馬の文献:小結腸便秘(Dart et al. 1992)
文献 - 2015年10月28日 (水)

「馬の小結腸に起こる疾患:1979~1989年の102症例」
Dart AJ, Snyder JR, Pascoe JR, Farver TB, Galuppo LD. Abnormal conditions of the equine descending (small) colon: 102 cases (1979-1989). J Am Vet Med Assoc. 1992; 200(7): 971-978.
この症例論文では、馬の小結腸(Small colon)に起こる疾患の傾向、分布、発症率(Incidence)、およびその病因(Predisposing factors)を発見するため、1979~1989年における102頭の小結腸疾患の罹患馬の診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、馬の小結腸疾患のうち、腸結石(Enterolith)が35%、便秘症(Impaction)が34%を占めており、小結腸の異常が疑われた症例では、まずこの二つの病気を考慮することが重要であると考えられました。また、その他の疾患としては、絞扼性脂肪腫(Strangulating lipoma)が11%、糞石(Fecalith)が7%、異物による通過障害(Foreign body obstruction)が2%、小結腸捻転(Small colon volvulus)が2%、小結腸の腎脾間捕捉(Nepthsplenic entrapment)が2%、などとなっていました。
小結腸における腸結石症は、アラビアン品種に好発し、五歳齢以下の馬における発症率は有意に低いことが示されました。一方、小結腸における便秘症および絞扼性脂肪腫は、高齢な馬に好発する傾向が認められ、十歳齢以下の馬における発症率は有意に低いことが示されました。これらの好発品種および好発年齢は、直腸検査(Rectal examination)による確定診断(Definitive diagnosis)が困難であった症例において、小結腸疾患の鑑別診断に有用である場合もあると考えられます。
この研究では、102頭の小結腸疾患の罹患馬のうち、内科的治療が応用されたのは15頭(15%)で、これらの患馬はすべて良好な予後を示して、100%の短期生存率(Short-term survival rate)が達成されました。一方、外科的治療が応用されたのは87頭(85%)で、これらの患馬の16%において脈管性不全(Vascular compromise)が認められ、外科治療馬の短期生存率は91%であったことが示されました。このため、一般的に馬の小結腸疾患では、病態が悪化した症例においても、積極的な外科的治療によって、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、絞扼性脂肪腫を発症した馬、および脈管性不全を起こした馬において、腹水検査(Abdominocentesis)における白血球数および蛋白濃度が有意に高い傾向が認められ、また、脈管性不全を起こした馬では、直腸検査によって病変部位を触知できる確立が有意に高いことが示されました。このため、重篤な小結腸が疑われる症例においては、慎重な直腸検査および腹水検査の所見に基づいて、外科的治療の必要性を判断する方針が有効であると考えられました。
この研究では、牝馬(Mare)のほうが種牡馬(Stallion)や虚勢馬(Gelding)に比べて、有意に小結腸疾患を起こしやすい傾向が認められ、また、小結腸便秘の発症率も、牝馬のほうが種牡馬や虚勢馬よりも高い傾向が見られましたが、なぜ性別の違いがこれらの小結腸疾患の素因になるかについては結論付けられていません。
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