馬の文献:大結腸捻転(Abutarbush. 2006)
文献 - 2015年10月21日 (水)
「超音波検査による馬の大結腸捻転の診断」
Abutarbush SM. Use of ultrasonography to diagnose large colon volvulus in horses. J Am Vet Med Assoc. 2006; 228(3): 409-413.
この症例論文では、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)を用いての大結腸捻転(Large colon volvulus)の診断の有用性を評価する目的で、四頭の大結腸捻転の罹患馬における超音波検査が実施されました。一般的に正常馬では、嚢形成が見られる左腹側大結腸(Sacculated left ventral colon)が左腹側部(Left ventral abdomen)または脾臓(Spleen)の隣りに位置していますが、この腹腔域において嚢形成が見られない左背側大結腸(Non-sacculated left dorsal colon)が観察される所見で、大結腸捻転の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。
結果としては、四頭全ての患馬において、左背側大結腸が左腹側部に位置している所見が認められたことから、大結腸捻転を発症しているという診断が下され、開腹術(Laparotomy)または剖検(Necropsy)によって、このうち三頭では180度、残りの一頭では540度の大結腸捻転の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。このことから、超音波検査を介して、左腹側大結腸と左背側大結腸の位置関係を把握する手法が、大結腸捻転の診断に有効であることが示唆されました。
この研究では、一頭の罹患馬において、肩関節の高さの右側第14肋間(Right 14th intercostal space at the level of shoulder)での超音波検査で、右背側大結腸(Right dorsal colon)が正常位置である肝臓の隣りに認められたことから、捻転が生じているのは大結腸の胸骨曲および横隔曲(Sternal and diaphragmatic flexures)であることが確認されました。この所見を用いることで、盲腸&大結腸の底部における捻転(Volvulus at the base of the large colon and cecum)と、胸骨曲や横隔曲における捻転を鑑別できる場合もあると考えられ、捻転による虚血(Ischemia)が生じている大結腸域の長さが推測できることから、この超音波所見を用いての術前の予後判定や術式予測に有用であると考察されています。
この研究で検証されている、左腹側大結腸と左背側大結腸の位置が入れ替わっている所見は、360度または720度の捻転では認められないと考えられます。このため、超音波所見のみで大結腸捻転を除外診断するのは適当ではなく、直腸検査(Rectal examination)によって大結腸の膨満(Colonic distension)や結腸紐の緊張度(Tightness of colonic bands)を触知する手法を併用することが重要であると考察されています。
この研究では、一頭の罹患馬において、大結腸壁の肥厚(Thickened large colon wall)が認められましたが、他の三頭ではこの所見は顕著ではありませんでした。大結腸捻転における超音波検査では、大結腸壁の厚さの測定がその診断に有用であるという文献もありますが、この所見は経過が短い大結腸捻転では見られない場合もあり、また、大結腸炎(Colitis)などの非絞扼性の大結腸疾患(Nonstrangulating large colon disorder)でも、大結腸壁の肥厚を生じる症例もあることが示唆されています。このため、やはり大結腸壁の厚さの測定のみによって、大結腸捻転の推定診断を下すことは適当でないという考察がなされています。
この研究では、サンプル数が四頭と少なかった事から、統計学的なデータ解析は行われていません。このため、今後の研究では、より多数の大結腸捻転の罹患馬を含めることで、感度(Sensitivity)や特異度(Specificity)、陽性適中率や陰性適中率(Positive/Negative predictive values)などを用いて、超音波検査の有用性および信頼性を客観的に評価することが重要であると考えられました。
この研究の欠点としては、正常馬における超音波診断の結果や、罹患馬の術後の超音波所見について述べられていない点ではないかと思います。例えば、疝痛を起こしていない馬でも、左腹側大結腸にガスが溜まれば相対的に重量が軽くなって、一時的に左背側大結腸のほうが腹底部に位置する場合もないとは言えません。また、外科的整復の後に再び超音波検査を実施して、左腹側および左背側大結腸の位置が入れ替わっている所見が、術後になって見られなくなっている事を確認することが重要であったと思います。
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馬の病気:大結腸捻転


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結果としては、四頭全ての患馬において、左背側大結腸が左腹側部に位置している所見が認められたことから、大結腸捻転を発症しているという診断が下され、開腹術(Laparotomy)または剖検(Necropsy)によって、このうち三頭では180度、残りの一頭では540度の大結腸捻転の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。このことから、超音波検査を介して、左腹側大結腸と左背側大結腸の位置関係を把握する手法が、大結腸捻転の診断に有効であることが示唆されました。
この研究では、一頭の罹患馬において、肩関節の高さの右側第14肋間(Right 14th intercostal space at the level of shoulder)での超音波検査で、右背側大結腸(Right dorsal colon)が正常位置である肝臓の隣りに認められたことから、捻転が生じているのは大結腸の胸骨曲および横隔曲(Sternal and diaphragmatic flexures)であることが確認されました。この所見を用いることで、盲腸&大結腸の底部における捻転(Volvulus at the base of the large colon and cecum)と、胸骨曲や横隔曲における捻転を鑑別できる場合もあると考えられ、捻転による虚血(Ischemia)が生じている大結腸域の長さが推測できることから、この超音波所見を用いての術前の予後判定や術式予測に有用であると考察されています。
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この研究では、一頭の罹患馬において、大結腸壁の肥厚(Thickened large colon wall)が認められましたが、他の三頭ではこの所見は顕著ではありませんでした。大結腸捻転における超音波検査では、大結腸壁の厚さの測定がその診断に有用であるという文献もありますが、この所見は経過が短い大結腸捻転では見られない場合もあり、また、大結腸炎(Colitis)などの非絞扼性の大結腸疾患(Nonstrangulating large colon disorder)でも、大結腸壁の肥厚を生じる症例もあることが示唆されています。このため、やはり大結腸壁の厚さの測定のみによって、大結腸捻転の推定診断を下すことは適当でないという考察がなされています。
この研究では、サンプル数が四頭と少なかった事から、統計学的なデータ解析は行われていません。このため、今後の研究では、より多数の大結腸捻転の罹患馬を含めることで、感度(Sensitivity)や特異度(Specificity)、陽性適中率や陰性適中率(Positive/Negative predictive values)などを用いて、超音波検査の有用性および信頼性を客観的に評価することが重要であると考えられました。
この研究の欠点としては、正常馬における超音波診断の結果や、罹患馬の術後の超音波所見について述べられていない点ではないかと思います。例えば、疝痛を起こしていない馬でも、左腹側大結腸にガスが溜まれば相対的に重量が軽くなって、一時的に左背側大結腸のほうが腹底部に位置する場合もないとは言えません。また、外科的整復の後に再び超音波検査を実施して、左腹側および左背側大結腸の位置が入れ替わっている所見が、術後になって見られなくなっている事を確認することが重要であったと思います。
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