馬の文献:腸結石症(Hassel et al. 2001)
文献 - 2015年10月26日 (月)
「馬の腸結石の岩石学的および地質学的評価」
Hassel DM, Schiffman PS, Snyder JR. Petrographic and geochemic evaluation of equine enteroliths. Am J Vet Res. 2001; 62(3): 350-358.
この研究論文では、馬の腸結石(Enterolith)の生地(Textures)、鉱質特性(Mineralogic features)、化学特性(Chemical features)を特定するため、13頭の馬から摘出された様々な形態の腸結石における、岩石学的および地質学的評価(Petrographic and geochemic evaluation)が行われました。また、腸結石のイオン組成と、結石が形成された結腸内環境のイオン生成の比較も試みられました。
結果としては、馬の腸結石の組成は、ストルバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム:Magnesium ammonium phosphate)の結晶、またはストルバイトとマグネシウム藍鉄鉱(Magnesium vivianite)の混合結晶であったことが示され、アパタイト(リン酸カルシウム:Calcium phosphate)で生成された結石は認められませんでした。一般的に、犬猫の尿路結石(Urinary calculi)の文献では、ストルバイト結石はアパタイト結石よりも溶解(Dissolution)しやすい傾向にあることが報告されていることから、馬の腸結石症においても内科的療法や食餌管理(Dietary management)などによる、結石形成または再発の予防処置が有効であると考察されています。
この研究では、電子微小プローブ解析(Electron microprobe analysis)を用いて、馬の腸結石と、それが摘出された大結腸内容液(Colonic fluid)における、イオン組成の比較が行われ、腸内容液に多く含まれていたイオン(Na、S、Ca)は結石中には微量で、逆に、腸内容液にはあまり探知されなかったイオン(Mg、P)は結石中に多量に含まれていたことが分かりました。これらの馬の腸内容液にカルシウムが多く含まれていたのに、アパタイト結石が見られなかった原因としては、二リン酸(Pyrophosphate)が低濃度であったためにアパタイトの結晶成長が抑制(Suppression of apatite crystal growth)されたこと、およびナトリウムまたはカリウムイオンによるカルシウムイオンの置換(Substitution)が起きたこと、などが挙げられています。
この研究では、13個の腸結石のうち、四つが低空隙率(Low porosity)、六つが高空隙率(High porosity)、残りの三つが混合生地(Mixed-textural types)であったことが分かり、また、複数の結石において、ストルバイトが藍鉄鉱へと形質転換(Transformation)されている所見が認められました。ストルバイトにマグネシウムイオンが作用して藍鉄鉱へと転換する際には、36%の空隙率の上昇が生じることから、この過程によって高空隙率や混合生地を呈する結石が生成された可能性が示唆されています。
この研究では、殆どの結石の中心部に核(Nidi)となる小石が認められ、その直径は1cm以下であったことが報告されています。馬の腸結石症の予防法としては、マグネシウムを多く含有するアルファルファの給餌を控えることが有効であると考えられていますが、こまめに馬場や放牧地を清掃したり、飼料を地面に直接置かないようにすることで、摂食の際に馬が小石などを飲み込むのを防ぐのも大切な予防指針であると言えるかもしれません。
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馬の病気:腸結石症


Hassel DM, Schiffman PS, Snyder JR. Petrographic and geochemic evaluation of equine enteroliths. Am J Vet Res. 2001; 62(3): 350-358.
この研究論文では、馬の腸結石(Enterolith)の生地(Textures)、鉱質特性(Mineralogic features)、化学特性(Chemical features)を特定するため、13頭の馬から摘出された様々な形態の腸結石における、岩石学的および地質学的評価(Petrographic and geochemic evaluation)が行われました。また、腸結石のイオン組成と、結石が形成された結腸内環境のイオン生成の比較も試みられました。
結果としては、馬の腸結石の組成は、ストルバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム:Magnesium ammonium phosphate)の結晶、またはストルバイトとマグネシウム藍鉄鉱(Magnesium vivianite)の混合結晶であったことが示され、アパタイト(リン酸カルシウム:Calcium phosphate)で生成された結石は認められませんでした。一般的に、犬猫の尿路結石(Urinary calculi)の文献では、ストルバイト結石はアパタイト結石よりも溶解(Dissolution)しやすい傾向にあることが報告されていることから、馬の腸結石症においても内科的療法や食餌管理(Dietary management)などによる、結石形成または再発の予防処置が有効であると考察されています。
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