馬の文献：大結腸右背方変位（Smith et al. 2010）
文献 - 2015年10月18日 (日)
「開腹術による大結腸右背方変位の整復を受けた馬は、他の種類の大結腸変位よりも術後に疝痛を再発しやすいのか？」
Smith LJ, Mair TS. Are horses that undergo an exploratory laparotomy for correction of a right dorsal displacement of the large colon predisposed to post operative colic, compared to other forms of large colon displacement? Equine Vet J. 2010; 42(1): 44-46.
この症例論文では、探索的開腹術（Exploratory laparotomy）による大結腸右背方変位（Large colon right dorsal displacement）の整復が行われた馬における術後疝痛（Post-operative colic）の発症率を評価するため、2000～2008年にわたる非絞扼性大結腸変位（Nonstrangulating large colon displacement）の罹患馬の診療記録（Medical records）の回顧的解析（Retrospective analysis）が行われました。非絞扼性の大結腸変位としては、左背方変位（Left dorsal displacement）、右背方変位（Right dorsal displacement）、骨盤曲後屈（Retroflexion of the pelvic flexure）、非絞扼性捻転（Nonstrangulating volvulus）などの病態が含まれました。
結果としては、大結腸右背方変位の罹患馬における回帰性疝痛（Recurrent colic）の発症率（42%）は、その他の種類の大結腸変位の罹患馬における回帰性疝痛の発症率（22%）よりも有意に高かったことが示されました。また、大結腸右背方変位の外科的整復が行われた86頭の患馬のうち、9頭（10%）において二度目の開腹術を要し、そのうち6頭において右背方変位の再発が起き、3頭において大結腸捻転（Large colon volvulus）が起きていたことが分かりました。このため、大結腸右背方変位の外科的整復が行われる場合には、畜主に対して術後に疝痛が再発する危険が高いことを通知するのが重要であるという考察がなされています。
馬の大結腸の右背方変位は、骨盤曲の逆移送運動（Retropulsion）や異常蠕動（Aberrant motility）に起因すると考えられているため、開腹術の際に大結腸の内容物除去（Ingesta removal）が行われ腸管が軽くなると、術後に再び変位を起こし易くなるという仮説もあります。このため、大結腸右背方変位の開腹術では、あえて大結腸内部に内容物を少し残しておいたり、術後のかなり早い時期（八時間以内）に給餌を開始するなどして、ある程度の腸重量を維持させることで、大結腸変位の再発予防を施す方針を推奨している文献もあります（Hardy. 2008. Specific diseases of the large colon. In: The Equine Acute Abdomen. pp 628-644）。
この研究では、開腹術による変位の整復後に、回帰性疝痛が原因で安楽死（Euthanasia）が選択された患馬は、大結腸の右背方変位では2%であったのに対して、非絞扼性捻転では14%、骨盤曲後屈では9%、左背方変位では0%であった事が示されました。このため、大結腸右背方変位の罹患馬では、術後に疝痛を再発する可能性は高いものの、必ずしも長期的生存率（Long-term survival rate）の低下や予後悪化（Poor prognosis）につながるわけではないと考察されています。
この研究では、非絞扼性大結腸変位の罹患馬のうち、探索的開腹術が実施された症例のみサンプルとして選択された事から、大結腸の右背方変位では86頭、左背方変位では12頭が含まれました。これは、左背方変位に比べて右背方変位のほうが、直腸検査（Rectal examination）や腹部超音波検査（Abdominal ultrasonography）による推定診断が難しく、診断を目的として開腹術が応用される症例が多いことを反映していると考察されています。
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