馬の文献:大結腸捻転(Pease et al. 2004)
文献 - 2015年10月20日 (火)
「大結腸捻転の罹患馬における大結腸壁の厚さ測定のための超音波検査の精度」
Pease AP, Scrivani PV, Erb HN, Cook VL. Accuracy of increased large-intestine wall thickness during ultrasonography for diagnosing large-colon torsion in 42 horses. Vet Radiol Ultrasound. 2004; 45(3): 220-224.
この症例論文では、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)を用いての大結腸壁の厚さ(Large colon wall thickness)の測定値に基づく大結腸捻転(Large colon volvulus)の診断の精度(Accuracy)とその有用性を評価するため、42頭の外科的大結腸疾患の罹患馬に対する超音波検査が行われ、その後の開腹術(Celiotomy)または剖検(Necropsy)による確定診断との比較が行われました。腹部超音波検査は、右背側域(Right dorsal abdomen)、右腹側膁部(Right ventral flank)、右側第10肋間(Right 10th intercostals space)、腹側域(Ventral abdomen)、左背側域(Left dorsal abdomen)、左腹側膁部(Left ventral flank)の六ヶ所において実施されました。
結果としては、大結腸捻転の罹患馬では、他の大結腸疾患の罹患馬に比べて、有意に高い大結腸壁の厚さ測定値が示され、測定値には良好な精度(観察者内変動は2mm以下)が認められました。特に、腹側域における大結腸壁の厚さが9mm以上である所見をカットオフ値とした場合には、67%の感度(Sensitivity)と100%の特異度(Specificity)が得られたことから、超音波検査は比較的に高感度でかつ極めて信頼性の高い、大結腸捻転の診断指標になることが示唆されました。
この研究では、大結腸疾患の罹患馬のうち大結腸捻転が約三割を占め、これを大結腸捻転の有病率(Prevalence)と仮定すると、上述のカットオフ値(腹側域における大結腸壁の厚さが9mm以上)を用いた場合に、陽性適中率(Positive predictive value)は100%で、陰性適中率(Negative predictive value)は88%である事が示されました。つまり、大結腸疾患が疑われる馬郡の診断に際しては、超音波検査による陽性結果(>9mm)を示せば、その全頭で大結腸捻転を発症しているという予測(Prediction)が可能で、逆に陰性結果(<9mm)を示せば、その約九割で大結腸捻転を除外診断できる事が分かりました。
この研究では、腹側域の他に、右腹側膁部、右側第10肋間、左腹側膁部、などにおける大結腸壁の厚さ測定値においても、大結腸捻転と他の大結腸疾患とのあいだに有意差が見られ、また、全ての区域における超音波検査を実施しても、約15分間しか要しないことが報告されています。このため、大結腸疾患が疑われる全ての罹患馬に対して、左右の腹壁全域にわたる超音波検査を行うことで、さらに信頼性の高い大結腸捻転の診断が下せるという考察がなされています。
一般的に、開腹術が行われた大結腸疾患の罹患馬では、捻転を起こしていた場合の生存率(Survival rate)は四割~六割であるのに対して、非絞扼性の大結腸疾患(Non-strangulating large colon disorders)を起こしていた場合の生存率は九割前後であることが知られています。また、大結腸捻転の平均治療費は6000ドルであるのに対して、非絞扼性の大結腸疾患の平均治療費は3000ドルであったことも報告されています。このため、超音波検査によって精度および信頼性の高い診断を下して、的確に開腹術の応用か否かを判断することは、多くの疝痛診療の場で極めて有用であると考えられました。
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この症例論文では、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)を用いての大結腸壁の厚さ(Large colon wall thickness)の測定値に基づく大結腸捻転(Large colon volvulus)の診断の精度(Accuracy)とその有用性を評価するため、42頭の外科的大結腸疾患の罹患馬に対する超音波検査が行われ、その後の開腹術(Celiotomy)または剖検(Necropsy)による確定診断との比較が行われました。腹部超音波検査は、右背側域(Right dorsal abdomen)、右腹側膁部(Right ventral flank)、右側第10肋間(Right 10th intercostals space)、腹側域(Ventral abdomen)、左背側域(Left dorsal abdomen)、左腹側膁部(Left ventral flank)の六ヶ所において実施されました。
結果としては、大結腸捻転の罹患馬では、他の大結腸疾患の罹患馬に比べて、有意に高い大結腸壁の厚さ測定値が示され、測定値には良好な精度(観察者内変動は2mm以下)が認められました。特に、腹側域における大結腸壁の厚さが9mm以上である所見をカットオフ値とした場合には、67%の感度(Sensitivity)と100%の特異度(Specificity)が得られたことから、超音波検査は比較的に高感度でかつ極めて信頼性の高い、大結腸捻転の診断指標になることが示唆されました。
この研究では、大結腸疾患の罹患馬のうち大結腸捻転が約三割を占め、これを大結腸捻転の有病率(Prevalence)と仮定すると、上述のカットオフ値(腹側域における大結腸壁の厚さが9mm以上)を用いた場合に、陽性適中率(Positive predictive value)は100%で、陰性適中率(Negative predictive value)は88%である事が示されました。つまり、大結腸疾患が疑われる馬郡の診断に際しては、超音波検査による陽性結果(>9mm)を示せば、その全頭で大結腸捻転を発症しているという予測(Prediction)が可能で、逆に陰性結果(<9mm)を示せば、その約九割で大結腸捻転を除外診断できる事が分かりました。
この研究では、腹側域の他に、右腹側膁部、右側第10肋間、左腹側膁部、などにおける大結腸壁の厚さ測定値においても、大結腸捻転と他の大結腸疾患とのあいだに有意差が見られ、また、全ての区域における超音波検査を実施しても、約15分間しか要しないことが報告されています。このため、大結腸疾患が疑われる全ての罹患馬に対して、左右の腹壁全域にわたる超音波検査を行うことで、さらに信頼性の高い大結腸捻転の診断が下せるという考察がなされています。
一般的に、開腹術が行われた大結腸疾患の罹患馬では、捻転を起こしていた場合の生存率(Survival rate)は四割~六割であるのに対して、非絞扼性の大結腸疾患(Non-strangulating large colon disorders)を起こしていた場合の生存率は九割前後であることが知られています。また、大結腸捻転の平均治療費は6000ドルであるのに対して、非絞扼性の大結腸疾患の平均治療費は3000ドルであったことも報告されています。このため、超音波検査によって精度および信頼性の高い診断を下して、的確に開腹術の応用か否かを判断することは、多くの疝痛診療の場で極めて有用であると考えられました。
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