馬の文献:腸結石症(Hassel et al. 2008)
文献 - 2015年10月26日 (月)

「カリフォルニア州での馬の腸結石症における食餌および管理法による危険因子の評価」
Hassel DM, Aldridge BM, Drake CM, Snyder JR. Evaluation of dietary and management risk factors for enterolithiasis among horses in California. Res Vet Sci. 2008; 85(3): 476-480.
この症例論文では、馬の腸結石症(Enterolithiasis)における食餌および管理法による危険因子(Dietary and management risk factors)を発見するため、61頭の腸結石症の罹患馬(=腸結石症馬)と75頭の他の疝痛症例馬(=対照疝痛馬)における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、腸結石症馬は対照疝痛馬に比べて、アルファルファの給餌量が多く、青草(Grass hay)および燕麦乾草(Oat hay)の給餌量が少なく、また、日常的に牧草地へ放牧されている割合が少ない傾向が認められました。多重ロジスティック回帰分析(Multiple logistic regression analysis)の結果によれば、飼料の50%以上がアルファルファである場合、飼料の50%以下が青草もしくは燕麦乾草である場合、日常的な牧草地への放牧が行われていない場合などには、腸結石を発症している可能性が三倍~四倍以上も高くなることが示唆され(オッズ比:2.7~4.7)、これらが馬の腸結石症における重要な危険因子であることが示唆されました。
アルファルファの給餌量が多いほど、腸結石の発症率が高くなる傾向は、他の文献でも報告されており、この要因としては、(1)マグネシウム含有量の高いアルファルファ飼料は結石成分の供給源となること、(2)アルファルファ飼料は結腸内環境をアルカリ化する作用(Alkalization)が強いこと、(3)蛋白含量の高いアルファルファ飼料はマグネシウム吸収(Magnesium absorption)を阻害しやすいこと、などが挙げられています。このため、この研究では、アルファルファの給餌量を減らして、かわりに青草や燕麦乾草の給餌量を増やすことで、腸結石の発症防止や再発予防の効果が期待できると考察されています。
日常的な牧草地への放牧が行われていないほど、腸結石の発症率が高くなる傾向も、他の文献においても報告されており、この要因としては、(1)運動不足によって飼料の貯留時間(Ingesta retention time)が長くなること、(2)運動不足によって粗飼料の消化性(Dry matter digestibility)が減退すること、(3)飲水量(Water intake)が減ったり飼料を短時間で食べ終える場合が多いので、放牧時間の長い馬において見られる摂食したアルファルファの希釈効果(Dilution effects on consumed alfalfa)が低くなること、などが挙げられています。このため、この研究では、牧草地への放牧の回数や時間を増やすことで、腸結石の発症防止や再発予防の効果が期待できると考察されています。
この研究では、アラビアン純血種および混血種は、腸結石症馬の36%、対照疝痛馬の27%を占め、その割合に有意差は認められず、アラビアン品種であること自体は、腸結石の危険因子ではないことが示唆されました。この研究における対照疝痛馬は、開腹術(Celiotomy)または腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)によって腸結石が除外診断された症例のみ抽出されています。一般的に、軽度の間欠性疝痛(Mild intermittent colic)を呈したアラビアン品種は、他の品種よりも積極的にレントゲン検査が行われる傾向にあると予測され、この研究における対照疝痛馬には、全疝痛馬から無作為に対照馬を抽出した場合よりも、アラビアン品種が多い偏向(Bias)にあった可能性がある、という考察がなされています。
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