全頭で、砂貯留が確認され、併発する胃腸病変(Concurrent gastrointestinal lesion)が確認された馬は七頭でした。また、これらの症例のうち、安楽死(Euthanasia)が選択された馬は四頭で、開腹術が行われたか否かが、非生存の危険因子(Risk factor)として一番重要なものになっていました。このため、内科的療法がなかなか奏功しない砂疝の罹患馬においては、砂貯留以外の病変が存在して、それが予後不良(Poor prognosis)の要因になる可能性があると推測されることから、外科的治療をいたずらに遅延させるのは適当ではない、という考察がなされています。
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この症例論文では、馬の砂疝(Sand enteropathy)に対する内科的治療(Medical management)の効能を評価するため、2000~2010年にかけて、腹部X線検査(Abdominal radiography)で砂疝の診断が下されて、内科的治療が選択された62頭の症例における、医療記録(Medical records)の単因子・多因子ロジスティック回帰解析(Uni- and multivariate logistic regression analysis)が行われました。
結果としては、砂疝の罹患馬のうち、退院した馬の割合は90%にのぼり、複数回の腹部X線検査が行われた馬の50%において、砂貯留の改善が見られたことが示されました。内科的治療の中身としては、対症療法としての経静脈・経腸補液療法(Intra-venous or enteral fluid therapy)や非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与のほか、潤滑剤治療としてのPsylliumやミネラルオイルの経口投与が多く実施されていました。このため、馬の砂疝に対しては、内科的治療によって充分な砂貯留の改善効果と、良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、砂疝の罹患馬の87%において、炎症性白血球像(Inflammatory leucogram)が認められ、これには、好中球増加症(Neutrophilia)、好中球減少症(Neutropenia)、左方変位(Left shift)、白血球の毒素性変化(Toxic changes in leucocytes)、フィブリノーゲン増加症(Hyperfibrinogenaemia)などが含まれました。これらの所見は、貯留した砂による大結腸粘膜への刺激(Colonic mucosal irritation)や壁存性炎症(Mural inflammation)に起因すると考えられ、また、フィブリノーゲン濃度は、患馬が生存できない確率と有意に相関していました。このため、砂貯留による大結腸刺激の度合いや期間(Degree or duration of colonic irritation)は、病態の重篤度や予後に影響を与えることが示唆されました。
この研究では、直腸検査(Transrectal examination)および糞便沈殿検査(Fecal sedimentation)によって砂貯留が確認された症例に割合は、それぞれ24%および48%に留まっており、腹部X線検査の有用性が再確認されるデータが示されました。このため、遅延性および間欠性の疝痛症状(Protracted or intermittent colic)を呈して、下痢症(Diarrhea)や全身炎症性反応(Systemic inflammatory response)が認められる症例においては、直腸検査や糞便沈殿検査の結果に関わらず、鑑別診断のひとつとして砂疝を考慮することが重要である、という考察がなされています。また、X線画像上で認められた砂貯留の量が、獣医学的に有意であるか否かの判断基準も、過去には幾つか提唱されていますが(Korolainen et al. EVJ. 2002;34:499, Keooie et al. Vet Radiol Ultrasound. 2008;49:122)、これらの文献では、馬体サイズの差異が考慮されていなかったり、主に子馬からのデータに基づく知見であった、という問題点が指摘されており、臨床的な有用性については議論を要する、という考察がなされています。
この研究では、探索的な開腹術(Exploratory laparotomy)が選択された九頭の患馬の全頭で、砂貯留が確認され、併発する胃腸病変(Concurrent gastrointestinal lesion)が確認された馬は七頭でした。また、これらの症例のうち、安楽死(Euthanasia)が選択された馬は四頭で、開腹術が行われたか否かが、非生存の危険因子(Risk factor)として一番重要なものになっていました。このため、内科的療法がなかなか奏功しない砂疝の罹患馬においては、砂貯留以外の病変が存在して、それが予後不良(Poor prognosis)の要因になる可能性があると推測されることから、外科的治療をいたずらに遅延させるのは適当ではない、という考察がなされています。
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