馬の病気:大結腸捻転
馬の消化器病 - 2013年04月30日 (火)

大結腸捻転(Large colon volvulus)について。
大結腸が、その胸骨曲(Sternal flexure)または左側結腸部で捻れを生じる疾患で、腹側大結腸へのガス停滞(Gas accumulation)が病因となると考えられています。また、出産後の繁殖牝馬(Post-parturient broodmare)に発症が多いことが報告されており、腹腔内に占める子宮の容積が急激に変化することで、大結腸の可動域が増加することが素因として挙げられていますが、その発症機序(Etiologic mechanism)はハッキリとは特定されていません。一方、飼料の変更(Dietary changes)や青草の急激な摂食が危険因子(Risk factors)になるという報告もあります。
大結腸捻転の症状としては、急性発現性(Acute onset)の重度~劇的な疝痛症状(Severe to unrelenting colic)を呈し、捻転が270°以上に達した場合には、大結腸絞扼(Large colon strangulation)による重篤な腹腔膨満(Marked abdominal distension)と、それに続発する横隔膜圧迫(Diaphragm compression)から、呼吸困難(Compromised respiration)を示すこともあります。また、病状の進行に伴って、脱水(Dehydration)や内毒素血症(Endotoxemia)を示す頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、毛細血管再充満時間の遅延(Prolonged capillary refilling time)などが認められますが、迷走神経緊張(Increased vagal tone)に起因して、心拍数は顕著に上昇しない症例もあります。しかし、大結腸捻転による重度の膨満(Severe distension)から腹腔区画症候群(Abdominal compartment syndrome)に陥ると、循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)によって、数時間以内に死に至る場合もあります。
大結腸捻転の診断においては、直腸検査(Rectal palpation)では、重度のガス性膨満(Gas distension)を起こした大結腸が触知され、骨盤縁(Pelvic brim)より頭側腹腔部位の触診が困難であることが一般的です。しかし、腹側結腸が背側に回ってきているなどの捻転を直接的に示唆する異常所見が確認されることはあまり多くなく、結腸便秘(Large colon impaction)、大結腸の左背方および右背方変位(Left/Right dorsal displacement of large colon)等の、類似疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が明確には下せないこともあります。また、腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)では、結腸のガス性膨満および腸壁の浮腫と肥厚化(Intestinal wall edema and thickening)が観察される症例もあります。腹水検査(Abdominocentesis)では、蛋白濃度の上昇や白血球数の増加などの異常を示す症例はあまり多くなく、大結腸穿孔(Large colon penetration)の危険を考慮して、大結腸捻転が疑われる症例では、腹水採取の実施はあまり推奨されていません。
大結腸捻転の罹患馬は、鎮静剤投与(Sedative administration)にも不応性(Refractory)の疼痛症状を呈することが殆どで、速やかな外科治療が必要とされます。手術では、正中開腹術(Midline celiotomy)を介して大結腸外置(Large colon exteriorization)を試みますが、重篤な結腸膨満を起こした症例では、針穿刺によるガス吸引や、結腸骨盤曲切開術(Pelvic flexure enterotomy)による腸内容物の除去を要することもあります。その後、盲腸結腸靭帯(Cecocolic ligament)の走行を触診することで捻れの方向を確かめて、その逆向きに結腸を回転させて捻転の整復を行います。整復が完了した後には、盲腸結腸靭帯が真っすぐになり、右背側大結腸(Right dorsal colon)の頭側に十二指腸(Duodenum)が触知できるようになります。
大結腸が正常位置に戻った後には、漿膜面の色(Serosal color)、骨盤曲切開部における粘膜面の色、術中における病理組織検査(Intra-operative histopathologic evaluation)などによる、結腸生存能(Colonic viability)の判定を行うことが重要で、蛍光色素(Fluorescein dye)による血流阻害の判定、ドップラー超音波検査(Doppler ultrasonography)、表面酸素測定(Surface oximetry)、結腸内圧(Colonic luminal pressure)の測定などによる生存能判定も試みられています。罹患部結腸の生存が可能であると判断された場合には、腸紐を腹壁に縫い付ける結腸固定術(Colopexy)によって捻転の再発予防を施してから、腹膜を縫合閉鎖します。しかし、結腸の生存能が無いと判断された症例においては、大結腸切除術(Large colon resection)によって、壊死に至りそうな罹患部位を除去するか、あるいは安楽死(Euthanasia)を選択するかを判断する必要があります。一般的に、盲腸結腸靭帯よりも遠位側(骨盤曲に近い側)において大結腸切除が可能であれば、予後は良いことが知られていますが、そのようなケースは稀で、多くの症例においては、異常を生じた箇所の腸管(Compromised portion of bowel)を切除する事になるため、縫合閉鎖部位の離開(Dehiscence)を生じる危険が高まると考えられています。
大結腸捻転は予後不良を呈することが多く、斃死率は六割~七割であると言われていますが、迅速な外科的治療が実施されれば、八割以上の短期生存率(Short-term survival rate)が達成されたという知見もあります。一般的に、PCVが50%以上、体温が39.5℃以上、心拍数が毎分80回以上を示した症例では、有意に予後が悪いことが知られていますが、腹水検査(Abdominocentesis)の所見は、それほど有用な予後判定指標(Prognostic indicator)にはならないと考えられています。開腹術時に確認された捻転度合いを考慮した場合には、360°以上の捻れが3~4時間続くと不可逆的損傷(Irreversible damage)が起こることが示されており、また、270°捻転なら七割以上である生存率が、360°捻転なら四割以下まで悪化するという報告もあります。報告されている大結腸捻転の再発率(Recurrence rate)は、5%から50%まで様々ですが、特に繁殖牝馬などでは、大結腸捻転を再発する危険を考慮して、再発の予防処置(Preventive aids)を講じることが重要です(青草の過食を防ぐため、放牧時間を制限する、etc)。
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