馬の文献:大結腸捻転(Mathis et al. 2006)
文献 - 2015年10月20日 (火)

「管腔内圧測定による馬の絞扼性大結腸捻転の外科治療後の予後判定」
Mathis SC, Slone DE, Lynch TM, Hughes FE, Clark CK. Use of colonic luminal pressure to predict outcome after surgical treatment of strangulating large colon volvulus in horses. Vet Surg. 2006; 35(4): 356-360.
この症例論文では、大結腸の管腔内圧(Colonic luminal pressure)による馬の絞扼性大結腸捻転(Strangulating large colon volvulus)の予後判定の有用性を評価するため、外科的治療が行われた大結腸捻転の罹患馬における管腔内圧の測定が行われました。この研究には、270度以上の大結腸のねじれを生じた症例のみ含まれ、管腔内圧の測定は大結腸を腹腔外に引き出す過程(Exteriorization)よりも前に行われました。
結果としては、大結腸の手動整復(Manual correction)のみが行われた症例郡では(生存率82%)、管腔内圧に基づく生存予測において、0.60の感度(Sensitivity)と0.77の特異度(Specificity)が示されましたが、大結腸の切除および吻合術(Large colon resection and anastomosis)が行われた症例郡では(生存率80%)、0.50の感度と0.54の特異度が示されました。このことから、大結腸の管腔内圧測定は、それほど信頼性の高い予後判定の指標にはならないことが示されました。
この研究では、管腔内圧が38cm-H2O以上である所見をカットオフ値にした場合、その陽性的中率(Positive predictive value)は、手動整復のみが行われた症例郡では38%で、大結腸切除&吻合術が行われた症例郡では21%にしか過ぎませんでした。一方、陰性的中率(Negative predictive value)は、手動整復のみが行われた症例郡では89%で、大結腸切除&吻合術が行われた症例郡では81%であったことが示されました。つまり、手動整復のみが行われた症例においては、管腔内圧が高い(38cm-H2O以上)からと言って、予後不良であるという判断は下せませんが、管腔内圧が低い(38cm-H2O以下)のであれば、約九割の確率で良好な予後を示すことが示唆されました。しかし、この大結腸の手動整復のみが行われた症例郡では、判別能力(Discriminant ability)を示す受信者動作特性曲線下面積(Area under the receiver operating characteristic curve)は充分に高くなかったことから、管腔内圧の測定値のみで予後推測を行うことは適当でないという警鐘が鳴らされています。
この研究では、大結腸の手動整復のみが行われた症例郡では、生存馬(Survivors)の管腔内圧は28cm-H2O、非生存馬(Non-survivors)の管腔内圧は40cm-H2Oで、両郡のあいだに有意差は無かったものの、大結腸切除&吻合術が行われた症例郡の測定値(生存馬:38cm-H2O、非生存馬:45cm-H2O)よりも高かった事が示されました。これは、治療方針の選択時の偏向(Bias)(重篤な大結腸捻転を示した症例には、より頻繁に大結腸切除&吻合術が応用される傾向)によるものと考察されています。しかし、一方で、管腔内圧の測定値に基づいて、大結腸切除&吻合術の必要性を判断することが可能性であるとも言え、例えば、管腔内圧が45cm-H2O以上に及ぶ症例では、大結腸切除&吻合術をしても生存する可能性は低いと推測する、などの指針が有効であるかもしれないと考えさせられました。
この研究では、大結腸切除&吻合術が行われた症例郡では、管腔内圧の測定値による予後判定の信頼性が悪いことが示されました(感度&特異度とも50%程度)。これは、この研究における外科的治療においては、大結腸の八割~九割が切除されたため、管腔内圧が示している捻転部位の大結腸損傷の重篤度が、その後の予後に与える影響が最小限であったためと推測されています。このため、管腔内圧の測定値による予後判定は、捻転部の大結腸を切除せず体内に残しておく場合に特に有用であるという考察がなされています。
この研究で検証された管腔内圧値は、測定時の大結腸の捻転&膨満の重篤度の目安にはなりますが、捻転の経過の長さの指標にはなりにくいと考えられます。他の文献によれば、大結腸捻転における腸壁の不可逆的損傷(Irreversible damage)は、捻転による虚血状態(Ischemia)が二~四時間以上続いた場合に、特に広範囲にわたって生じることが示唆されています。このため、管腔内圧の測定値に、疝痛症状の経過時間(Duration of colic sign)や、腸壁生検(Colonic wall biopsy)による病理組織学的検査(Histopathological examination)の結果を加味すれば、より信頼的かつ正確な予後判定が出来るのかもしれません。
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