馬の文献:大結腸左背方変位(Sivula. 1991)
文献 - 2015年10月15日 (木)

「馬における大結腸の腎脾間捕捉:1984~1989年の33症例」
Sivula NJ. Renosplenic entrapment of the large colon in horses: 33 cases (1984-1989). J Am Vet Med Assoc. 1991; 199(2): 244-246.
この症例論文では、大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)に起因する腎脾間捕捉(Renosplenic entrapment)に対する、内科的および外科的療法の治療効果を評価するため、1984~1989年にわたる33頭の腎脾間捕捉の罹患馬の診療記録(Medical records)の解析が行われました。結果としては、33頭の患馬のうち22頭に対してローリング法(右側横臥位→背側臥位→左側横臥位→胸骨位→右側横臥位)を介しての内科的療法が応用され、このうち11頭において整復&退院、2頭において整復&その後に安楽死、9頭において整復できず正中開腹術(Midline celiotomy)を介しての外科的療法が行われました。外科的療法のみ、または内科的療法の後に外科的療法が実施された馬のうち、術後に安楽死されたのは一頭のみで、その他は全頭が退院したことが報告されています。
この研究では、内科的療法の後に外科的療法が実施された9頭の患馬のうち、術後合併症(Post-operative complication)を起こしたのは6頭であったのに対して、外科的療法のみが行われた患馬では、10頭中の6頭に術後合併症が認められました(下痢、蹄葉炎、術創感染、etc)。このため、外科的療法を行う前にローリング法を介しての内科的療法による整復を試みても、外科的療法の予後自体には影響を与えないことが示唆されています。
しかし、この研究ではサンプル数が十分ではなく、また、治療法選択の偏向(Bias)(=内科的療法による整復が困難であると思われる症例には始めからローリング法は実施されない傾向)が生じている可能性も考えられます。このため、今後の研究では、大結腸膨満(Colonic distension)の重篤度や、腹水検査(Abdominocentesis)の異常値など、ローリング法の選択基準(Selection criteria)を明確にすることで、その治療効果および予後に及ぼす影響をより正確に評価する必要があると考えられました。
この研究では、外科的療法のみ、または内科的療法の後に外科的療法が実施された19頭の患馬のうち、5頭において開腹術時には腎脾間捕捉が認められませんでしたが、これは、麻酔導入(Anesthesia induction)の際に自発性整復(Spontaneous reduction)を起こした結果であると推測されています。しかし、この症例論文は、腎脾間捕捉に対して腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)が一般的には行われていない時代に発表された報告であるため、直腸検査(Rectal examination)を主として大結腸変位の診断を行うことによる、偽陽性(False positive)の高さを示しているとも考えられるかもしれません。
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