馬の文献:大結腸右背方変位(Grenager et al. 2011)
文献 - 2015年10月19日 (月)

「13頭の馬における大結腸右背方変位を示唆する腸間膜血管の超音波検査所見」
Grenager NS, Durham MG. Ultrasonographic evidence of colonic mesenteric vessels as an indicator of right dorsal displacement of the large colon in 13 horses. Equine Vet J. 2011; 43 Suppl 39: 153-155.
この症例論文では、大結腸右背方変位(Right dorsal displacement of the large colon)に有用な診断法を検討するため、開腹術(Laparotomy)によって大結腸右背方変位の確定診断(Definitive diagnosis)が下された患馬における、術前の超音波検査(Ultrasonography)での腸間膜血管(Mesenteric vessels)の異常所見の解析が行われました。
結果としては、23頭の患馬のうち13頭において、腸間膜血管が右背側腹部(Right dorsal abdomen)に沿う箇所で、肋軟骨移行部(Costochondral junction)において少なくとも二つの肋骨間隙(Two intercostal spaces)に掛かる位置に観察されました。この画像診断のためには、右側膁部(Right flank)に認められた盲腸血管(Cecal vessels)を頭内側方向(Cranio-medial direction)へと追跡し、肋骨間隙を尾側から頭側へとスキャンすることで、腸間膜血管の位置が診断されました。このため、大結腸右背方変位の罹患馬においては、超音波検査を介して腸間膜血管が異常な位置にあることを確かめる手法が、術前の診断に有用である可能性が示唆されました。
一般的に、馬の大結腸右背方変位では、腹痛症状(Abdominal pain)の重篤度が様々であり、また、直腸検査(Rectal examination)、経鼻カテーテルから胃排出液(Nasogastric reflux)、腹水検査(Abdominocentesis)、血液検査(GGT濃度の上昇)、超音波検査などにおいても、必ずしも特徴的な所見が見られるわけではないため、馬の疝痛の原因疾患の中でも確定診断の難しい病態であることが知られています。このため、非侵襲性(Noninvasive)の超音波検査によって、大結腸右背方変位の診断能を向上できる手法は、極めて有用であると推測されます。
しかし、この研究の限界点(Limitation)としては、この診断法(超音波検査で腸間膜血管の位置を確かめる手法)における感度(Sensitivity)が57%(13/23頭)であることが示されているだけで、その特異度(Specificity)は評価されていません。考察の中では、“腸間膜血管が異常な位置にある所見は、他の疝痛馬では一頭も見られなかった”(Abnormally-located vessels were not noted in any of surgical colic diagnosed as other than RDDLC)と述べられており、その意味では、特異度は100%ということになります(誤診断の可能性は0%)。しかし、他の症例に対して、上述とまったく同じ方法によって、慎重に腸間膜血管の位置を見極める努力がなされたとはいう記述は無く、この診断法の信頼性(Reliability)および陽性的中率(Positive predictive value)を検討するためには、不十分なデータであると言えます。
さらに、この論文には、以下のような問題点があります。(1)非疝痛馬における腸間膜血管の“正常な位置”は評価されておらず、超音波像での異常所見が、何パーセントぐらいの健常な馬において、偶発的に見られる所見(Incidental finding)なのかが報告されていない。(2)腸間膜血管の位置が異常であった13頭の症例において、手術で腸管変位が整復された後の再検査(手術直後や24時間後など)によって、腸間膜血管の位置が正常に戻っていた、というデータが示されていない。(3)開腹術の際に触知された腸間膜血管の位置が、超音波検査で認められた位置と合致していたのか否か?が報告されていない。(4)馬の大結腸右背方変位には、骨盤曲(Pelvic flexure)が頭側方向へ迷入(Cranial migration)する反時計回り変位(Counterclockwise displacement)と、骨盤曲が尾側方向へ迷入(Caudal migration)する時計回り変位(Clockwise displacement)がありますが、腸間膜血管が異常な位置にあるという超音波所見が、どちらのタイプに見られるのか?が評価されていない。(5)腸間膜血管が異常な位置にある所見は、腸管への血液供給の阻害を示唆すると考えられるが、この超音波所見の有無が、術中に認められた大結腸の病態(変位の度合い、腸管虚血の重篤度、腸管損傷の範囲、etc)に相関するのか否か?などは評価されていない。
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