馬の文献:大結腸左背方変位(Farstvedt et al. 2005)
文献 - 2015年10月17日 (土)
「腹腔鏡を介しての腎脾間腔の閉鎖による上行大結腸の再発性腎脾間捕捉の予防」
Farstvedt E, Hendrickson D. Laparoscopic closure of the nephrosplenic space for prevention of recurrent nephrosplenic entrapment of the ascending colon. Vet Surg. 2005; 34(6): 642-645.
この症例論文では、上行大結腸(Ascending colon)の再発性腎脾間捕捉(Recurrent nephrosplenic entrapment)を予防する目的で、腹腔鏡(Laparoscope)を用いて腎脾間腔(Nephrosplenic space)を縫合閉鎖する手法が試みられました。腹腔鏡手術では、文献で示されている術式の変法が用いられました(Marien T: Laparoscopic closure of the nephrosplenic space in the standing horse, Equine Diagnostic and Surgical Laparoscopy. Saunders, 2002, pp 265–271)。
この研究では、外科的アプローチとしては、腹腔鏡または器具用のポータルを、寛結節(Tuber coxae)の高さの第17肋間(Seventeenth rib space)と、左側膁部(Left paralumbar fossa)における第18肋骨と寛結節の中間点に設け、もう一箇所の器具用ポータルを二番目のポータルより3cm腹側に設けました。腎脾間腔の縫合閉鎖では、脾臓の背側縁包膜(Dorsal splenic capsule)を腎脾間靭帯(Nephrosplenic ligament)に対して、単純連続パターン(Simple continuous pattern)で縫合する手法が実施されました。
結果としては、腹腔鏡手術が行われた10頭の患馬では、腎脾間捕捉の再発(Recurrence)が見られた馬は一頭も無く、疝痛症状を示した回数も手術前よりも有意に減少したことが示されました。このことから、腹腔鏡を介して腎脾間腔の縫合閉鎖を行う治療は、腎脾間捕捉の再発予防に有効であることが示唆されました。ただ、文献で報告されている腎脾間捕捉の再発率はそれほど高くなく、また、腹腔鏡手術は腎脾間捕捉の内科的&外科的整復から二週間以上経って実施することが推奨されているため、患馬は再入院のための費用と時間を要することになり、すべての腎脾間隙の罹患馬に対して、腹腔鏡手術による再発予防処置を施すのは理論的&現実的ではないかもしれません。
この研究では、この腹腔鏡手術が行われた10頭の患馬のうち5頭において、大結腸右背方変位(Large colon right dorsal displacement)などの、外科的療法を要する消化器疾患の発現が見られました。このことから、腎脾間腔の閉鎖によって腎脾間捕捉の再発予防が施された馬においても、他のタイプの大結腸変位は起こりうることが示されました。ひとつの推測としては、腎脾間捕捉を発症した馬は、骨盤曲(Pelvic flexure)の逆移送運動(Retropulsion)や異常蠕動(Aberrant motility)などの二次性病態を続発して、大結腸の捻転(Volvulus)や右背方変位を発症する危険が高まる可能性もあります。しかし、この論文では、大結腸右背方変位の自然発生率と、腎脾間捕捉を起こした馬における大結腸右背方変位の発生率の比較は行われていません。
この研究において、腹腔鏡手術が行われた10頭の患馬のうち、手術前に疝痛症状の再発が見られたのは7頭で、このうち腎脾間捕捉の再発が確認されたのは4頭のみでした。つまり、腹腔鏡手術を応用する際の、症例選択の基準はかなり曖昧であるため、患馬のうち数頭は、腎脾間腔の閉鎖の有無に関わらず、腎脾間捕捉を再発しなかった可能性もあります。今後の研究では、ある一定期間にわたって、腎脾間捕捉の罹患馬の全頭に腹腔鏡手術を行い、本当に腎脾間捕捉の再発率が減少するのかを検証する必要があるのかもしれません(経済的に困難であるとは思いますが)。
この研究における腹腔鏡手術では、外科器具を腹腔内で操作する際に、通常よりも長めの15cmの自製カニューレを使用することで、腹膜(Peritoneum)が視界を妨げることなく、比較的スムーズに腎脾間腔の縫合閉鎖が行われたことが報告されています。また、手術時間は平均30分前後で、他の文献の術式と同程度であったことが示されています。
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Farstvedt E, Hendrickson D. Laparoscopic closure of the nephrosplenic space for prevention of recurrent nephrosplenic entrapment of the ascending colon. Vet Surg. 2005; 34(6): 642-645.
