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馬の文献:大結腸捻転(Gonzalez et al. 2015)

「馬の大結腸捻転の短期治療成績に関わる術中因子:2006~2013年の47症例」
Gonzalez LM, Fogle CA, Baker WT, Hughes FE, Law JM, Motsinger-Reif AA, Blikslager AT. Operative factors associated with short-term outcome in horses with large colon volvulus: 47 cases from 2006 to 2013. Equine Vet J. 2015; 47(3): 279-284.


この症例論文では、馬の大結腸捻転(Large colon volvulus)に対する外科的治療における予後判定指標(Prognostic indicators)を解明するため、2006~2013年にかけて、三つの馬病院に入院した症例馬のうち、探索的開腹術(Exploratory celiotomy)にて大結腸捻転(ねじれが360度以上)の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、骨盤曲部の生検(Pelvic flexure biopsy)が行われた47症例における、短期的な治療成績(Short-term outcome)と術中検査所見(Operative factors)との関係が、ロジスティック回帰解析(Logistic regression analysis)によって評価されました。

結果としては、骨盤曲サンプルの組織学的検査(Histologic examination)において、間質と腺窩の比率(Interstitium-to-crypt ratio)が1以上であった症例では、1以下であった症例に比べて、退院できない危険性が十三倍も高かった(オッズ比:13.0)ことが示されました。同様に、粘膜出血の重篤度スコア(Mucosal hemorrhage score)が3以上であった症例では、3未満であった症例に比べて、退院できない危険性が九倍近くも高かった(オッズ比:8.8)ことが示されました。このため、馬の大結腸捻転に対する開腹術においては、骨盤曲部の生検を実施して、術中の病理組織学的検査(Intra-operative histopathologic examination)における病態評価が、予後判定の指標として有用であることが示唆されました。

一般的に、腸壁サンプルの組織形態計測的解析(Histomorphometric analysis)は、腸管の生存性を判断する「最も基準となる検査法」(Gold standard)と見なされていますが(Snyder et al. AJVR. 1988;49:801)、馬の大結腸捻転においては、骨盤曲の組織学的所見が、腸管全体の病態を反映していない可能性があるため、その有用性(Usefulness)に疑問を投げ掛ける知見もありました(Levi et al. Vet Surg. 2012;41:582)。また、異常所見を定量的に評価するために、間質と腺窩の比率が3以上、および、50%以上の腺上皮が損失(Glandular epithelial loss)した場合に、腸管が非生存性(Non-viable)であると判断する基準も提唱されています(Van Hoogmoed et al. Vet Surg. 2000;29:572)。今回の研究では、間質と腺窩の比率が1以上なのか否かをカットオフ値とすることで、術後の短期生存率(Short-term survival rate)の予測が可能であることが示された一方で、腺上皮および管腔上皮(Luminal epithelium)の損失を見分けるのは難しい場合が多く、信頼性のある指標(Reliable parameters)にはなりえなかった、という考察がなされています。

この研究では、粘膜出血の重篤度スコアが3以上を予後不良とする基準によって、信頼性の高い予後判定ができることが示されました。しかし、これを詳しく見ると、予後良好と判定された馬のうち(スコアが3未満の症例)、予測通りに退院できたというケースは九割近かった(陰性的中率:88%)のに対して、予後不良と判定された馬のうち(スコアが3以上の症例)、予測通りに退院できなかった(つまり術後に安楽死となった)というケースは五割にとどまりました(陽性的中率:54%)。これは、感度が64%で、特異度が83%という検査精度に起因していました。このため、他の手法として、コンピューターソフトによる出血領域のデジタル定量化(Digital quantification)をおこない、0.84ppi以上を予後不良とする基準を用いたところ、感度が91%で、特異度が75%となっていました。この論文のなかでは、主観的なスコアと、デジタル定量した数値のうち、どちらが優れているかは考察されていませんが、一般的に言って、安楽死(Euthanasia)の選択に関わる検査精度としては、感度よりも特異度のほうが大切である場合が多いと言えます。つまり、助からない馬を予後良好と判断して治療継続してしまうケースが例え起こったとしても(=感度が低いため偽陰性となった場合)、逆に、助かるはずの馬を予後不良と判断して安楽死してしまうケースは(=特異度が低いため偽陽性となった場合)、獣医師として極力避けるのが望ましいハズです。そう考えると、デジタル定量した数値よりも(特異度:75%)、より特異度が高い重篤度スコア(特異度:83%)のほうが良い、という結論付けが可能かもしれませんし、実際のところ、特殊なコンピューターソフトを必要としないスコア付けのほうが、臨床応用の現実性は高いのかもしれません。

この研究では、大結腸の切除(Large colon resection)が行われた症例では、用手整復(Manual correction)のみが行われた症例に比べて、退院できない危険性に有意差は認められませんでした。このため、切除を要するほど病態が重かった症例においても、切除術をすることで予後が改善して、用手整復のみで治療された症例(切除を要しないと判断されるほど病態が軽かった症例)と同程度に良い生存率が達成された、という解釈ができるのかもしれません。しかし、この研究のサンプル数はそれほど多くなく(47頭)、もともと統計上の有意差が出にくい事から、大結腸切除術の治療効果に関しては、さらに症例数を積み重ねて解析する必要がある、という考察がなされています。

この研究では、サラブレッシュ種のほうが、他の品種に比べて、退院できない危険性が五分の一ほど低かった(オッズ比:0.2)ことが示されました。この理由については、この論文のなかでは明確に結論付けられていません。しかし、もしも、この研究の症例郡のなかで、サラブレッド競走馬の症例が、乗用馬やペット馬に比べて、経済的な価値(Economic value)が高かった場合には、病気が初期に発見される傾向にあったり、例え軽い病態でも早期入院がなされたり、また、高価な開腹手術でも積極的に選択された、などの可能性があり、これらの好ましい要因によって、サラブレッド症例のほうが予後が良いという結果につながった、という推測も成り立つのかもしれません。

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