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馬の文献:大結腸捻転(Johnston et al. 2007)

「血漿乳酸測定による馬の360度上行大結腸捻転の生存能および予後の判定」
Johnston K, Holcombe SJ, Hauptman JG. Plasma lactate as a predictor of colonic viability and survival after 360 degrees volvulus of the ascending colon in horses. Vet Surg. 2007; 36(6): 563-567.

この症例論文では、血漿乳酸濃度(Plasma lactate concentration)による馬の大結腸捻転の予後判定、および捻転を起こした大結腸組織の生存能(Colonic viability)の判定の有用性を評価するため、2000~2005年において360度以上の上行大結腸の捻転(Ascending colon volvulus)を呈した73頭の罹患馬における、乳酸濃度の測定と予後および病理組織学的検査(Histopathologic examination)との比較が行われました。

結果としては、術前における生存馬(Survivors)の乳酸濃度は平均2.98mmol/Lで、非生存馬(Non-survivors)の乳酸濃度である平均9.47mmol/Lよりも有意に低く、乳酸濃度が6.0mmol/L以下である所見を生存可能のカットオフ値とした場合には、84%の感度(Sensitivity)、83%の特異度(Specificity)、そして96%の陽性適中率(Positive predictive values)が示されました。また、乳酸濃度が7.0mmol/L以上で生存した馬は三割、乳酸濃度が10.6mmol/L以上で生存した馬は一頭もいませんでした。このことから、血漿乳酸濃度の測定は、馬の大結腸捻転における予後判定に有用であることが示唆されました。

この研究では、大結腸検体の病理組織学的検査が行われた馬のうち、大結腸の生存能が認められた患馬の乳酸濃度は平均3.30mmol/Lで、大結腸の生存能が無いと判断された患馬の乳酸濃度である平均9.40mmol/Lよりも有意に低かったことが示されたことから、乳酸濃度は捻転を起こした大結腸の生存能の指標としても有用であると考察されています。しかし、血漿中の乳酸濃度は、患馬の全身症状の重篤度にも大きく左右されることから、その測定値単独で大結腸の生存能を予測するのは適当ではなく、術中病理検査(Intra-operative histologic evaluation)、ドップラー超音波検査(Doppler ultrasonography)、表面酸素測定(Surface oximetry)、結腸内圧(Colonic luminal pressure)の測定、などから総合的に大結腸生存能の評価を下し、大結腸の切除術および吻合術(Large colon resection and anastomosis)の必要性を判断するのが重要であると考えられます。

この研究では、開腹術(Laparotomy)の24時間後にも血漿乳酸濃度の測定が行われ、生存馬の乳酸濃度は平均0.96mmol/Lで、非生存馬の乳酸濃度である平均3.24mmol/Lよりも有意に低いことが分かりました。この術後の乳酸濃度は、入院時の病態の重篤度だけでなく、手術および術後治療に対する患馬の反応性を反映すると考えられました。このため、術前に乳酸濃度を測定する時間が無かった場合や、入院時に既に補液療法が開始されていた患馬(=乳酸濃度に大きく影響する)においても、開腹術の24時間後の乳酸濃度に基づいて、予後判定を下す指針が有効であると考えられました。

大結腸捻転の罹患馬が高乳酸血症(Hyperlactatemia)を起こす原因としては、組織低酸素症(Tissue hypoxia)と虚血(Ischemia)が挙げられますが、それ以外にも、脱水(Dehydration)、内毒素血症(Endotoxemia)、ショック等に起因する全身性低灌流(Systemic hypoperfusion)によって、肝臓や腎臓からの乳酸排出が低下することも、乳酸濃度上昇の要因となります。このため、乳酸濃度に基づいて予後を判定するという方針や、そのためのカットオフ値(この研究で示された<6.0mmol/L)の適用は、他の種類の疝痛馬にまで安易に拡大するべきではないという警鐘が鳴らされています。今後の研究では、大結腸捻転以外の疝痛や、360度以下の軽度な大結腸捻転における、乳酸濃度と予後の関係を慎重に評価する必要があるという提唱がなされています。

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