馬の文献:小結腸便秘(Rhoads et al. 1999)
文献 - 2015年10月29日 (木)
「馬の小結腸便秘における内科的および外科的治療の比較:1986~1996年の84症例」
Rhoads WS, Barton MH, Parks AH. Comparison of medical and surgical treatment for impaction of the small colon in horses: 84 cases (1986-1996). J Am Vet Med Assoc. 1999; 214(7): 1042-1047.
この症例論文では、馬の小結腸便秘(Small colon impaction)における内科的および外科的療法の治療効果を比較するため、1986~1996年における84頭の小結腸便秘の罹患馬の診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究では、一般的に、内科治療に不応性(Refractory)を示す症例、および重篤な腹部膨満(Marked abdominal distension)が見られた症例において、正中開腹術(Midline celiotomy)による外科的治療が選択されました。
この研究における内科的療法では(47/84頭)、生食および緩下剤の経鼻胃カテーテル投与(Nasogastric tube administration of saline/laxatives)、経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)、サルモネラ抗血清(Salmonella antiserum)の投与などが実施されました。一方、外科的療法では(37/84頭)、経直腸ホースから温水を導入しながらの便秘部位マッサージ、小結腸切開術(Small colon enterotomy)による直接的な便秘物の遊離、骨盤曲結腸切開術(Pelvic flexure enterotomy)による腸内容物の排出などが実施されました。
結果としては、内科的治療が応用された患馬では、87%の短期生存率(Short-term survival rate)(=退院)と、73%の長期生存率(Long-term survival rate)(=退院後一年以上生存)が示されたのに対し、外科的治療が応用された患馬では、86%の短期生存率と、75%の長期生存率が認められました。このことから、馬の小結腸便秘では、内科的および外科的療法の両方において、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、外科治療馬の入院期間(平均10.7日)は、内科治療馬の入院期間(平均7,2日)よりも長い傾向を示し、また、入院期間中に最も多く見られた合併症は下痢症状で、この症状は内科治療馬では36%、外科治療馬では70%に見られました。また、外科治療馬では、14%で小結腸便秘の再発(Recurrence)、8%で蹄葉炎(Laminitis)、8%で術創感染(Incisional infection)、5%で頚静脈の血栓性静脈炎(Jugular vein thrombophlebitis)などの、かなり重篤な術後合併症(Post-operative complication)の続発も認められました。このことから、開腹術を要するほど病態の悪化した小結腸便秘の患馬においては、治療の長期化や合併症を引き起こす危険が高いことが示唆されました。
この研究では、84頭の小結腸便秘の罹患馬のうち、61頭(73%)が九月~二月に来院しており、馬の小結腸便秘が秋季から冬季にかけて有意に好発しやすい事が示されました。他の文献によれば、このような季節性が見られる原因としては、気温の低下による飲水量の減少(Decreased water intake)や、冬季における飼料の質の悪化(Diminished hay quality)などが関与すると推測されています。
この研究では、84頭の小結腸便秘の罹患馬のうち、70頭(87%)において直腸検査(Rectal palpation)による便秘部位の触知が可能であったため、小結腸便秘の推定診断に有用な手法であることが示されました。しかし、直腸検査においては、浮腫性の直腸粘膜(Edematous rectal mucosa)、糞便や直検スリーブへの血液付着、軽度(グレード1)の直腸裂傷(Rectal tear)なども観察されたことから、特に経過の長引いた症例においては、直腸壁を傷付けないように慎重に直腸検査を実施することが大切である、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、糞便培養(Fecal culture)においてサルモネラ属菌が分離されたのは、内科治療馬では8%、外科治療馬では43%であったことが報告されており、小結腸便秘にはサルモネラ症(Salmonellosis)が併発しやすいことが示唆されました。また、これらの馬の中には、下痢症状は見られなかったものの、発熱や白血球数減少などの大腸炎(Colitis)の兆候を示した患馬も見られました。このことから、小結腸の便秘が確認された馬では、必ず糞便培養を実施して、サルモネラ感染のモニタリングを行うことで、他の飼養馬や入院馬への院内感染(Nosocomial infection)を防ぐ処置が重要であるという考察がなされています。
この研究では、外科治療馬における開腹術時には、32%で大結腸膨満(Large colon distension)、19%で大結腸変位(Large colon displacement)、16%で大結腸便秘(Large colon impaction)、8%で大結腸捻転(Large colon volvulus)などの併発が認められましたが、これらが小結腸便秘の原因なのか二次性病態なのかの特定は難しいと考えられます。しかし、開腹術を要するほど症状の悪化した小結腸便秘の罹患馬では、他の大結腸疾患が併発している可能性を考慮して、十分な追加検査(腹水検査や腹部超音波検査など)を実施し、慎重な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考察されています。
