馬の文献:大結腸左背方変位(Santschi et al. 1993)
文献 - 2015年10月16日 (金)
「超音波検査による馬の大結腸左背方変位の診断および非外科的整復のモニタリング」
Santschi EM, Slone DE Jr, Frank WM 2nd. Use of ultrasound in horses for diagnosis of left dorsal displacement of the large colon and monitoring its nonsurgical correction. Vet Surg. 1993; 22(4): 281-284.
この症例論文では、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)による腎脾間捕捉(Nephrosplenic entrapment)の診断能を評価するため、直腸検査(Rectal examination)による腎脾間捕捉の診断が下された患馬における確認のため、直腸検査で腎脾間隙が触診できなかった患馬における腎脾間捕捉の推定診断のため、および、ローリング法による腎脾間捕捉の整復を確認するため、の三つの目的で腹部超音波検査が実施されました。超音波検査は、左側腹壁における第17肋間(Seventeenth rib space)、腹側胸筋(Ventral lumber muscle)、および大腿部筋郡(Thigh musculature)に囲まれた領域で行われ、大結腸(Large colon)が脾臓(Spleen)の背側または外側に位置している所見によって腎脾間捕捉の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。
この研究では、41頭の腎脾間捕捉の罹患馬のうち、13頭において直腸検査によって下された腎脾間捕捉の推定診断が超音波検査によって確認され、23頭において直腸検査によって触知できなかった腎脾間捕捉が超音波検査によって発見されました。このため、超音波検査による腎脾間捕捉の診断成功率は88%(36/41頭)で、偽陰性(False negative)の確率は12%(5/41頭)であったことが示されました。一方、超音波検査では腎脾間捕捉が認められたのに、開腹術では腎脾間捕捉は起きていなかったという、偽陽性(False positive)は一頭にも見られませんでした。このことから、腹部超音波検査は大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)に伴う腎脾間捕捉の診断ために、信頼的かつ有用な手法であることが示唆されました。
この研究では、捕捉されている大結腸内のガス貯留が少ない場合には、超音波の透過性が維持されて、大結腸の後方にある脾臓や左側腎臓が画像上に確認できる場合もあり、このことが5頭の罹患馬に見られた偽陰性の診断結果につながったと推測されています。このことから、腎脾間捕捉が疑われる疝痛馬に対する超音波検査では、直腸検査などの他の診断所見を加味して、総合的かつ慎重に推定診断を下すことが重要であると考えられました。
この研究では、腎脾間捕捉の罹患馬においては、脾臓の背側(上方)に大結腸が変位して、それによって左側腎臓像が妨げられている所見も見られました。しかし、これは正常馬においても稀に認められる所見であり、また、腎脾間捕捉の罹患馬であってもプローブの当て方によっては腎臓が発見できる場合もあるため、腎脾間捕捉の確定診断の指標には適していないという警鐘が鳴らされています。
また、左側腎臓の尾側半分は、脾臓の尾側端よりも後方まで伸展している場合が多いため、プローブを当てる向きや位置によっては、腎脾間捕捉の罹患馬であっても腎臓が超音波像上に認められる場合もあります。このため、腎脾間捕捉が疑われる疝痛馬における超音波検査では、プローブを馬体に対して水平方向に当てることで、本来ならば脾臓と腎臓が並んで観察できる部位において、大結腸の存在によって腎臓陰影が妨げられているのを確認する手法が有効であるかもしれません。また、プローブを当てる位置を第17肋間または第18肋骨の直ぐ尾側にすることで、捕捉されている大結腸よりも後方において、左側腎臓の尾側端が超音波像上に示され、偽陰性の診断結果を下してしまわないように注意することも重要であると考えられます。
この研究では、変位した大結腸によって脾臓が押し下げられて、脾臓の腹側縁が下方へと変位していたり、脾臓の腹側縁が正中線を越えて右側腹腔域まで達している所見も認められました。しかし、脾臓のサイズには個体差があるため、腎脾間捕捉の診断に際しては、この所見は補助的な指標にしかならないと考察されています。また、正常時には弧を描いている脾臓の背側縁が、捕捉された大結腸に圧迫されて、地面に対して平行線を成している所見が認められる場合もあるかもしれません。
この研究では、ローリング法の実施前後の超音波所見を比較することで、ローリング法によって大結腸が遊離され、腎脾間捕捉が整復されたことを、より信頼的かつ明瞭に確認できることが示されました。しかし、腎脾間捕捉の罹患馬の中には、憩室間膜帯(Mesodiverticular band)に起因する小腸絞扼(Small intestinal strangulation)などの、他の消化器病変が存在する場合もあるため(腎脾間捕捉は続発性の二次性病態である場合)、超音波検査で腎脾間捕捉の整復が認められた場合にも、必ず直腸検査も同時に実施することで、大結腸の遊離を再確認すると共に、腎脾間捕捉の発現時には触知が難しかった他の消化器病変が存在しないか否かを、慎重に触診で確かめることが重要であると考察されています。
この研究では、超音波検査によって腎脾間捕捉の診断を下すのみならず、その重篤度を推察できることが示唆されており、例えば、捕捉されている大結腸内のガスや内容物の量、および腸壁の浮腫や肥厚の度合いを、比較的明瞭に観察できることが示されています。腎脾間捕捉の罹患馬における直腸検査では、大結腸が腎脾間靭帯(Renosplenic ligament)の上部を走行している状態や、大結腸の膨満の度合いは触知されますが、これに超音波検査を併用することで、ローリング法によるスムーズな整復が期待できるのか、それとも速やかに開腹術による外科的整復を試みるべきであるのか、などを的確に判断する指標になると考察されています。
