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馬の文献:大結腸捻転(Van Hoogmoed et al. 2000)

「骨盤曲生検による馬の大結腸捻転の予後判定」
Van Hoogmoed L, Snyder JR, Pascoe JR, Olander H. Use of pelvic flexure biopsies to predict survival after large colon torsion in horses. Vet Surg. 2000; 29(6): 572-577.

この症例論文では、外科的整復(Surgicak correction)が行われた大結腸捻転(Large colon volvulus)の罹患馬における正確な予後判定を行う目的で、術後に生存した40頭の患馬(Survivors:生存馬)、および安楽死(Euthanasia)が選択された14頭の患馬(Nonsurvivors:非生存馬)において、大結腸の骨盤曲(Pelvic flexure)の生検(Biopsy)が行われました。骨盤曲生検の検体を用いての病理組織学検査(Histopathological examination)では、間質層と腺窩層の比率(Interstitial-to-cript ratio)(I:C比)、管腔上皮の%損失率(Percentage loss of luminal epithelium)、腺上皮の%損失率(Percentage loss of glandular epithelium)などの評価が行われ、50%以上の腺上皮が死滅していたり、I:C比が3以上であった場合には、大結腸組織の生存能が無い(Nonviable)という判断が下されました。

結果としては、生存馬は非生存馬に比べて、有意に低い腺上皮損失率(生存馬:14% vs 非生存馬:76%)、有意に低い管腔上皮損失率(生存馬:48% vs 非生存馬:100%)、有意に低いI:C比(生存馬:2.2 vs 非生存馬:5.8)が認められました。このうち、50%以上の腺上皮損失率をカットオフ値とした場合には、93%の感度(Sensitivity)と95%の特異度(Specificity)が達成されました。このことから、骨盤曲生検は大結腸捻転の罹患馬において、信頼的かつ有用な予後判定の指標となることが示唆されました。

この研究では、準備に長時間を要するパラフィン切片ではなく、凍結切片(Frozen section)の手技を用いることで、検体の採取から顕微鏡所見の解釈(Interpretation)まで、約三十分しか掛からないことが示されました。このため、骨盤曲切開の直後に検体を採取して切片準備と検査を始めれば、大結腸内容物の排出(Ingesta removal)や切開創の縫合閉鎖を終了するまでには検査結果を得られると予想されることから、骨盤曲生検による術中予後判定(Intra-operative prognostication)に基づいて、その後の治療指針を判断できると考えられました。

この研究では、六頭の患馬において大結腸切除術(Large colon resection)が行われましたが、骨盤曲生検ではこのうちの五頭が生存、残りの一頭が非生存と予測され、六頭ともその通りの予後を示しました。大結腸切除術は高額の費用と長期にわたる術後治療を要することが多く、術中の骨盤曲生検によって的確な予後判定が下されれば、手術適応の是非を判断する際に極めて有用であると考えられました。

この研究では、骨盤曲生検によって生存すると予測された患馬のうち、数頭が術後に蹄葉炎(Laminitis)を発症して安楽死となりました。これは、生検が行われた時点では生じていなかった虚血再灌流障害(Ischemia-reperfusion injury)が、その後になって起こり、遊離された酸素由来フリーラディカル(oxygen-derived free radical)または内毒素血症(Endotoxemia)に起因して、蹄葉炎の発症に至ったと仮説されています。このため、骨盤曲生検に合わせて、ドップラー超音波検査(Doppler ultrasonography)や表面酸素測定(Surface oximetry)を介して、大結腸における虚血病態の目安となる組織酸素化(Tissue oxygenation)の評価を併用することで、より信頼的な予後判定が可能になるという考察がなされています。

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