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馬の文献:腸結石症(Pierce et al. 2010)

Blog_Litr0114_Pict03_#08

「馬の上行結腸または下行結腸に生じた腸結石の摘出後における合併症および生存率」
Pierce RL, Fischer AT, Rohrbach BW, Klohnen A. Postoperative complications and survival after enterolith removal from the ascending or descending colon in horses. Vet Surg. 2010; 39(5): 609-615.

この症例論文では、腸結石症(Enterolithiasis)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1999~2005年にかけて、大結腸(Large colon)(=上行結腸:Ascending colon)または小結腸(Small colon)(=下行結腸:Descending colon)に腸結石を生じて、開腹術(Celiotomy)による治療が選択された236頭の患馬の(大結腸結石:139頭、小結腸結石:97頭)、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、大結腸の結石症を呈した139頭の患馬では、退院したのは94%(130/139頭)で、術後合併症(Post-operative complication)を起こしたのは55%(75/136頭)であったのに対して(術前&術中に安楽死された三頭を除く)、小結腸の結石症を呈した97頭の患馬では、退院したのは88%(85/97頭)で、術後合併症を起こしたのは57%(50/88頭)であったことが示されました(術前&術中に安楽死された九頭を除く)。また、経過追跡(Follow-up)ができた馬を見ると、術後の一年以上にわたって生存したのは、大結腸の結石症では89%(79/83頭)、小結腸の結石症では85%(62/73頭)でしたが、退院後の合併症の発症率には顕著な差は認められませんでした。このため、馬の腸結石症においては、短期&長期生存率(Short/Long-term survival rate)および合併症の発症率(Incidence)は、結石の発見箇所とは有意には相関しておらず、いずれの場合にも、結石の外科的除去(Surgical removal)によって比較的に良好な予後が達成され、長期生存を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。

この論文では、小結腸の結石症を呈した患馬の合併症を見ると、食欲不振(Anorexia)の発症率(大結腸の結石症:17% v.s. 小結腸の結石症:28%)、および、発熱(Fever)の発症率(大結腸の結石症:6% v.s. 小結腸の結石症:16%)が、いずれも大結腸の結石症を呈した患馬よりも、有意に高い傾向にありました。この潜在的原因(Potential causes)としては、大結腸の結石症に比べて、小結腸の結石症のほうが、より重篤な粘膜損傷(Mucosal damage)と、それに伴う内毒素血症(Endotoxemia)を呈したことが挙げられています。一方、最も多く見られた術後合併症は下痢(Diarrhea)で、大結腸の結石症では20%の発症率、小結腸の結石症では26%の発症率が示されました(両郡のあいだに有意差は無し)。この潜在的原因としては、結石が腸管壁を圧迫することによる損傷や炎症(Trauma/Inflammation of intestinal wall)、外科的侵襲による医原性腸壁損傷(Iatrogenic intestinal damage)などが挙げられています。

この論文では、結石摘出の術式を見ると、大結腸の結石症では、98%が右背側大結腸(Right dorsal colon)の切開部、残りの2%は骨盤曲(Pelvic flexure enterotomy)の切開部から摘出されたのに対して、小結腸の結石症では、82%が小結腸の切開部、7%が骨盤曲の切開部、6%が骨盤曲の切開部から摘出されました。一般的に、馬の腸結石の摘出術では、小結腸の切開術のほうが、腹腔汚染(Abdominal contamination)に至る危険性が高く、術後に腹膜炎(Peritonitis)を引き起こし易いことが知られていますが、この論文における腹膜炎の発症率は、大結腸の結石(2%)および小結腸の結石(1%)のいずれも、非常に低かったことが報告されています。また、他の文献では、部分層的腱切離術(Partial thickness teniotomy)を応用することで、結石をより摘出しやすい箇所に移動させる手法も試みられています(Hassel et al. Vet Surg. 1998;27:1)。

この論文では、調査期間中に来院した1105頭の全ての疝痛症例のうち、腸結石症の罹患馬は21%(236頭)を占めており、五頭に一頭の疝痛馬は腸結石が原因であったことが示されました。これはカリフォルニア州という、腸結石を発症しやすい地域性が関与した可能性がある、と推測されています。一方、この論文では、236頭の腸結石の罹患馬のうち、アラビアン種が36%、モルガン種が8%を占めていましたが、これらの品種が全ての来院症例に占める割合は、アラビアン種では11%、モルガン種では2%と、他の品種よりも低い傾向にあり、この二種類の品種において、腸結石症の有病率(Prevalence)が有意に高いことが示唆されました。

この論文では、手術までの疝痛経過時間を見ると、大結腸の結石症では平均六日半であったのに対して、小結腸の結石症では平均23時間と有意に短く、また、頻脈(Tachycardia: >60bpm)を示した症例の割合も、大結腸の結石症では12%であったのに対して、小結腸の結石症では56%に達していました。これは、大結腸よりも内腔の狭い小結腸では、結石による完全閉塞(Complete obstruction)や腸管膨満(Intestinal distension)を生じ易く、より急性発現性(Acute onset)および重度の疼痛症状を引き起こしたためと推測されています。

この論文では、術前に腹腔レントゲン検査(Abdominal radiography)によって腸結石が発見された馬の割合は、大結腸の結石症では77%であったのに対して、小結腸の結石症では61%とやや低い傾向にありました。これは、腸管内にガス貯留が少なく、結石の周辺に糞塊がある場合が多い小結腸では、レントゲン像上での腸結石の診断が難しかった場合が多いためと考えられています。

この論文では、腸結石の罹患馬の38%において胃潰瘍(Gastric ulceration)の合併症が認められましたが、これは腸結石摘出術の結果ではなく、術前から既に起きていたものと推測されています。他の文献では、牧草地への放牧時間が少なかったり、一日の時間の50%以上を馬房で過ごす馬において、腸結石症を生じる危険性が高いことが報告されており(Hassel et al. JAVMA. 1999;214:233, Cohen et al. JAVMA. 2000;216:1787)、この論文で示された、高い胃潰瘍の有病率は、このような元々の管理法に起因する可能性が高い、という考察がなされています。

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