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この症例論文では、馬の小結腸便秘(Small colon impaction)における内科的および外科的療法の治療効果を比較するため、1986~1996年における84頭の小結腸便秘の罹患馬の診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究では、一般的に、内科治療に不応性(Refractory)を示す症例、および重篤な腹部膨満(Marked abdominal distension)が見られた症例において、正中開腹術(Midline celiotomy)による外科的治療が選択されました。
この研究における内科的療法では(47/84頭)、生食および緩下剤の経鼻胃カテーテル投与(Nasogastric tube administration of saline/laxatives)、経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)、サルモネラ抗血清(Salmonella antiserum)の投与などが実施されました。一方、外科的療法では(37/84頭)、経直腸ホースから温水を導入しながらの便秘部位マッサージ、小結腸切開術(Small colon enterotomy)による直接的な便秘物の遊離、骨盤曲結腸切開術(Pelvic flexure enterotomy)による腸内容物の排出などが実施されました。
結果としては、内科的治療が応用された患馬では、87%の短期生存率(Short-term survival rate)(=退院)と、73%の長期生存率(Long-term survival rate)(=退院後一年以上生存)が示されたのに対し、外科的治療が応用された患馬では、86%の短期生存率と、75%の長期生存率が認められました。このことから、馬の小結腸便秘では、内科的および外科的療法の両方において、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、外科治療馬の入院期間(平均10.7日)は、内科治療馬の入院期間(平均7,2日)よりも長い傾向を示し、また、入院期間中に最も多く見られた合併症は下痢症状で、この症状は内科治療馬では36%、外科治療馬では70%に見られました。また、外科治療馬では、14%で小結腸便秘の再発(Recurrence)、8%で蹄葉炎(Laminitis)、8%で術創感染(Incisional infection)、5%で頚静脈の血栓性静脈炎(Jugular vein thrombophlebitis)などの、かなり重篤な術後合併症(Post-operative complication)の続発も認められました。このことから、開腹術を要するほど病態の悪化した小結腸便秘の患馬においては、治療の長期化や合併症を引き起こす危険が高いことが示唆されました。
この研究では、84頭の小結腸便秘の罹患馬のうち、61頭(73%)が九月~二月に来院しており、馬の小結腸便秘が秋季から冬季にかけて有意に好発しやすい事が示されました。他の文献によれば、このような季節性が見られる原因としては、気温の低下による飲水量の減少(Decreased water intake)や、冬季における飼料の質の悪化(Diminished hay quality)などが関与すると推測されています。
この研究では、84頭の小結腸便秘の罹患馬のうち、70頭(87%)において直腸検査(Rectal palpation)による便秘部位の触知が可能であったため、小結腸便秘の推定診断に有用な手法であることが示されました。しかし、直腸検査においては、浮腫性の直腸粘膜(Edematous rectal mucosa)、糞便や直検スリーブへの血液付着、軽度(グレード1)の直腸裂傷(Rectal tear)なども観察されたことから、特に経過の長引いた症例においては、直腸壁を傷付けないように慎重に直腸検査を実施することが大切である、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、糞便培養(Fecal culture)においてサルモネラ属菌が分離されたのは、内科治療馬では8%、外科治療馬では43%であったことが報告されており、小結腸便秘にはサルモネラ症(Salmonellosis)が併発しやすいことが示唆されました。また、これらの馬の中には、下痢症状は見られなかったものの、発熱や白血球数減少などの大腸炎(Colitis)の兆候を示した患馬も見られました。このことから、小結腸の便秘が確認された馬では、必ず糞便培養を実施して、サルモネラ感染のモニタリングを行うことで、他の飼養馬や入院馬への院内感染(Nosocomial infection)を防ぐ処置が重要であるという考察がなされています。
この研究では、外科治療馬における開腹術時には、32%で大結腸膨満(Large colon distension)、19%で大結腸変位(Large colon displacement)、16%で大結腸便秘(Large colon impaction)、8%で大結腸捻転(Large colon volvulus)などの併発が認められましたが、これらが小結腸便秘の原因なのか二次性病態なのかの特定は難しいと考えられます。しかし、開腹術を要するほど症状の悪化した小結腸便秘の罹患馬では、他の大結腸疾患が併発している可能性を考慮して、十分な追加検査(腹水検査や腹部超音波検査など)を実施し、慎重な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考察されています。
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