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馬の文献:大結腸捻転(Ellis et al. 2008)

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「73頭の絞扼性大結腸捻転の罹患馬における大結腸切除および端端吻合術後の予後と合併症」
Ellis CM, Lynch TM, Slone DE, Hughes FE, Clark CK. Survival and complications after large colon resection and end-to-end anastomosis for strangulating large colon volvulus in seventy-three horses. Vet Surg. 2008; 37(8): 786-790.

この症例論文では、絞扼性大結腸捻転(Strangulating large colon volvulus)の外科治療における、大結腸切除(Large colon resection)および端端吻合術(End-to-end anastomosis)の予後および術後合併症(Post-operative complication)の発症率を評価するため、1995~2005年にわたる73頭の大結腸捻転の罹患馬の診療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、外科的治療が行われた大結腸捻転の罹患馬では、74%の短期生存率(Short-term survival)(=退院した馬の割合)と、64%の長期生存率(Long-term survival)(=術後一年以上にわたって生存した馬の割合)が示され、大結腸切除および端端吻合術によって比較的に良好な予後が達成できることが示唆されました。

この研究における74%の短期生存率に比べて、他の文献では、50%(Mair and Smith. 2005)、60%(Rose and Bradley. 1992)、70%(Kilgallon. 1998)などの、やや低い生存率が報告されていますが、この理由としては、これらの論文は端端吻合術がまだ画期的な手法であった時代に書かれたこと、これらの論文のサンプル数が少なかったこと、これらの論文では大結腸捻転以外の疾患で切除&吻合が行われた症例を含んでいること、等が挙げられると考察されています。

この研究では、患馬の年齢、入院時の体温や心拍数、PCV、蛋白濃度、白血球数などの血液検査所見は、短期&長期生存率には有意に相関しないという結果が示されました。このことから、重篤な大結腸捻転を呈した患馬においても、適切な外科的処置を実施することで、良好な病態の整復と治癒が期待できると考えられました。しかし、この症例論文が報告された馬病院では、殆どの症例が三十分以内の輸送で搬入される条件であったことから、重篤で経過が長引いた大結腸捻転の患馬は少なかったと考えられ、これによって生存率に影響する要因を統計的に証明するのが難しかったという考察がなされています。

この研究では、最も頻繁に起こる術後合併症として、下痢(Diarrhea)が挙げられ(発症率30%)、これは大結腸の粘膜損傷(Mucosal damage)によって、水分吸収可能の面積が減少すること(Loss of surface area for fluid absorption)に起因すると考えられました。また、下痢以外にも、二割~三割の症例において、疝痛症状の再発(Colic recurrence)、低蛋白血症(Hypoproteinemia)、発熱(Fever)、内毒素血症(Endotoxemia)などが認められ、術後(=麻酔覚醒後)に退院できずに安楽死(Euthanasia)が選択された原因としては、蹄葉炎(Laminitis)、腹腔内癒着(intra-abdominal adhesion)、腹腔内出血(Intra-abdominal hemorrhage)が示されました。

この研究では、生存分析(Survival analysis)による長期データの統計解析が行われ、外科的治療が行われた大結腸捻転の罹患馬では、術後の数ヶ月間において生存率が減少する傾向が見られましたが、それ以後は平坦な生存率の推移を示しました。これは、大結腸捻転の罹患馬において、術後100日以内に生存率の低下が見られるという他の文献(Mair and Smith. 2005)の知見とも合致していました。このことから、大結腸捻転の外科手術では、退院後も数ヶ月にわたる慎重な術後処置や、給餌管理(Dietary management)等による大結腸捻転の再発予防が重要であると考えられましたが、それ以後には慢性的な手術の後遺症は残らないことが示唆されました。

この研究では、大結腸の生存能(Colonic viability)に疑問符が付く場合には、積極的に大結腸切除および端端吻合術を選択する治療指針が取られ、十分な生存率と比較的低い合併症の発現率が認められました。このため、「疑わしきは切除」という方針に基づく外科治療を実施することで、より良好な治療成績を収めることが出来るという考察がなされています。

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