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馬の文献:小結腸便秘(Ruggles et al. 1991)

「馬の小結腸便秘の内科的および外科的治療:1984~1989年の28症例」
Ruggles AJ, Ross MW. Medical and surgical management of small-colon impaction in horses: 28 cases (1984-1989). J Am Vet Med Assoc. 1991; 199(12): 1762-1766.

この症例論文では、馬の小結腸便秘(Small colon impaction)に対する内科的および外科的療法(Medical and surgical management)の治療効果を評価するため、1984~1989年における28頭の小結腸便秘の罹患馬の診療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究における内科的療法では(28頭中の10頭)、生食、緩下剤、潤滑剤などの経鼻胃カテーテル投与(Nasogastric tube administration of saline/laxatives/lubricants)、および経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)が実施されました。一方、外科的療法では(28頭中の18頭)、正中開腹術(Midline celiotomy)によるアプローチ後、経直腸ホースから温水を導入しながらの便秘部位マッサージが行われ、必要に応じて、小結腸の切除および吻合術(Small colon resection/anastomosis)や、骨盤曲結腸切開術(Pelvic flexure enterotomy)による腸内容物の排出が実施されました。

結果としては、内科治療馬における入院時の疝痛継続時間(Colic duration at admission)は、平均20時間であったのに対して、外科治療馬における入院時の疝痛継続時間は、平均42時間であったことが示されました。また、内科的治療が応用された馬では、100%の短期生存率(Short-term survival rate)が達成され、外科的治療が応用された馬においても、78%の短期生存率が示されました。これは、疼痛症状の発現(Onset of abdominal pain)から短時間で来院&治療を開始することで、手術を回避して、早期治癒が可能であることを示唆しており、また、病態が悪化した患馬においても、積極的な外科治療によって比較的に良好な予後が期待できるという考察がなされています。

この研究では、外科治療馬の78%(14/18頭)において腹部膨満(Abdominal distension)が認められたのに対して、内科治療馬では30%(3/10頭)のみにおいて腹部膨満が示されました。これは、便秘部位の硬化および完全閉塞(Complete obstruction)から、大結腸内へのガス貯留を生じたためと考えられ、腹部膨満の症状を呈した患馬は内科的治療に不応性(Refractory)を示すという予後判定(Prognostication)を下して、早期の開腹術に踏み切るという治療選択方針が推奨されています。

この研究では、内科治療馬の入院期間は平均6.4日であったのに対して、外科治療馬の入院期間は平均11.4日と有意に長かったことが報告されています。これは、開腹術を実施することのマイナス面と言うよりも、外科的治療を要するほど病態が悪化した馬では、より長期間および集中的な術後ケア(Prolonged or more intensive post-operative care)が必要であったことを示すデータであると考察されています。

この研究では、18頭の外科治療馬のうち、11頭(61%)において下痢(Diarrhea)の術後合併症(Post-operative complication)が認められ、このうち四頭において、糞便培養(Fecal culture)によってサルモネラ属菌(Salmonella spp)が分離されました。小結腸では、腸管内の細菌濃度(Bacterial concentration)が高く、また、硬い糞塊が通過することから、他の消化管部位よりも腸内膜への刺激作用(Irritation)を生じやすく、このことが、小結腸便秘の罹患馬において、サルモネラ症(Salmonellosis)を併発しやすい要因であると推測されています。このため、小結腸疾患で開腹術が応用される症例においては、サルモネラ症の危険を考慮して、全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)を併用したり、慎重な糞便検査によるサルモネラ感染のモニタリングを介して、他の入院馬への院内感染(Nosocomial infection)の予防に努めることが重要であると考えられました。

この研究では、28頭の小結腸便秘の罹患馬のうち、20頭が十月~四月に来院しており、秋季および冬季に小結腸便秘が好発しやすい傾向が認められました。これは、気温の低下に伴って飲水量が減少(Decreased water intake)することに起因すると考えられていますが、冬季における飼料の質の悪化(Diminished hay quality)も素因となる可能性も論じられています。

この研究では、28頭の小結腸便秘の罹患馬のうち、17頭において直腸検査(Rectal palpation)による便秘部位の触知が可能でしたが、多くの症例では、多量の糞塊の貯留のため、他の消化管部位の触診は困難であったことが報告されています。また、糞石(Fecaliths)、腸結石(Enterolith)、異物(Foreign body)などに起因する小結腸便秘では、便秘を起こしている腸管部位の長さが短かった場合でも、比較的に重篤な通過障害を生じやすいことから、直腸検査による推定診断が難しい症例も多いと考察されています。

この研究において、小結腸便秘の罹患馬に多く見られた臨床症状としては、排糞の減退または停滞(Lacking/Reduced manure production)(=28/28頭)、疝痛症状(Colic sign)(=26/28頭)、腸蠕動音の減退または停滞(Lacking/Reduced borborygmi)(=21/28頭)、腹部膨満(=17/28頭)などが挙げられました。しかし、これらは他の結腸疾患でも認められ、いずれも小結腸便秘に特異的な症状(Pathognomonic signs)ではないため、やはり、小結腸便秘の推定診断のためには、直腸検査による便秘部位の触診を要すると考えられました。また、この研究では、28頭のうち17頭において腹水検査(Abdominocentesis)が実施され、蛋白濃度や白血球数の上昇は一頭も認められませんでしたが、腹水検査の正常値のみで小結腸&大結腸疾患の鑑別診断を行うのは必ずしも適当ではないかもしれません。

小結腸便秘の治療においては、古典的には起立位浣腸(Standing-position enema)によって、停滞した腸内容物の遊離を促す療法も試みられてきました。しかし、その治療効果は決して高いとは言えず、また、腸壁の虚血(Ischemia)および劣化を呈した症例においては、浣腸液注入による腸内圧上昇(Increased luminal pressure)から、致死的な小結腸破裂(Fatal small colon rupture)および重度腹腔汚染(Severe abdominal contamination)を引き起こす危険もあることから、その実施は推奨されていません。

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