馬の文献:腸結石症(Yarbrough et al. 1994)
文献 - 2015年10月25日 (日)
「腹部レントゲン検査による馬の腸結石症の診断:1990~1992年の141症例」
Yarbrough TB, Langer DL, Snyder JR, Gardner IA, O'Brien TR. Abdominal radiography for diagnosis of enterolithiasis in horses: 141 cases (1990-1992). J Am Vet Med Assoc. 1994; 205(4): 592-595.
この症例論文では、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)による馬の腸結石症(Enterolithiasis)の診断の有用性と信頼性を評価するため、1990~1992年にわたって腹部レントゲン検査が実施された141頭の罹患馬の医療記録(Medical record)の解析が行われました。この研究には、腹部レントゲン検査が行われ、なおかつ開腹術(Laparotomy)または剖検(Necropsy)によって確定診断(Definitive diagnosis)が下された症例のみ含まれ(94頭が腸結石症の罹患馬)、四箇所の腹腔域における側方撮影像によるレントゲン検査が実施されました。
結果としては、馬の腸結石症における腹部レントゲン検査では、77%の感度(Sensitivity)、94%の特異度(Specificity)、96%の陽性適中率(Positive predictive value)、68%の陰性適中率(Negative predictive value)が示され、腹部レントゲン検査によって比較的に高感度で、信頼性のかなり高い、馬の腸結石症の診断が可能であることが示唆されました。このため、間欠性疝痛(Intermittent colic)や食欲不振(Anorexia)などの特徴的症状によって腸結石の発症が疑われ、好発品種(Arabian、Morgan、Saddlebred、etc)、好発年齢(10~15歳)、好発飼料(アルファルファ乾草、etc)などの項目に該当する症例に対しては、積極的に腹部レントゲン検査を実施することが提唱されています。
この研究では、大結腸(Large colon)に生じた腸結石症では、83%の診断感度が示されたのに対して、小結腸(Small colon)に生じた腸結石症では、診断感度は42%に過ぎず、大結腸よりも小結腸のほうが有意に腸結石症の診断が難しいことが示唆されました。一方、この研究では、二人の外科医(Surgeon)および一人の放射線科医(Radiologist)による診断能に差異は認められず、腹部レントゲン像の解釈(Interpretation)自体はそれほど難しくないことが示されました。
この研究では、レントゲン像上で腸結石が観察されたのは、腹腔域1では29%の症例、腹腔域2では65%の症例、腹腔域3では5%の症例であったことから(腹腔域4では0%)、腸結石症が疑われる症例においては、まず腹腔域2の撮影を行うことが推奨されています。また、腹部レントゲン検査は多量の照射を要して、術者や補助者の放射線被爆(Radiation exposure)の危険が高いことから、腹腔域2の撮影像で腸結石が見つかれば、他の腹腔域の撮影は行わない指針が推奨されています。一方、この研究では、94頭の腸結石症の罹患馬のうち、37頭(39%)において複数の腸結石が発見されたことから、レントゲン検査で発見された石の数に関わらず、開腹術においては必ず腸管全域を探索して、他の消化管部位における腸結石を除外診断することが重要であると言えます。
この研究では、レントゲン上で大結腸膨満(Large colon distension)が観察された患馬のうち、実際に腸結石による物理的な通過障害(Mechanical obstruction)が起きていたのは52%に過ぎませんでした。このことから、レントゲン検査のみで腸結石と大結腸膨満の因果関係を証明するのは難しく、間欠性疝痛の病歴を示した症例においては、腸結石以外の原因で疝痛を生じていた場合もある、ということを考慮する必要があると考えられました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:腸結石症


Yarbrough TB, Langer DL, Snyder JR, Gardner IA, O'Brien TR. Abdominal radiography for diagnosis of enterolithiasis in horses: 141 cases (1990-1992). J Am Vet Med Assoc. 1994; 205(4): 592-595.
この症例論文では、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)による馬の腸結石症(Enterolithiasis)の診断の有用性と信頼性を評価するため、1990~1992年にわたって腹部レントゲン検査が実施された141頭の罹患馬の医療記録(Medical record)の解析が行われました。この研究には、腹部レントゲン検査が行われ、なおかつ開腹術(Laparotomy)または剖検(Necropsy)によって確定診断(Definitive diagnosis)が下された症例のみ含まれ(94頭が腸結石症の罹患馬)、四箇所の腹腔域における側方撮影像によるレントゲン検査が実施されました。
結果としては、馬の腸結石症における腹部レントゲン検査では、77%の感度(Sensitivity)、94%の特異度(Specificity)、96%の陽性適中率(Positive predictive value)、68%の陰性適中率(Negative predictive value)が示され、腹部レントゲン検査によって比較的に高感度で、信頼性のかなり高い、馬の腸結石症の診断が可能であることが示唆されました。このため、間欠性疝痛(Intermittent colic)や食欲不振(Anorexia)などの特徴的症状によって腸結石の発症が疑われ、好発品種(Arabian、Morgan、Saddlebred、etc)、好発年齢(10~15歳)、好発飼料(アルファルファ乾草、etc)などの項目に該当する症例に対しては、積極的に腹部レントゲン検査を実施することが提唱されています。
この研究では、大結腸(Large colon)に生じた腸結石症では、83%の診断感度が示されたのに対して、小結腸(Small colon)に生じた腸結石症では、診断感度は42%に過ぎず、大結腸よりも小結腸のほうが有意に腸結石症の診断が難しいことが示唆されました。一方、この研究では、二人の外科医(Surgeon)および一人の放射線科医(Radiologist)による診断能に差異は認められず、腹部レントゲン像の解釈(Interpretation)自体はそれほど難しくないことが示されました。
この研究では、レントゲン像上で腸結石が観察されたのは、腹腔域1では29%の症例、腹腔域2では65%の症例、腹腔域3では5%の症例であったことから(腹腔域4では0%)、腸結石症が疑われる症例においては、まず腹腔域2の撮影を行うことが推奨されています。また、腹部レントゲン検査は多量の照射を要して、術者や補助者の放射線被爆(Radiation exposure)の危険が高いことから、腹腔域2の撮影像で腸結石が見つかれば、他の腹腔域の撮影は行わない指針が推奨されています。一方、この研究では、94頭の腸結石症の罹患馬のうち、37頭(39%)において複数の腸結石が発見されたことから、レントゲン検査で発見された石の数に関わらず、開腹術においては必ず腸管全域を探索して、他の消化管部位における腸結石を除外診断することが重要であると言えます。
この研究では、レントゲン上で大結腸膨満(Large colon distension)が観察された患馬のうち、実際に腸結石による物理的な通過障害(Mechanical obstruction)が起きていたのは52%に過ぎませんでした。このことから、レントゲン検査のみで腸結石と大結腸膨満の因果関係を証明するのは難しく、間欠性疝痛の病歴を示した症例においては、腸結石以外の原因で疝痛を生じていた場合もある、ということを考慮する必要があると考えられました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:腸結石症