馬の文献:小結腸便秘(Frederico et al. 2006)
文献 - 2015年10月29日 (木)

「馬の小結腸便秘の罹患素因と内科的および外科的治療結果:1999~2004年の44症例」
Frederico LM, Jones SL, Blikslager AT. Predisposing factors for small colon impaction in horses and outcome of medical and surgical treatment: 44 cases (1999-2004). J Am Vet Med Assoc. 2006; 229(10): 1612-1616.
この症例論文では、馬の小結腸便秘(Small colon impaction)の罹患素因(Predisposing factors)の発見と、内科的および外科的療法の治療効果の評価を目的として、1999~2004年における44頭の小結腸便秘の罹患馬の診療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。また、対照郡として、大結腸便秘(Large colon impaction)の罹患馬の診療記録の解析、および小結腸便秘との比較も試みられました。
結果としては、小結腸便秘の罹患馬のうち、内科的治療が応用された患馬(23/44頭)では、91%の短期生存率(Short-term survival rate)(=退院)と、91%の長期生存率(Long-term survival rate)(=退院後一年以上生存)が認められました。一方、小結腸便秘の罹患馬のうち、外科的治療が応用された患馬(21/44頭)では、95%の短期生存率と、90%の長期生存率が認められました。このことから、馬の小結腸便秘では、内科的および外科的療法の両方において、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、小結腸便秘の罹患馬のうち41%が下痢(Diarrhea)の症状を示したのに対して、大結腸便秘の罹患馬で下痢症状を示したのは9%に過ぎなかったため、入院時に下痢を呈していた場合には、小結腸便秘を発症している可能性が十倍以上も高くなることが示唆されました(オッズ比:10.8)。これらの下痢プラス小結腸便秘を呈した患馬では、その殆どにおいて、来院前の初診時には下痢症状のみが確認され、小結腸便秘の診断は入院後に下されました。このことから、下痢症状の原因である大腸炎(Colitis)から、小結腸へと粘膜炎症(Mucosal inflammation)および蠕動異常(Motility disorder)が波及して、小結腸便秘に至ったという病因論(Etiology)が提唱されており、下痢が小結腸便秘の重要な罹患素因であるという考察がなされています。
この研究では、直腸検査(Rectal examination)で推定診断が下されたのは、小結腸便秘の罹患馬では80%、大結腸便秘の罹患馬では87%に及びました。このため、直腸検査による便秘部位の触知が、小結腸便秘と大結腸便秘の鑑別診断に有用であると推測され、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)などの他の診断法を要する症例は少ないと考察されています。
この研究では、小結腸便秘の罹患馬のうち、腹部膨満(Abdominal distension)が認められたのは、外科治療馬では24%(5/21頭)、内科治療馬の4%(1/23頭)であったことが示され、腹部膨満の症状を呈した小結腸便秘の罹患馬では、開腹術を要する可能性が五倍以上も高くなることが示唆されました(オッズ比:5.2)。一般的に、便秘箇所における腸内容物の硬化に伴い、小結腸の完全閉塞(Complete obstruction)を引き起こした症例では、腸管内へのガス貯留から腹部膨満に至ると考えられるため、この腹部膨満の症状に基づいて、内科的治療には不応性(Refractory)であろうという予後判定(Prognostication)を下して、外科的治療を早期に選択するという診療方針が提唱されています。
この研究では、小結腸便秘の治癒に要した時間は、外科治療馬では平均45時間、内科治療馬では平均54時間であったことから、開腹術を介しての便秘部位の直接的な整復によって、治癒時間の短縮が達成できることが示されました。しかし、入院期間は外科治療馬(平均9.0日)のほうが内科治療馬(平均7.6日)よりも長く、また、入院費も外科治療馬(平均5000 ドル)のほうが内科治療馬(平均1700 ドル)よりも高額であったことから、開腹術を要するほど病態が悪化した患馬では、より集中的で長期間におよぶ術後ケア(Intensive/Prolonged post-operative care)が必要になる場合が多いことが示唆されました。
この研究では、小結腸便秘の罹患馬のうち、糞便培養(Fecal culture)でサルモネラ属菌が分離されたのは9%に過ぎず、他の文献で示されているような、小結腸便秘によってサルモネラ感染の危険が高まる傾向は確認されませんでした。しかし、これは重度の小結腸便秘にはサルモネラ症が併発するという知見が広まった結果、軽度の病態を含む多くの小結腸便秘の症例において糞便検査が実施されたため、見かけ上のサルモネラ菌の陽性率が低下したためと考えられました。
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