馬の文献:腸結石症(Hassel et al. 2009)
文献 - 2015年10月27日 (火)
「腸結石症の罹患馬において飼料および飲水が大腸pHおよび鉱質組成に及ぼす影響」
Hassel DM, Spier SJ, Aldridge BM, Watnick M, Argenzio RA, Snyder JR. Influence of diet and water supply on mineral content and pH within the large intestine of horses with enterolithiasis. Vet J. 2009; 182(1): 44-49.
この研究論文では、腸結石症(Enterolithiasis)の罹患馬と正常馬における、大腸pHおよび鉱質組成(Large intestinal pH and mineral content)の違い、および飼料&飲水の変化がその大腸pHや鉱質組成に及ぼす影響を評価するため、三頭の腸結石症の罹患馬と三頭の正常馬に対して、右背側大結腸(Right dorsal colon)に外科的な瘻孔形成(Surgical fistulation)を施して、一定量のアルファルファ、青草、浄化軟化水(Filtered/Softened water)の給餌によって、腸内容物に生じる組成変化の解析が行われました。
結果としては、アルファルファが給餌された場合には、青草が給餌された場合に比べて、有意に高いpHが認められ、また、マグネシウムおよびカルシウムの含有量は有意に高く、カリウムおよびナトリウムの含有量は有意に低かったことが示されました。このため、アルファルファ飼料の摂食によって、大結腸内環境のアルカリ化(Alkalization)と、結石成分となるマグネシウム濃度の上昇が起こるという定説が証明され、アルファルファ給餌と馬の腸結石症の因果関係を強く示唆する結果が示されました。
アルファルファ飼料が、大結腸内環境のアルカリ化を起こす理由としては、(1)アルファルファが高い代謝緩衝作用(High metabolic buffering capacity)を有すること、(2)繊維質の少ないアルファルファの消化時には結腸内の主要な陰イオンとなる短鎖脂肪酸(Short chain fatty acids)の生成量が少ないこと、(3)低濃度の短鎖脂肪酸によってナトリウム・水素置換(Sodium/hydrogen exchanger)が妨げられること、などが挙げられています。このため、この研究では、アルファルファの給餌量を減らして、かわりに青草の給餌量を増やすことで、大結腸内のpH、マグネシウム濃度、カルシウムの濃度などを低下させて、腸結石の発症&再発の予防効果が期待できると考察されています。
この研究では、腸結石症馬および正常馬の双方に対して、同量のアルファルファ&青草を給餌した場合にも、腸結石症馬の腸内容物ほうが、有意に高いpH、マグネシウム含有量、カルシウム含有量、リン含有量を示しました。このため、腸結石症の罹患馬は非罹患馬に比べて、例え飼料が全く同じであっても、結石形成に適した結腸内環境を生じ易いことが分かり、腸結石症の発現には、アルファルファ給餌に加えて、遺伝性素因(Genetic predisposition)や細菌叢(Bacterial flora)などの、他の因子が関与するというこれまでの仮説が裏付けられました。
この論文では、各郡のサンプル数が三頭と少なく、データ解析に際して、品種、年齢、家系などを考慮することは出来ませんでした。他の文献では、腸結石症の罹患馬の約一割において、その兄弟(Siblings)にも腸結石の発症が確認されていることから、腸結石症における遺伝性素因の関与が示唆されると共に、今後は、腸結石症の危険が高い個体(High risk individuals)を生じ易い家系を発見したり、腸結石症の原因遺伝子を特定する研究が有効であると考えられました。
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この研究論文では、腸結石症(Enterolithiasis)の罹患馬と正常馬における、大腸pHおよび鉱質組成(Large intestinal pH and mineral content)の違い、および飼料&飲水の変化がその大腸pHや鉱質組成に及ぼす影響を評価するため、三頭の腸結石症の罹患馬と三頭の正常馬に対して、右背側大結腸(Right dorsal colon)に外科的な瘻孔形成(Surgical fistulation)を施して、一定量のアルファルファ、青草、浄化軟化水(Filtered/Softened water)の給餌によって、腸内容物に生じる組成変化の解析が行われました。
結果としては、アルファルファが給餌された場合には、青草が給餌された場合に比べて、有意に高いpHが認められ、また、マグネシウムおよびカルシウムの含有量は有意に高く、カリウムおよびナトリウムの含有量は有意に低かったことが示されました。このため、アルファルファ飼料の摂食によって、大結腸内環境のアルカリ化(Alkalization)と、結石成分となるマグネシウム濃度の上昇が起こるという定説が証明され、アルファルファ給餌と馬の腸結石症の因果関係を強く示唆する結果が示されました。
アルファルファ飼料が、大結腸内環境のアルカリ化を起こす理由としては、(1)アルファルファが高い代謝緩衝作用(High metabolic buffering capacity)を有すること、(2)繊維質の少ないアルファルファの消化時には結腸内の主要な陰イオンとなる短鎖脂肪酸(Short chain fatty acids)の生成量が少ないこと、(3)低濃度の短鎖脂肪酸によってナトリウム・水素置換(Sodium/hydrogen exchanger)が妨げられること、などが挙げられています。このため、この研究では、アルファルファの給餌量を減らして、かわりに青草の給餌量を増やすことで、大結腸内のpH、マグネシウム濃度、カルシウムの濃度などを低下させて、腸結石の発症&再発の予防効果が期待できると考察されています。
この研究では、腸結石症馬および正常馬の双方に対して、同量のアルファルファ&青草を給餌した場合にも、腸結石症馬の腸内容物ほうが、有意に高いpH、マグネシウム含有量、カルシウム含有量、リン含有量を示しました。このため、腸結石症の罹患馬は非罹患馬に比べて、例え飼料が全く同じであっても、結石形成に適した結腸内環境を生じ易いことが分かり、腸結石症の発現には、アルファルファ給餌に加えて、遺伝性素因(Genetic predisposition)や細菌叢(Bacterial flora)などの、他の因子が関与するというこれまでの仮説が裏付けられました。
この論文では、各郡のサンプル数が三頭と少なく、データ解析に際して、品種、年齢、家系などを考慮することは出来ませんでした。他の文献では、腸結石症の罹患馬の約一割において、その兄弟(Siblings)にも腸結石の発症が確認されていることから、腸結石症における遺伝性素因の関与が示唆されると共に、今後は、腸結石症の危険が高い個体(High risk individuals)を生じ易い家系を発見したり、腸結石症の原因遺伝子を特定する研究が有効であると考えられました。
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