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この症例論文では、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)による腎脾間捕捉(Nephrosplenic entrapment)の診断能を評価するため、直腸検査(Rectal examination)による腎脾間捕捉の診断が下された患馬における確認のため、直腸検査で腎脾間隙が触診できなかった患馬における腎脾間捕捉の推定診断のため、および、ローリング法による腎脾間捕捉の整復を確認するため、の三つの目的で腹部超音波検査が実施されました。超音波検査は、左側腹壁における第17肋間(Seventeenth rib space)、腹側胸筋(Ventral lumber muscle)、および大腿部筋郡(Thigh musculature)に囲まれた領域で行われ、大結腸(Large colon)が脾臓(Spleen)の背側または外側に位置している所見によって腎脾間捕捉の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。
この研究では、41頭の腎脾間捕捉の罹患馬のうち、13頭において直腸検査によって下された腎脾間捕捉の推定診断が超音波検査によって確認され、23頭において直腸検査によって触知できなかった腎脾間捕捉が超音波検査によって発見されました。このため、超音波検査による腎脾間捕捉の診断成功率は88%(36/41頭)で、偽陰性(False negative)の確率は12%(5/41頭)であったことが示されました。一方、超音波検査では腎脾間捕捉が認められたのに、開腹術では腎脾間捕捉は起きていなかったという、偽陽性(False positive)は一頭にも見られませんでした。このことから、腹部超音波検査は大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)に伴う腎脾間捕捉の診断ために、信頼的かつ有用な手法であることが示唆されました。
この研究では、捕捉されている大結腸内のガス貯留が少ない場合には、超音波の透過性が維持されて、大結腸の後方にある脾臓や左側腎臓が画像上に確認できる場合もあり、このことが5頭の罹患馬に見られた偽陰性の診断結果につながったと推測されています。このことから、腎脾間捕捉が疑われる疝痛馬に対する超音波検査では、直腸検査などの他の診断所見を加味して、総合的かつ慎重に推定診断を下すことが重要であると考えられました。
この研究では、腎脾間捕捉の罹患馬においては、脾臓の背側(上方)に大結腸が変位して、それによって左側腎臓像が妨げられている所見も見られました。しかし、これは正常馬においても稀に認められる所見であり、また、腎脾間捕捉の罹患馬であってもプローブの当て方によっては腎臓が発見できる場合もあるため、腎脾間捕捉の確定診断の指標には適していないという警鐘が鳴らされています。
また、左側腎臓の尾側半分は、脾臓の尾側端よりも後方まで伸展している場合が多いため、プローブを当てる向きや位置によっては、腎脾間捕捉の罹患馬であっても腎臓が超音波像上に認められる場合もあります。このため、腎脾間捕捉が疑われる疝痛馬における超音波検査では、プローブを馬体に対して水平方向に当てることで、本来ならば脾臓と腎臓が並んで観察できる部位において、大結腸の存在によって腎臓陰影が妨げられているのを確認する手法が有効であるかもしれません。また、プローブを当てる位置を第17肋間または第18肋骨の直ぐ尾側にすることで、捕捉されている大結腸よりも後方において、左側腎臓の尾側端が超音波像上に示され、偽陰性の診断結果を下してしまわないように注意することも重要であると考えられます。
この研究では、変位した大結腸によって脾臓が押し下げられて、脾臓の腹側縁が下方へと変位していたり、脾臓の腹側縁が正中線を越えて右側腹腔域まで達している所見も認められました。しかし、脾臓のサイズには個体差があるため、腎脾間捕捉の診断に際しては、この所見は補助的な指標にしかならないと考察されています。また、正常時には弧を描いている脾臓の背側縁が、捕捉された大結腸に圧迫されて、地面に対して平行線を成している所見が認められる場合もあるかもしれません。
この研究では、ローリング法の実施前後の超音波所見を比較することで、ローリング法によって大結腸が遊離され、腎脾間捕捉が整復されたことを、より信頼的かつ明瞭に確認できることが示されました。しかし、腎脾間捕捉の罹患馬の中には、憩室間膜帯(Mesodiverticular band)に起因する小腸絞扼(Small intestinal strangulation)などの、他の消化器病変が存在する場合もあるため(腎脾間捕捉は続発性の二次性病態である場合)、超音波検査で腎脾間捕捉の整復が認められた場合にも、必ず直腸検査も同時に実施することで、大結腸の遊離を再確認すると共に、腎脾間捕捉の発現時には触知が難しかった他の消化器病変が存在しないか否かを、慎重に触診で確かめることが重要であると考察されています。
この研究では、超音波検査によって腎脾間捕捉の診断を下すのみならず、その重篤度を推察できることが示唆されており、例えば、捕捉されている大結腸内のガスや内容物の量、および腸壁の浮腫や肥厚の度合いを、比較的明瞭に観察できることが示されています。腎脾間捕捉の罹患馬における直腸検査では、大結腸が腎脾間靭帯(Renosplenic ligament)の上部を走行している状態や、大結腸の膨満の度合いは触知されますが、これに超音波検査を併用することで、ローリング法によるスムーズな整復が期待できるのか、それとも速やかに開腹術による外科的整復を試みるべきであるのか、などを的確に判断する指標になると考察されています。
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