この症例論文では、上行大結腸(Ascending colon)の再発性腎脾間捕捉(Recurrent nephrosplenic entrapment)を予防する目的で、腹腔鏡(Laparoscope)を用いて腎脾間腔(Nephrosplenic space)を縫合閉鎖する手法が試みられました。腹腔鏡手術では、文献で示されている術式の変法が用いられました(Marien T: Laparoscopic closure of the nephrosplenic space in the standing horse, Equine Diagnostic and Surgical Laparoscopy. Saunders, 2002, pp 265–271)。
この研究では、外科的アプローチとしては、腹腔鏡または器具用のポータルを、寛結節(Tuber coxae)の高さの第17肋間(Seventeenth rib space)と、左側膁部(Left paralumbar fossa)における第18肋骨と寛結節の中間点に設け、もう一箇所の器具用ポータルを二番目のポータルより3cm腹側に設けました。腎脾間腔の縫合閉鎖では、脾臓の背側縁包膜(Dorsal splenic capsule)を腎脾間靭帯(Nephrosplenic ligament)に対して、単純連続パターン(Simple continuous pattern)で縫合する手法が実施されました。
結果としては、腹腔鏡手術が行われた10頭の患馬では、腎脾間捕捉の再発(Recurrence)が見られた馬は一頭も無く、疝痛症状を示した回数も手術前よりも有意に減少したことが示されました。このことから、腹腔鏡を介して腎脾間腔の縫合閉鎖を行う治療は、腎脾間捕捉の再発予防に有効であることが示唆されました。ただ、文献で報告されている腎脾間捕捉の再発率はそれほど高くなく、また、腹腔鏡手術は腎脾間捕捉の内科的&外科的整復から二週間以上経って実施することが推奨されているため、患馬は再入院のための費用と時間を要することになり、すべての腎脾間隙の罹患馬に対して、腹腔鏡手術による再発予防処置を施すのは理論的&現実的ではないかもしれません。
この研究では、この腹腔鏡手術が行われた10頭の患馬のうち5頭において、大結腸右背方変位(Large colon right dorsal displacement)などの、外科的療法を要する消化器疾患の発現が見られました。このことから、腎脾間腔の閉鎖によって腎脾間捕捉の再発予防が施された馬においても、他のタイプの大結腸変位は起こりうることが示されました。ひとつの推測としては、腎脾間捕捉を発症した馬は、骨盤曲(Pelvic flexure)の逆移送運動(Retropulsion)や異常蠕動(Aberrant motility)などの二次性病態を続発して、大結腸の捻転(Volvulus)や右背方変位を発症する危険が高まる可能性もあります。しかし、この論文では、大結腸右背方変位の自然発生率と、腎脾間捕捉を起こした馬における大結腸右背方変位の発生率の比較は行われていません。
この研究において、腹腔鏡手術が行われた10頭の患馬のうち、手術前に疝痛症状の再発が見られたのは7頭で、このうち腎脾間捕捉の再発が確認されたのは4頭のみでした。つまり、腹腔鏡手術を応用する際の、症例選択の基準はかなり曖昧であるため、患馬のうち数頭は、腎脾間腔の閉鎖の有無に関わらず、腎脾間捕捉を再発しなかった可能性もあります。今後の研究では、ある一定期間にわたって、腎脾間捕捉の罹患馬の全頭に腹腔鏡手術を行い、本当に腎脾間捕捉の再発率が減少するのかを検証する必要があるのかもしれません(経済的に困難であるとは思いますが)。
この研究における腹腔鏡手術では、外科器具を腹腔内で操作する際に、通常よりも長めの15cmの自製カニューレを使用することで、腹膜(Peritoneum)が視界を妨げることなく、比較的スムーズに腎脾間腔の縫合閉鎖が行われたことが報告されています。また、手術時間は平均30分前後で、他の文献の術式と同程度であったことが示されています。
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